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最高裁判所第一小法廷 平成7年(あ)1178号 決定 1997年10月24日

本店所在地

東京都渋谷区円山町一〇番八号

株式会社富士エステートアンドプロパティ

右代表者代表取締役

堀口麗子

本籍

東京都新宿区北新宿一丁目四〇五番地

住居

同 千代田区九段南二丁目二番一号 富士九段ビル

会社役員

堀口麗子

昭和一一年一二月一五日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成七年一〇月二五日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人木下良平、同河本仁之の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は本件とは事案を異にして適切でなく、その余は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であり、弁護人鈴木正捷及び同松田義之並びに同高橋庸尚の各上告趣意は、ともに違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

平成七年(あ)第一一七八号

上告趣意書

被告人 株式会社富士エステートアンドプロパティ

同 堀口麗子

右被告人らに対する法人税法違反被告事件につき、弁護人の上告の趣意は、左のとおりである。

平成八年九月三〇日

右主任弁護人 木下良平

弁護人 河本仁之

最高裁判所第一小法廷 御中

目次

一、憲法違反の主張

二、判例違反の主張

三、事実誤認の主張

1、同族会社間の低額譲渡であり、仮装行為ではない。

(一) 本件事案の本質

(イ) 典型的な同族会社間の取引

(ロ) これに対する原判決の判断

(ハ) 低額譲渡による譲渡損発生の実現

(ニ) 仮装譲渡の性質

(二) 低額譲渡がなされた経緯及び必要性について

(三) 租税回避と租税逋脱

2、原判決の認定した本件譲渡の仮装行為について

(イ) 右認定に対する検討

(ロ) 仮装とする理由、必要性の存しないこと

(ハ) 仮装譲渡と根本的に矛盾する事実関係について。

(ニ) 完全な手続が履践された場合においても、仮装とする理由が存するのか。

3、被告人堀口において、逋脱の故意ないし違法性の意識が存したか否かについて。

(一) 被告人堀口の関心事は、同族会社間の低額譲渡が税法上問題ないかどうかを税務の専門家に判断してもらうことにあった。

(二) 大塚税理士の教示指導及び決算等の主導について。

(三) 被告人堀口はじめ関係者の意思は、あくまでも低額譲渡をなすにあり、仮装など考えていなかった。

(四) 被告人堀口の本件に対する認識内容

(五) 被告人堀口には、大塚税理士の指導教示に対する軽信はあったにせよ、税逋脱の確定的犯意は存しない。

(六) 違法性の意識ないしその可能性の不存在

四、訴追裁量権の濫用の主張-憲法違反の主張

五、量刑不当の主張-過去の量刑不当による破棄事案との比較検討

第一点 憲法違反の主張

原判決は、本件において被告人らにつき各法人税法違反の犯罪の成立を認めたものであるが、以下述べるとおり、憲法の解釈に誤りがあり、それが判決に影響を及ぼすこと明らかであるので、刑事訴訟法第四〇五条第一号、同法第四一〇条第一項により破棄せらるべきである。

原判決は、憲法第一四条第一項の解釈に誤りがある。

原判決は、弁護人が第一審判決に対し、控訴趣意において、「本件において、主導的立場で譲渡損の計上による譲渡益の相殺を提言してそのための方策を助言し、さらに、価格決定から売買契約書の作製などの一連の行為を指揮し、税務処理一切を担当した大塚税理士に対しては、起訴はもとより、逮捕、勾留もされていないのに、同税理士に全幅の信頼を置いてその指導助言に従い、かつ、被告会社の税務会計処理の一切を委ねた被告人に対しては、逮捕、勾留のみならず、被告会社とともに起訴さえされているのは、憲法一四条一項に違反する恣意的、不平等な事件処理であり、本件公訴の提起は訴追裁量を著しく逸脱した違法無効なものであって、これを認めなかった原判決は憲法一四条一項に違反する」旨主張したのに対し、「なるほど、本件で大塚税理士が果たした役割は大きく、同税理士の存在によってはじめて本件の犯行が可能になったものと認められるほか、税務の専門家として納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士法の理念を無視し、現実に報酬の支払まではなかったものの、本件脱税に手を貸すことによって相当多額の報酬を企図していたものと窺われることからすると、同税理士の責任は重大であり、この点は被告人の量刑に当たっても充分考慮されるべきである。しかしながら、被告人が本件で果たした役割は大きい上、そもそも被告会社は、本件における納税義務者であり、被告人はその実質的経営者として、その法人税納税義務を誠実に履行すべき地位にあった者であって、これらの義務を負わない大塚税理士とは基本的な立場を異にすることが明らかである。本件公訴提起が憲法一四条一項に違反し、訴追裁量の犯意を逸脱した違法無効なものであるとはいえない。論旨は理由がない。」旨判示してこれを排斥した。

しかしながら、被告人堀口としては、そもそも発端より低額譲渡が税法上問題がないのかどうかを大塚税理士に問い訊し、同税理士よりの「問題なくできる」旨の回答に接し、ここに決算申告の依頼をなしたのに対し、大塚税理士は、「取得原価より安く売却し譲渡損を作り譲渡益と相殺する。譲渡益と譲渡損が同一金額であれば、課税関係は生じない」旨明言し、これを決算申告処理の基本方針として作業を進行させることとし、以後同税理士自ら又その主導の下に売買契約締結等の手続を履践し、同税理士が決算書、法人税確定申告書を作成提出したものである。

このように、税務の専門家である税理士が低額譲渡については、税法上問題がない旨明言し、かつかかる決算処理の方針に基づき税理士自らが売買契約の実行に関与した上、決算及び確定申告をなしているのである(大塚税理士は、法人税確定申告書に作成税理士として「大塚雄二」の記名押印をなし自ら税務署に提出している)以上、被告人堀口としては税務専門家の見解と、その教示指導に従って来ているものであるから、低額譲渡による譲渡益、譲渡損の相殺は、税法上問題はなく可能であり、ましてやこれが違法不正な脱税行為に該るなどとは夢想だにしなかったものなのである。

かかる経緯よりするならば、原判決のいう「被告人が本件で果たした役割は大きい上、そもそも被告会社は、本件における納税義務者であり、被告人はその実質的経営者として、その法人税納税義務を誠実に履行すべき地位にあった者であって、これらの義務を負わない大塚税理士とは基本的な立場を異にすることが明らかである」という判断にはとうてい承服することができない。

前述したところより明らかなとおり、「本件で果たした役割は大きい」のは、大塚税理士であって、被告人堀口ではない。

被告人堀口が「法人税納税義務を誠実に履行すべき地位にあった者」であることは、もとよりであるが、かかる義務の履行のためにこそ税務の専門家である税理士の見解を求め適切な税務上の処理に委ねたものなのであって、かかる点よりすれば大塚税理士は正に納税義務を誠実に履行すべき義務(受任した専門家の義務)を負うものであり、その間には何らの径庭も存しない。

税理士は、税務の専門家として、納税義務者の信頼に応え、納税義務の適正な実現を図ることを使命とするものであり、納税義務者の信頼により税法上の処理を教示指導した上、自ら右処理手続を履践したものである以上、「基本的な立場を異にする」ことなど全くの背理であるという他ない。

むしろ、税理士は税務の専門家として、税法に関する諸法規をはじめ会計について熟知しているものであることを考えるならば、その責任は一層重く問われるべきものである。

以上のとおり、一方において大塚税理士を全く不問に付して被告人堀口のみを訴追し、処罰することが、果たして訴追裁量権の適正な運用といえるであろうか。

以上要するに、大塚税理士を不訴追にし、被告人らのみを訴追した処理には、何らの合理的な理由を見出し難い。

しかるに、原判決は、大塚税理士の不訴追にもかかわらず、被告人らに対する訴追を肯認し、これのみを処罰したものであって、すべて国民は法の下に平等であって何らかの合理的な理由なくしては差別されないことを宣言した憲法第一四条第一項の解釈に誤りがあるというほかはない。

第二点 判例違反の主張

原判決は、税務専門家である大塚税理士の指導教示に従いこれに一切の処理を委ねた被告人堀口につき、逋脱の故意を認めたものであるが、右判示は最高裁判所の判例と相反する判断をしたものであり、これが判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、前述のとおり、被告人堀口としては大塚税理士の判断とその説明に全幅の信頼をおき、同税理士に処理の一切を委ねたものである。

このような状況にあって、被告人堀口が大塚税理士の説明に疑問を抱いたり、あるいはその処理につき危惧の念を持つことなど到底期待し得ないことであることは言うまでもない。

そもそも税務上の処理につき、専門の税理士の指導助言に全面的に頼る以外、素人としていかなる手段方法が期待され得るであろうか。

税理士法においては、税理士の使命として第一条において「税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場において申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼に応え、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする。」と言われている通り、国家が公認した唯一無二の「税務に関する専門家」なのであり、「納税義務者の信頼に応え」ることが期待されているものであることは言うまでもないところであり、税理士の義務としては、脱税相談等の禁止(税理士法第三六条)、信用失墜行為の禁止(同法第三七条)が定められ、更に税理士は委嘱者に脱税行為又は隠ぺい仮装があったときは、その是正の助言をなす義務を負い(税理士法第四一条の三)、脱税相談等に対しては懲戒処分が課されることとされている(同法第四四条以下)。

このように国家が資格を公認した高度のプロフェッショナルである税理士に決算及び税務代理を委嘱し、その指導助言に従ってなした行為について素人である一般人がこれが違法であるとか、あるいは脱税に該るとか夢想だにし得ないことであること明らかである。

更に又、かかる重大な職責を負う専門家の税理士以外の何人に対し指導助言を仰ぐことが期待できるであろうか。

この理は、特定の行政上の問題につき、所管行政庁の指導に従った場合、例えば風俗営業許可についての警察の指導、診療所の移転についての保健所の指導、酒類の製造についての役場及び税務署の指導等、あるいは民、刑事の訴訟問題について弁護士の教示指導を受けた場合や、登記手続につき司法書士の指導等においても全く同様であって、関係官庁の指導乃至回答や公認の資格を有する専門家の指導教示乃至鑑定に従った場合においては、まさしく行為の適法性を信じるにつき、相当の理由があるとなすべきものである。

かかる場合において、ただ行政法規の円滑ないし効率的な運用との視点のみを優先させ、行為者に過大な要求をなすことが許されないことは言うまでもないところである。

あくまでも、前述したような本件の具体的状況の下における行為者の立場から判断されなくてはならない。

被告人堀口としては、正にかかる専門家の税理士の指導助言に従ったものであり、そこにはもとより故意もなければ違法であることの認識も全くあり得る筈がないものである。

これを要するに、専門の税理士が引受けてやってくれている以上、常識的に考えて、これが違法な脱税に当るなどとは思ってもみなかったという極めて当然の事理に尽きるのである。

二、ところで、この点について、原判決は次の各判例に違反する判断をなしたものであることは明らかであると言わねばならない。

(1) 原判決は、最高裁判所平成元年七月一八日第三小法廷判決(刑集四三巻七号七五二頁)に違反するというべきである。

右判決は、公衆浴場法第八条一号の無許可営業罪における無許可営業の故意が認められないとされた事例であるが、右事例においては、被告人は公衆浴場営業許可申請事項変更届が県知事に受理されたことにより被告会社に対する営業許可があったと認識し、被告人には無許可営業の故意が認められない旨判示し、無許可営業の故意を認めた原判決を破棄し、無罪を言い渡したものである。

この理は、ひとり関係官庁の行政措置乃至指導を信頼し、適法であると信じた場合のみに止まらず、専門家の教示指導がなされ、これを信頼した場合にも等しく適用されるべきものである。

一般人としては、法規の解釈なり適用の可否等については専門的知識を欠くものであるので、その際には専門家の意見を徴し、その教示指導を信頼してこれが適法であるとすればこれに従うほかなく、これは関係官庁の行政措置乃至指導を信頼することとなんら変わりがないからである。

特に、国家が高度の専門家として資格を付与した税理士、公認会計士等においては、その教示指導に対する信頼は関係官庁のそれと何らの逕庭はなく、全く同等に見るべきことは言うまでもない。

もし、一般人に税務上の問題、特に租税法規の解釈適用につき専門の税理士の教示指導に対して信を措くことができないとしたならば、その場合には納税者としてはどのようにすべきかについて全く困惑するほかなく、何のために国家が税理士制度を設け、その資格を公認しているのか全く意味をなさなくなると言うことに帰する。

本件においては、税務の専門家である税理士が、本件低額譲渡は税法上許された適法のものである旨明言し、自ら決算及び確定申告をはじめとする税務会計処理を行ったものであり、被告人堀口としてはかかる税務専門家の教示指導に従いもとよりこれが税法上許されたものと信じていたものであるから、これは右判決における関係官庁の行政措置乃至指導により、無許可営業の故意が認められないことと全く同視すべき場合に該ることは明らかであるから、被告人堀口には、逋脱の故意が認められないとなすべきである。

しかるに、原判決は、かかる関係官庁の行政措置指導と同視すべき税理士の教示指導に従った被告人堀口に対し故意を認定したものであって、かかる原判決の判断が右判決に反するものであることは明らかである。

(2) 又、原判決は、東京高等裁判所昭和五五年九月二六日判決(高刑集三二巻二号一四六頁)に違反すると言うべきである。

右判決は、石油精製業者の団体である石油連盟による生産調整が、独禁法に定める一定の取引分野における競争を実質的に制限した罪に該るか否かについて、「相当な理由に基づく違法性の錯誤」を考え、かかる前提のもと違法性の意識の有無の判断基準として通産省による行政指導がなされたこと及び公正取引委員会から何らの注意、警告、調査等の措置がなされていないとの二つの観点を挙示し、被告人には違法性の意識がなかったものと判示したものである。

この判決の示した理は、単に関係官庁の行政指導に従った場合のみでなく、その分野領域における専門家による教示指導がなされ、これを信頼し従った場合にも等しく適用されるべきであることは、前記一の場合と全く同様である。

しかるに、原判決は、関係官庁の行政指導と同視すべき税務専門家である税理士の教示指導を信頼し、これに従った被告人につき違法性の意識が存したものとなしているが、かかる判断は右判決に反するものであることは明らかである。

(3) 原判決は、東京高等裁判所昭和四四年九月一七日判決(高刑集二二巻四号五九五頁)に違反すると言うべきである。

右判決は、猥褻図画公然陳列罪につき、被告人が猥褻性を具備しないものと信じた点について、相当の理由が存するか否かについて自主機関である映画倫理審査会の通過、右映画倫理審査会に対する社会的評価、右審査を受ける製作者、その他の上映関係者の心情及び映画倫理審査制度発足以来初めての公訴提起であることを認定したうえ、右審査の通過との判断決定に従って制作上映した者には、違法性の錯誤につき相当の理由が存すると判示したものである。

右判決の示す自主機関である映画倫理委員会の審査通過との判断決定に従った者に対し、違法性の錯誤につき相当の理由が存するとなす法理は、民間の自主機関に過ぎないもののなした判断についても、関係官庁の行政指導等に匹敵する機能と根拠を有するものであることを明示したものであって、この理は、当然民間人であっても税務専門家である税理士のなす判断についても妥当するものである。

税理士は、税理士法第一条において「税務に関する専門家」として「納税義務者の信頼に応え、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とする」と定められている通り、国家が公認した専門家である以上、その専門的判断については、同じく民間人とはいっても法に何らの根拠規定を持たない映画倫理審査会の判断より、更に尊重されるべきものであることはいうをまたない。

従って、民間の自主機関である映画倫理審査会の判断に従ったものについて、違法性の錯誤につき相当の理由が存すると判示した右判決は、同じく民間人であっても国家によって公認され資格を付与された税理士のなす判断についてもこれと同様に適用され、税理士の判断に従ったものに対しても違法性の錯誤につき相当の理由が存するものとなすべきである。

しかるに、原判決は、映画倫理審査会の審査と同視すべき否むしろこれより高く評価されるべき税務専門家である税理士の判断を信頼し、これに従った被告人につき、違法性の錯誤につき相当の理由が存しないものとなしているが、かかる判断が右判決に反するものであることは明らかである。

第三点 事実誤認の主張

原判決には、重大な事実の誤認があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであり、これを破棄しなければ著しく正義に反する。

1、同族会社間の低額譲渡であり、仮装行為ではない。

(一) 本件事案の本質

(イ) 本件事案の本質について、とくに留意されねばならないこととしては、何よりもこれが本来典型的な同族会社間の取引であるということである。

したがって、かかる同族会社間の取引に対しては、行為計算否認規定の適用の有無が、まず第一に問題とされるべきであることは、いうまでもない。

このように右否認規定の適用の有無がまず問題とされる以上、かかる同族会社間の取引については、その取引の存在を前提とすることは当然であって、これを虚偽仮装とみる余地は、本来存しないことは自明というべきである。

これを端的に言うならば、代表者が同一人である場合ないし実質的オーナー(以下代表者という)が同一人である同族会社をみるとすると、その間における取引の有無なり成否は、右代表者ないし実質的オーナーの真の意思の存否、換言すれば客観的かつ合理的に推認される意思が何であったのかによって決せられるものであり、しかして、かかる意思を外部から認識し得る外形ないし外観(登記、契約書等)が存することによって決せられることはもとよりである。

右代表者らがその取引を真実意図していたのか、それとも単なる仮装と考えていたかによって、取引の有無、成否が決せられる筋合であるとすれば、右代表者らの真の意思がいずれであるかを認めるには、何よりも代表者らが取引により何を意図し目的としていたものであるかを客観的事実関係より明らかにして、これを総合的かつ合理的に判断して認定する他ない。しかして、右取引につき仮りに手続上瑕疵ないし遺漏が存したとしても、取引の有無・成否を左右するものではない。この場合取引の外形、外観が存するものであるから、代表者らにおいてとくにこれを仮装とする意図、目的ないし動機が認められないとすれば、右外形、外観どおりの取引をなす意思が存したものと推認されることはいうまでもない。

さればこそ、同族会社間における取引において、登記等の外形が存する場合、これを課税上の見地から仮装とみなした事例は、過去において全く存しない。むしろ取引を前提として、行為計算否認の可否が問題とされて来たものであって、本件はテストケースとして仮装譲渡と認定されたものであり、極めて異例のものなのである。

(ロ) この点について、原判決は「低額譲渡であっても、それが真に売買の意思に基づくものであれば、逋脱とならないことは当然である・・・」(原判決一五丁裏、記録五九四丁裏)とされるが、これはまさしく原判決の説くとおりであり、右説示のかぎりにおいては、原審においては正しき事理の弁別がなされていることは、いうまでもない。

第一審判決においては、低額譲渡即仮装譲渡との先入主よりして、低額譲渡の内容を検討することなく、ただひたすら低額譲渡であるが故に仮装とみなしたことに対比すれば、原審においてははるかに深い理解を示しているということができる。

しかしながら、抽象的一般論としては、かかる正当な事理の認識の上に立ちながら、なおかつ原判決は、前述のごとき同族会社間の取引についての根本的な理解を欠き、本件譲渡が真意に基づく売買ではないとの重大な事実の誤認をなすに至っているのである。

これは、前述のごとき代表者らの真の意思がいずれであるかについての判断を誤まり、単に手続上の瑕疵・欠陥のみにとらわれた結果、とくに仮装とする意図、目的、動機の存否についての究明を怠ったことから事実の誤認に至ったものなのであるということができる。

(ハ) 本件において、まず基本的に認識されねばならないことは、本件譲渡がなされた主要な意図、目的は、同族乃至関連会社間における低額譲渡による譲渡損の発生が目的であったということである。

それは、本件取引において一貫して変わらない目的なのであり、あくまでも低額譲渡による譲渡損の実現を意図していたものであって、単に譲渡の外観、体裁を整えるとか、あるいは仮空の譲渡損を発生させるためとかいう類いのものではない。

したがって、同族乃至関連会社間におけるかかる低額譲渡は、課税上の見地よりすれば、その結果として、正常取引によらずして租税債務を不当に減少させるものとして、行為計算否認の対象となることも、あるいはあり得ることかも知れないし、むしろそのおそれは多分に存したであろうことは窺うに難くないところであって、このことを正に被告人堀口もまた大塚税理士もともに危惧していたところなのである。

被告人堀口としては、このように当初から低額譲渡においては、行為計算等の否認がなされるおそれがあることを憂慮していたからこそ、税務専門家にこの点を訊ね確認を得ようとしたものなのである。このことは、被告人堀口が調査、捜査より公判廷における供述に至るまで一貫して述べるところであり、又佐々木証言、大塚証言よりも明らかである。

このように、本件低額譲渡の意図、目的はまさしく譲渡損の発生を目指すものであり、これ以外に仮装をなす必要もなければその理由も存しない。

低額譲渡を仮装となすためには、何よりも譲渡損の発生が仮装であり、単なる譲渡益の償却乃至相殺をするための仮装のものであることが当然前提となるべきである。

たしかに、もし仮りに仮装の譲渡損の発生を意図していたものとすれば、その場合においては、仮装の譲渡であったと言い得よう。

しかし本件においては、何よりも譲渡益との相殺をなすために現実に譲渡損の発生を必要とし、これを意図し、実現したものなのであって、仮装の譲渡損の計上などあり得ざることだったことは明らかである。

(ニ) 仮装譲渡の性質

ここに仮装譲渡とは、いかなるものであるかを考えてみれば、これは真実は譲渡による法的効果の発生を欲しないのに拘らず、外形上譲渡であるかのごとく装うものであり、これによってはなんらの法的効果を発生することはない。

したがって、法的には譲渡による所有権移転も存しない。

これを又会計上の側面より見れば、仮装譲渡によっては譲渡益又は譲渡損も発生しない。

これに反し、譲渡による法的効果ひいてはこれによる経済的効果の実現を真に意図する以上、仮装譲渡はあり得ない。

その場合においては、いかに低額であろうとも譲渡による所有権移転及び譲渡損の発生という法的及び会計的効果が生ずることはいうまでもないところである。

(二) 低額譲渡がなされた経緯及びその必要性について。

本件譲渡は、以下述べるとおりの売買の経緯及び必要性よりして、たとい低額譲渡にもせよ、現実になされたものであって、仮装ではあり得ないものである。

即ち、

(イ) (本件売買がなされるに至った事情及びその必要性について)

ところで被告人堀口としては、もともと被告会社より富士プロジェクトへ資産を移転することを考えていたものであるが、その理由としては、被告会社所有の資産中円山町の物件を処分するためには風俗営業許可の関係から被告会社ごと売却する必要があるため、それ以外の物件は他の会社である富士プロジェクトに移すことが求められたこと、今後は富士プロジェクトを事業の主体におき、賃料収入を生み出す資産としての不動産は保有し、その他は売却しようと考えていたことによる。

これは、被告人としては当時土地価格がすでに値下がり傾向にあるのみならず今後の大巾な値崩れを予想していたものであって、正にバブルの崩壊を予測していたということができる。

(ロ) (低額譲渡を考えるに至った事情及び税理士紹介の依頼の目的)

ところで、右資産の移転については、当該事業年度においてかなりの利益が見込まれたため、すでに値下がりしている在庫の物件について低額譲渡により譲渡損を現実化し、この際あわせて節税をなすことができるかどうかがまず問題とされたのである。これは、被告人堀口において、当時大手不動産業者が原価割れの売却をなし、これにより不良在庫の処分と利益の償却をなしたことを聞知したことが契機となっている。

そこで、被告人堀口がこの点を旧知の浅沼税理士に相談したところが、同税理士よりは税務専門家としての明確かつ納得できるような回答が得られなかったため、被告人堀口としては同税理士の能力を超える、あるいは手に余る問題であると考え、より高度の知識と能力を有する専門家の税理士の意見を訊ねようと考え、かねてからの相談相手の佐々木に対し有能で資産税に明るい税理士の紹介を依頼したものである。

このように、被告人堀口が佐々木に税理士の斡旋を依頼した真意は、正に前記の問題に対し専門家として適確な判断を下し、適切な処理をなし得る税理士を紹介して欲しいということにつきるのであって、ことさら脱税に加担する税理士を見付けてほしいなどというものではない。

そして何よりも被告人堀口としては、同族会社に低額譲渡をなすことが税法上問題ないのかどうか、これによりかえって多額の課税がなされるおそれが存しないのかどうかの点について専門家の意見を徴することに、その眼目が存したのである。

(ハ) (大塚税理士の指導教示について)

そして、佐々木より紹介された大塚税理士は、被告人の相談に対する回答意見として「正当な取引で譲渡損を計上するならば、事前に発生している譲渡益と今期計上される譲渡損とは相殺可能です。」と述べるとともに、かかる会計処理は税法上許される旨明確に述べているのである。

とくに被告人としては、「同族会社間で簿価を割って売買できるか。否認されないか」と念を押したのに対し、大塚税理士は「できます。問題はない」とのことであった。

さらに、これに続き大塚税理士より一社だけでなく数社に売ること等を示した上で「(売買物件の価額が)安かった、高かったは税務署との話し合いだから、それは私の方が責任をもってこれからやってあげますから、もし安ければ修正すればいいんだから」と述べているのである。以上、(イ)(ロ)(ハ)の事実は、原審における証人佐々木秀男の証言から明らかである(記録一二一丁乃至一二六丁)。

(ニ) (大塚税理士への委任の理由-低額譲渡を税法上問題ないように処理してもらいたいこと)

以上のとおり被告人堀口としては、経験豊富で有能な専門家であると信頼した大塚税理士より同族会社間の低額譲渡は法的に問題がなく、かつ同税理士が責任をもって右の処理に当る旨明言したので、売却手続より決算・税務申告にいたるまですべて一任したものなのである。

したがって、被告人堀口としては、何よりも専門家の判断を求めたのに対し法的に問題がない旨明確な回答を得たものであること、そして同族会社間の低額譲渡を実際に行うこととして、右に伴う手続き一切を大塚税理士に委ねたものである。

しかして、もし右の意見聴取に対する専門家の判断において、大塚税理士より「問題がある」とかあるいは「認められないおそれがある」とかいう意見が述べられたとすれば、被告人堀口としては同族会社間の低額譲渡を行なうことはなかったことはもとよりである。

すべては、大塚税理士が「譲渡益と譲渡損は相殺可能であり、同一金額なら課税は生じない」との観点より、かかる処理は税法上許される旨の専門家の法的見解を開示したところから出発したものなのである(原告大塚証人の証言、記録三丁乃至一一丁)。

しかして、大塚税理士より右処理の一切を責任をもって引受ける旨の心強い信頼のおける確言から本件のごとき売買及び決算処理より税務申告に至ったことは明白な事実である。

被告人堀口としてもし仮りに当初より仮装売買による脱税を企図していたとするならば、何もことさら有能な税理士を探しこれに同族会社間の低額譲渡が可能であるか否かの判断を求める理由もその必要もないことはいうまでもないところである。

被告人堀口としては、たとい低額譲渡であるにせよ真実売買をなす考えがあったからこそ、これに伴う税務上の問題の発生することを懸念して、果たしてこれが問題なく行われ得るものであるかについて専門家による判断を仰いだということにつきるのである。

このことは本件の本質に関するものであるので重複をいとわずあえて述べるならば、低額譲渡と仮装譲渡とは、絶対に両立しないものであり、それ自体矛盾するものである。前者は、譲渡が実際になされるものであり、ただ単に税法上における租税負担の公平の観点からこれに対する課税処分がなされるに止まるのに反し、後者は全くの法的効果を生じない無効の行為であり、そこには同族会社間の行為計算の否認など生ずる余地はない。

換言すれば、同族会社間の行為計算否認の規定の適用を懸念し、これを顧慮して、右課税処分を受けないように会計処理をなすことそれ自体、もとより実際において譲渡(たとい低額であるにせよ)がなされることを前提としているものであって、実際の譲渡の実現を意図しない仮装譲渡とは全く相容れないものであることは明らかである。

要するに低額譲渡を意図し、これを遂行している以上、仮装譲渡とはそもそもなり得ないものなのであって、原判決は、この当然の事理を全く無視しているものである。

(ホ) (被告人堀口、大塚税理士及び関係当事者間において、仮装譲渡の了解、合意は存しない-かえって売買の意思が存した。)

ところで、もし仮りに、被告人において譲渡損の計上による脱税を目的とした仮装譲渡を企図していたもので、その目的のために大塚税理士に売買手続、決算、税務申告を依頼したと仮定するならば、被告人堀口、大塚税理士及び買主(富士プロジェクトは勿論別として)ならびに融資元である日本リソースの関係者(佐々木・島津)の間においては、仮装売買である旨の了解乃至合意が存しなければならないはずである。

しかるに、本件におけるすべての証拠資料によっても、右関係当事者間におけるかかる仮装売買を行う旨の了解なり合意の存在なりを窺わしめるものは何一つ存しない。

かえって、後述のとおりの所有権移転登記手続の履行、売買代金の受験、融資及び担保権設定の実行等の事実関係よりみるならば、売買が現実になされたことを認めるに十分であるといわねばならない。

被告人堀口、大塚税理士及び関係者らの間における合意内容につきみるならば、何よりも被告人堀口とこれより売買に伴う手続を一任された大塚税理士との間において、物件の売買が仮装で実際には所有権の移転などされないという了解は全くなされていない。

むしろ大塚税理士においても、「被告会社の土地を他へ安く売って譲渡損を出し利益を消すためには、富士エステートと富士プロジェクトは同族会社だから譲渡損を出す以上、土地建物の全部を富士プロジェクトに売るのではなく、他の会社にも分けて売る必要がある」「(売買物件の価額が)安かった、高かったは税務署との話し合いだから、それは私の方が責任をもってこれから今後もやってあげますから、もし安ければ修正すればいいんだから。」と説明しているものであり(被告人の第一審公判における供述)、かつ大塚税理士自らも本件の売買について「・・・意思の合致はあったと思いますね。売る、買うという、所有権を移転するという。」「・・・、所有権を移転するという点では意思はあったと思いますね」と証言し、実際に売買が行われたもので仮装ではない旨説明している(記録一三丁、一四丁)。

さらにこれを裏付けるものとして、大塚税理士は原審における証言中において、「まあ、話合いになるでしょうと。要するに、個別、税務署との関係では、税額を確定して、幾らの税額を本件について払えばいいかという話ですから。だから否認されるところは否認されると、認めてもらうところは認めてもらえると、そういう細かい話し合いが調査を受けながら起きていくだろうと。」「低額譲渡はリスクが大きいんです。それは今お話があったように、時価と売価との差額分については、雑収ですとか雑益ですとか、寄付金の関係で若干寄付金控除を受ける程度で、殆どまるまる課税を受けてくるんですよ。」(記録三五丁)と述べているものであるが、これはたとい低額にせよまごうことなく実際に譲渡をなすことを当然の前提としているものなのであって、仮装譲渡を予想してのものでないことは、いうまでもないところである。

実際に譲渡がなされればこそ、これに伴う課税当局よりの是、否認の問題が生ずるものであり、かかる課税当局よりの調査に対しいかに対応するかを検討していたものなのであるから、所有権の移転しない仮装譲渡を考えていたことなどあり得ざることである。

いいかえれば、申告に対し税務当局より調査がなされた場合においては、これに対し果たして低額に該るか否かについて折衝することは当然許されることであり、又これは日常行われているところであるが、これこそ正に譲渡が実際になされることを当然の前提としていることは明らかである。

(ヘ) (融資元である日本リソースにおいても真実の売買であると認識していた)

他方融資元である株式会社日本リソースの立場に立って考えてみることとする。

日本リソースは、新設間もないファイナンス会社であり、本件売買に伴う被告会社等への多額の融資は、同社発展のためのまたとない得難いビジネスチャンスであったことはいうまでもない。

ところで、日本リソースのバックファイナンスは、山一ファイナンスであり、日本リソースは山一ファイナンスより借入れ、これを被告会社等に貸付けることとなるため、日本リソースが取得した抵当権は、直ちに山一ファイナンスに転抵当とされたものである。

したがって、日本リソースはもとよりのことバックファイナンスである山一ファイナンスにおいても、貸付金の回収確保が最大関心事であることはもとよりである。

そうであるとすれば、担保権設定者が何人であるか、右設定者が所有権を有しかつ有効に担保権を設定し得るものであるか否かは、貸付をなす日本リソースはもとよりのこと、山一ファイナンスにとっても、最大の関心事であることはいうまでもないところであって、かりそめにも仮装の売買であるとか、したがって又所有権の移転もなく無権利者による担保権の設定が無効に帰する事態があり得ることなど全く考え及ばないことである。

これは、原審における佐々木、島津両証人の証言より明白に認められるところである(記録一二七丁、一二八丁、七二丁乃至七四丁)。

もし仮りに当初より売買手続に関与していた融資元の日本リソースの佐々木なり島津なりが仮装の売買であると認識していたとすれば、同人らは日本リソースの貸付につき背任行為をなすだけに止まらず、バックファイナンスである山一ファイナンスに対しても詐欺の刑事責任を追及されるに至ることは見やすい道理である。

日本リソースの発展をひたすら願い尽力していた佐々木なり島津がこのような自社を破滅に陥らしめること必至な自殺的行為に走ることなどあり得ないことはいうまでもない。

以上より明らかなとおり、本件売買につき融資元として重要な関与者である日本リソースの佐々木、島津及び山一ファイナンスの貸付担保者(黒田常務、八尋課長)のすべての者において、本件売買が実際になされるものであること、したがって貸付も担保設定も有効に行われるものであることを確信していたものであって、これよりすれば本件売買が仮装売買であるとの認識を全く有していなかったことは、明らかというべきである(七三丁、七四丁、一二六丁)。

(三) 租税回避と租税逋脱

以上のとおりみるならば、本件取引は、その本質において租税回避を目的とした低額譲渡なのであって、租税逋脱を意図した脱税とは、その基本的性質を異にするという他ない。

租税回避とは、例えば低額あるいは高額譲渡、過大利率消費貸借、過大ないし過少報酬等に見られるごとくもともと課税要件の充足が生じないものを指すのであるから、これと対比されるところの課税要件の充足が生じていることを前提として、詐欺的手段により租税請求権の実現を阻止するための租税逋脱とは全く性質の異なるものである。

それならば、租税回避と租税逋脱とは、実際上どのように区別されるべきであろうか。本件においては、具体的に租税回避と租税逋脱と区別され得るのか。

それには、前述のとおり当事者(この場合被告人堀口)が一体いかなる法的効果を目的意図して本件取引に至ったのか、その真意が奈辺に存したのであるか。この点の解明をおいて他にはないというべきである。

このことを第一審判決認定の罪となるべき事実と対比させてみるならば罪となるべき事実は「被告会社所有の土地、建物を簿価より低価額で売却したかのように装って、架空の売却損を計上するなどの方法により所得を秘匿し・・」としているものであるが、事実は、「・・・被告会社所有の土地、建物を簿価より低価額で売却し、実際の売却損を計上する・・」ことが、実相なのである。

もとよりかかる低額譲渡それ自体については、それが正常取引であるか否かには多分に問題があり、課税の公平上の観点よりして、租税債務の不当減少として行為計算否認の対象となることがあり得ることも事実であろう。

しかしながら、いかに租税債務の減少を仮りに目的としたとしても、低額譲渡により譲渡損の計上をなすこと自体、脱税行為には当らない。

2、原判決の認定した本件譲渡の仮装行為性について

(イ) 原判決の認定した「本件譲渡の仮装行為性について」検討することとしたい。

原判決は、「本件譲渡の客観的な実態」を認定した上で、これを「総合すると本件譲渡は、真実の売買ではなく、いずれも多額の法人税を免れるために売却損を計上する目的でされた仮装行為であると認めるほかはない。」としている(原判決記録五九二丁裏)。

しかしながら、原判決が認定した「本件譲渡の客観的な実態」を仔細に検討するならば、これはかえって売却損を計上する目的でなされた譲渡であり真実の売買であると認められるのであって、仮装行為と結びつくものではあり得ないことが明らかとなるのである。以下順次検討する。

○ 原判決理由中第一、一、1被告会社の昭和六三年三月期における収支の見込みと動機の確定申告の内容等について

右認定中「・・・、被告会社所有の不動産を簿価よりも低額で譲渡することにより売却損を計上して多額の納税を免れることができるのではないかと考え、・・・」たことは、たしかに本件譲渡の一契機となったものではあるが、これはかえって売却損を計上するための低額譲渡したがって真実の売買を考えていたこと推認させるものでこそあれ、仮装の売買と結びつくものであり得ないことはいうまでもない。

したがって原判決がこれに続き「・・・売上原価の合計が一三一億二八六〇万円余の合計一五件の不動産を、・・・の三社に対し、代金合計八四億七九五〇万円で売却し、合計四六億四九一〇万円余の売却損を計上する形とした」との判示中「・・・計上する形とした」ことは誤りなのであって、正しくは「計上した」ものなのであるとなすべきものなのである。

原判決理由中第一、一、2売却先の会社の状況、売却先決定の経緯及びその交渉等について

売却先の会社の状況についてみるならば、まず富士プロジェクトは東京都千代田区九段南の同社名義の保存登記をしたビルにおいて、その後実質的な営業活動を開始し現在にいたっているものであり、本件物件中五物件を武蔵野土地開発公社他に売却している。

パイディアオーバーシーズも同じく二物件を他に売却している。

またカズコーポレーションについても、四物件に対し山一ファイナンス株式会社及び大蔵省より差押がなされている。

原判決は、パイディアオーバーシーズの楠本及びカズコーポレーションの黒川においては、売買に関与していなかったとするが、いずれにおいても右各社がそれぞれ買主として売買することを認識しその意思を有していたことが明らかである以上、売買成立を認める妨げとなるものでないことはいうまでもない。

むしろ、後記のとおりの第三者に対する売買なり差押の事実からみるときは、売買の成立を十分に推認することができるというべきである。

○ 原判決理由中第一、一、3売却の時期、売買代金決定の経緯とその内容、売買契約書の作成状況及び所有権移転登記手続等について

(1) 売却の時期等について

原判決の認定する「このように、多数かつ多額の本件物件を一括して、この時期に、しかも極めて短期間の内に、その期の利益に見合う売却損を出してまで他に譲渡しなければならなかった合理的な理由としては、被告会社の税金対策の外に想定できるものがない」との判示については、よしんば右認定が正しいとしても、これは売却損を出すための譲渡(低額譲渡)が真実なされる必要性を推認させこそすれ、仮装譲渡とはなんら結びつくものではない。

(2) 売買代金額決定の経緯及びその内容について

(3) 売買契約書の作成状況について

(4) 登記手続の状況について

(5) 代金決済の状況及び超過融資分の還流について

右(2)、(3)、(4)、(5)、について留意さるべきことは、いずれもそのほとんどすべての手続乃至処理は、大塚税理士の主導又は独断専行でなされたものであって、その内容は被告人堀口はもとより他の会社関係者において知る由もなかったということである。

右各事実は、同族会社乃至関係会社間における売買の処理がすべて大塚税理士の判断でなされたことを示すものではあるが、同税理士に委任した被告人堀口において、仮装譲渡の意思が存しない以上、仮装に結びつくいわれは全く存しないという他ない。

即ち、これらは、大塚税理士の所為であって、これと被告人堀口とを結びつけられるものは全く存しない。

○ 原判決中第一、一、4被告会社における社内処理の状況について

右についても、第一、一、3、(2)乃至(5)と同様、すべて大塚税理士の指導によるものである。

○ 原判決中第一、一、5本件譲渡後の状況について

(1) 権利証の保管及び各権利関係の変動等の状況について

原判決の認定する権利証保管や収入の取得、あるいは利息、固定資産税の納入等の状況については、同族会社乃至関係会社間の譲渡においては、しばしば見受けられるところであり、大塚税理士の処理の杜撰粗雑なことを示すものでこそあれ、仮装譲渡を推認させるものではあり得ない。

(2) パイディアオーバーシーズの昭和六三年一二月期の決算の状況等について

これ又前記(1)同様、大塚税理士の処理の杜撰さを示す以外の何物でもない。

以上見たとおり、原判決はその理由第一、一、1ないし5の事実よりして、本件譲渡は、真実の売買ではなく、売却損を計上する目的でされた仮装行為であると認定しているものであるが、本件譲渡が売却損計上の目的(それのみではないことは後述する)でなされたとしても、これは真実の売買であり、仮装行為を推認させるものではあり得ないものである。

しかも、右認定の事実は、そのほとんどが大塚税理士の処理にかかる事柄であり、その粗雑杜撰な処理を窺うことは可能であっても、これをもって被告人堀口自身の仮装行為を推認せしめる事実でないことはもとよりであるのみならず、大塚税理士の右処理に対し被告人堀口の関与も全く存しないのである。

(ロ) 仮装とする理由、必要性の存しないこと

ここで、特に強調さるべきものとして、被告人堀口なり被告会社において、そもそも本件譲渡を真実の売買ではなく仮装とすべき理由乃至必要性が存したのか否かということである。

世上往々にして売買、贈与等の外観をとりながら、これは仮装であり真実はなんらの法的効果も生じないという虚偽表示に該る場合も存することも事実である。

しかしながら、かかる仮装行為は、当事者の真の意思としては外観どおりの法的効果なり権利変動を欲しないのに拘らず、その外観を仮装するものであって、例えば債権者よりの追及を免れるため第三者に名義を移転するとか、租税債務の減少を図るため資産、所得の帰属者名義の分散を図るとかの場合に見られるとおり、なんらかの理由により外観どおりの法的効果なり権利変動を当事者の真意としては欲していないということが当然の前提となることはもとよりいうまでもないところである。

これに反し、本件においては、被告人堀口としては、正に外観どおりの譲渡を意図したものなのであって、ことさら、外観と真の意思とが食い違っているものではない。

被告人堀口としては、売買による低額譲渡を真実意欲していたものなのであって、真意として譲渡をなさず所有権を留保するというものではないのである。

本件を仮装譲渡とみる認定は、これにおいて重大な矛盾に逢着するといわざるを得ない。

何故ならば、被告人堀口においては、一体いかなる理由なり必要性に基づいて、譲渡を仮装したというのであろうか、真実の譲渡を欲しなかったというのならば、そもそもどのような意図目的によるものなのであろうか。端的に言うならば、何故仮装をなしたというのであろうか。

これに対する答えは存在しない。何故ならば、被告人堀口としては正に低額譲渡をなす意思の下に売買をなしたものなのであるから、これを仮装とする理由も存しなければ、又必要性も全くないことは当然の理である。

(ハ) 仮装譲渡と根本的に矛盾する事実関係について

前述のとおり、本件譲渡は、なんら仮装と目されるべきものではないのであって、もしこれを仮装譲渡となすとするならば、以下の事実関係と根本的に矛盾するものである。

(a) 即ち、次に述べるとおり、本件売買物件の譲渡後におけるその後の状況につきみるならば、被告会社より本件物件を買い受けた株式会社富士プロジェクト及び株式会社パイディアオーバーシーズは、その買受不動産を次のとおり第三者に転売している。

(1) 売主 株式会社富士プロジェクト

(イ) 物件名 相模大野(原判決添付別紙三物件一覧表番号1 以下同様)

売却年月日 平成三年三月一五日

売却先 タイム・シェア・インターナショナル

(ロ) 物件名 ホテルやしろ(同番号2)

売却年月日 平成五年三月一一日

売却先 武蔵野土地開発公社

(ハ) 物件名 百人町(同番号3)

売却年月日 平成三年九月六日

売却先 東京華商協同組合

(ニ) 物件名 久米川(同番号5)

売却年月日 平成三年三月一九日

売却先 木下長志

(ホ) 物件名 西新宿(同番号6)

売却年月日 平成二年六月二〇日

売却先 (株)成城土地建物

(2) 売主 パイディアオーバーシーズ株式会社

(イ) 物件名 中野区中央(同番号9)

売却年月日 平成二年一二月二五日

売却先 (株)木下工務店

(ロ) 物件名 新小川町(同番号10)

売却年月日 平成三年三月二六日

売却先 関東開発(株)

(b) (第三者の有効な所有権取得及び担保権設定ならびに譲渡所得課税について)

右に挙げたとおり、被告会社より本件譲渡により譲受けた富士プロジェクトにおいて五件の物件を、又パイディアオーバーシーズにおいては二件の物件を第三者に転売しているものであり、かつ又右第三者においても担保権の設定を経ている。

このように被告会社から本件売買により右各物件を買受けた各社において、これを自らの所有として第三者に対し転売しており、もとより右第三者に対する所有権移転も有効になされていることよりみれば、被告会社と富士プロジェクト及びパイディアオーバーシーズとの間の各売買契約は、現実になされかつ有効適法になされたものという他ないことは明らかである。

もし仮りに右売買が仮装であるとするならば、富士プロジェクト及びパイディアオーバーシーズは、もとよりなんらの権利を取得するはずがない無権利者であるにすぎず、かかる無権利者から転売を受けた第三者は何らの権利を取得する根拠が存しないことはいうまでもないところである。

しかしながら、前記各第三者が各物件の所有権を取得しておらず、無権利者であるなどということは、とうていあり得ざることである。

そうだとすれば、たとい同族会社等間になされた低額譲渡であるにせよ、有効に所有権の移転が認められる以上、本件売買は実際に行われこれに伴う法的効果が生じているとみる他ない。

仮装売買から所有権移転の法的効果が生じることなど法的見地からみるとき絶対に不可能であり、背理という他ない。

以上により明らかなとおり、本件売買は実際になされたものであって、仮装売買ということはあり得ないものである。

ちなみに、前記第三者は、いずれも著名ないし有力な企業及び関係者であり、就中(1)(ロ)の取得者は公法人であって、これらが、所有権を取得できない買付をすることなど考えられないことである。

以上摘示した売買物件について、被告会社から譲渡を受けていた株式会社富士プロジェクト及びパイディアオーバーシーズ株式会社においては、第三者への転売による譲渡益につき法人税確定申告をなし、かつこれに対する法人税を納付している。

もし仮りに、被告会社からの低額譲渡が仮装譲渡に該るとして無効とするならば、右富士プロジェクト及びパイディアオーバーシーズが第三者への転売による譲渡益を得るに由なきものであり、仮装譲渡と認定した国税当局がこれと反する譲渡益による法人税を賦課徴収すること自体背理と言わざるを得ない。

(c) (買主カズコーポレーションの所有である旨の確定民事判決及び同社に対する買受物件に対する滞納処分及び強制執行処分について)

本件売買により被告会社より物件一覧表番号12の物件を買受けた株式会社カズコーポレーション(現商号株式会社アーバンポート)に対しては、確定民事判決によって、その所有であることが認められている。それのみならず、同社に対しては、買受物件につき次のとおり滞納処分及び強制執行による差押がなされており、これに対しては何人からもなんらの異議申立もなされていない。

(1) 物件名 代官山(原判決添付別紙三物件一覧表番号12以下同様)

(イ) 差押年月日 平成六年三月二四日競売開始決定

債権者 山一ファイナンス株式会社

(ロ) 差押年月日 平成六年七月一九日

債権者 大蔵省(神田税務署差押)

(2) 物件名 北沢(同番号13)

差押年月日 平成六年三月二四日競売開始決定

債権者 山一ファイナンス株式会社

(3) 物件名 青葉第(同番号14)

差押年月日 平成六年三月二四日競売開始決定

債権者 山一ファイナンス株式会社

(4) 物件名 用賀(同番号15)

差押年月日 平成六年三月二四日競売開始決定

債権者 山一ファイナンス株式会社

右によって明らかなとおり、被告会社より本件売買によって取得した四件の物件について、買受人株式会社カズコーポレーションに対し、差押がなされているものであり、右会社の債権者及び国税当局においても右物件の所有者が右会社であると認めているものである。

これによれば、本件売買が現実になされ有効適法であることを債権者のみならず、国税当局においてさえも認めていることが明らかである。

(d) 以上述べたとおり、本件物件については、担保権の設定及び所有権の移転が適法有効になされていることは、買主より転売を受けた第三者が有効に所有権を取得していること、買主に対する滞納処分及び強制執行処分が右物件につきなされていること等より明らかである。

もしこれを仮装売買とすれば、買主より転売を受けた第三者が有効に所有権を取得し得るはずがないし、又滞納処分ないし強制執行処分も違法であると言わねばならない。

刑事において仮装売買としながら、民事において有効な売買となすなど背理も甚しいという他なく、法常識の見地からしてもとうてい受け容れ難いものであることはもとよりである。

この点につき、原判決は、「仮装行為によって作出された外観に基づいて、新たに法律行為が積み重なることは当然あり得ることであり(民法九四条二項参照)、所論指摘の転売等の事実が本件譲渡の仮装行為性と矛盾しないことは明らかである」と判示される。

たしかに、純然たる法律上の見地からすれば、右原判決の説くごとき善意の第三者への対抗力の付与によって取引の安全が保護される場合があることは事実である。

しかしながら、問題は取引の実際において、たとえかかる取引安全保護の規定が有するからと言って、仮装譲渡による取得者より転売を受ける第三者が一体居るであろうか、かかる規定が存するが故に売買代金を支払う転得者が果たして存するであろうかということである。

本件においても転得者は、被告会社よりの取得者が真の所有者であるとの前提から取引をなし、かつこれに又担保権も設定しているのである。

原判決の右判示は、正に単なる抽象論を述べたものにすぎず、その矛盾を解消することはとうていできないというべきである。

(ニ) 完全な手続が履践された場合においても、仮装とする理由が存するのか。

ところで、もし仮りに本件低額譲渡につき大塚税理士のなしたごとき粗笨鹵莽な処理ではなく、完全な手続が履践されたとしたならば、その場合においても、なおかつ仮装譲渡とされるのであろうかという根本的かつ重大な疑問が生ぜざるを得ない。

本件低額譲渡につき、原判決の認定指摘したごとき、売却の時期、売買代金決定の経緯及び内容、売買契約書の作成状況、登記手続の状況、代金決済の状況及び超過融資分の還流等のすべてについてもし仮りに万遺漏なき処理がなされたとしても、ただただ低額譲渡であるとの理由によって仮装とみなされるのであろうか、もし仮りにそうだとすれば、全くの誤謬という他なく、おそらくかかる場合においては、低額譲渡そのものを認めざるを得ないと考えられる。

代表者が同一人である典型的な同族会社を例にとるとして、右同族会社間において、当該事業年度末において売却損を計上する必要が生じ、取得原価以下の売買金額をもって売買することを双方の同族会社の代表者である同一人が意思決定をなし、売買契約書を作成し、登記手続、代金決済をすべて完全に履践した場合においてさえも、原価割れの売買金額であるとの理由によりこれが仮装譲渡とされるのであろうか。

断じて然らずと思料する。仮りにもしそうだとすれば、同族会社間売買など存しないこととなるのは明らかである。

右のごとき場合にあっては、課税庁としてももとより右低額譲渡を真実のものと認めざるを得ないことはいうまでもない。

ただその場合課税の公平あるいは課税目的の実現等の見地から、行為計算否認がなされる場合があろうが、これは、もとより譲渡を前提としたものであり、仮装とは全く別個のものである。

本件においては、売買に伴う手続一切の依頼を受けた大塚税理士の怠慢、粗雑の処理により右のごとき完全な手続の履践がなされていないことは事実である。仮装との誤解を招き易いまことにだらしない無知拙劣な処理である。

しかしながら、かかる手続の欠陥は、その譲渡行為の本質を改変せしめるものではあり得ない。

要は、取引当事者-この場合は同族会社の代表者本人であるが、その合意的意思が奈辺に存したのか、真に譲渡を望んだのか、それとも事実は単なる譲渡の形式のみで譲渡もなす意思が存しなかったのか否かによって決せられることはいうをまたない。

本件においては、代表者本人である被告人堀口は、真実譲渡をなす意思の下に、大塚税理士にその手続を委ねたものなのであるから、単に手続に瑕疵欠陥がありとしても、このことから譲渡の意思が存しないとなすことは、本末顛倒というべきであるとともに、事案の真実を看過した形式論というべきであると思料する。

以上述べたとおり、本件譲渡は「低額譲渡」であるに過ぎず、「仮装譲渡」ではあり得ないものである。

かかる低額譲渡に対しては、課税庁において課税上の公平の見地よりする行為計算否認の適用の有無が考えられるが、それ以上に刑事上の制裁があり得ないことはいうまでもないところである。

しかるに、本件においては、低額譲渡をことさら仮装譲渡とみなし、これを処罰の対象としたものであって、その違法不当たるや明白というべきである。

3、被告人堀口において、逋脱の故意ないし違法性の意識が存したか否かについて

もし仮りに本件処理が脱税に該ると知っていたとすれば、被告人堀口としては、絶対に大塚に委任することなどあり得ないことである。

もともと被告人堀口としては、低額譲渡が税法上問題ないかどうか、言い換えれば低額譲渡が同族会社間の行為計算否認の対象とされるおそれがないかどうかという点が唯一最大の関心事であり、これ以上に脱税行為に該るかどうかなど考え及ばなかったものであり、ましてやもし仮りにこれが脱税に該るなどと判っていたとしたならば、かかる所為を大塚税理士に依頼することなどとうていあり得ないことであった。

このことは、以下述べるとおりの、被告人堀口がどのような理由により税務専門家の意見を求めたのか、その結果として何故大塚税理士に依頼するに至ったのか、という経緯より明白となるものである。

(一) 被告人堀口の関心事は、同族会社間の低額譲渡が税法上問題ないかどうかを税務の専門家に判断してもらうことにあった。

まず、被告人堀口としては、同族会社間の低額譲渡による売却損の発生が税法上問題のないものであるか否かについて、税務専門家とくに資産税に明るい専門家の判断を仰ぐということが何よりも重要な専決問題なのであった。

このことは、もし仮りに低額譲渡が行為計算否認の対象となるならば、その場合においては、多額の課税が予想され、とうていその負担に耐えられないことが危惧されていたとともに、それでは何よりも低額譲渡をなす目的が達せられなくなると当然考えられたが故である。

そこで、被告人としては、相談相手の佐々木に対し有能な税理士ことに資産税に通暁している税務専門家の紹介を依頼したところ、佐々木の紹介を受けた大塚税理士より「低額譲渡による売却損と利益を相殺すれば、税金は発生しない」旨明快な説明がなされたことにより、ここに同族会社間の低額譲渡をなすこととして、そのための諸手続及び決算、申告のすべてを同税理士に委ねたものであることは、本件の審理の結果明らかに認められるところである。

もともと被告人としては、富士エステートの資産を富士プロジェクトに移す意図であり、その際地価下落を予測して簿価割れの譲渡によって評価損を出すことが税法上可能であるか否かということが先ず何よりも重大な関心事であった。そのため、浅沼税理士や佐々木秀男に相談していたが不明確な説明しか得られなかったところ、大塚税理士より右のごとき処理は、税法上許されるものでなんら問題ではない旨の明快な見解が示されたため、ここにその処理の一切を同税理士に一任したというのが、本件のそもそもの発端であった。

(二) 大塚税理士の教示指導及び決算等の主導について

ところで、大塚税理士は、被告人はじめ富士エステート及び日本リソースの関係者に対しては、次のごとき趣旨の教示指導をしている。

即ち、大塚税理士は、

1、取得原価より安く売却して譲渡損を計上すれば譲渡益と相殺可能であり、譲渡益と譲渡損が同一金額ならば課税関係は生じない。

2、税務調査は必ず入る、税務調査の中で税務署と話合いをして、税務署の意向を入れて修正申告をする(これは、もとより譲渡を当然の前提として、ただ譲渡価格のみを税務署との話合の結果に基づき改訂するというもので、同族会社間の取引とくに低額譲渡の場合等においては、しばしば行われていることは周知のとおりである)。

3、物件を富士プロジェクトだけでなく、他の会社にも売る。

4、すべて自分に任せなさい。今後富士エステート、富士プロジェクトをはじめ関連会社のコンサルタントをして上げる。

趣旨の説明を被告会社及び日本リソースにおいて、被告人堀口をはじめ杉山、佐々木、島津等に明言しているものである。

しかして、かかる説明による方針に基づき、代金額の決定、売買契約、登記より決算、申告等をすべて大塚税理士自らがなし、一切の手続を同税理士がもっぱら主導して行ったものなのである。

このような税務専門家である税理士の確言に基づく指導と税理士自らが主導的かつ積極的に関与した契約及び決算、申告がまさか不正の脱税行為に該るなどとは、被告人堀口はもとよりのこと関係者一同夢想だにしなかったというのが真実なのであり、もとより当然と言うべき事柄ではなかろうか。

事実大塚税理士の説明の当初においては、杉山より「大丈夫なのか。脱税にはならないのか」との疑問が出されたことが窺われるが、これに対しては、「大丈夫です。申告をして、もし問題があれば話し合えばよいのだから」との明快な回答が大塚税理士より示され、被告人堀口をはじめ出席者一同税法上なんら問題はないものと信じたのである。

税務について格別の知識のない一般人である被告人堀口が専門家である税理士、それも有能であり不動産に関する税務に通じているとの触れ込みで紹介された税理士が税法上問題ない旨明言し、自ら責任をもってその手続を教示指導しかつ自ら主導してなしている行為について、これが違法であると認識すべきことなどとうてい期待し得ないことであり、かかる認識を求めることは不可能を強いるものと言わざるを得ない。

(三) 被告人堀口はじめ関係者の意思は、あくまでも低額譲渡をなすことにあり、仮装など考えていなかった。

ここでとくに留意すべきことは、当時における被告人をはじめ関係者のもっぱらの関心は、「同族会社間の低額譲渡は行為計算の否認の適用を受けるおそれが存しないのかどうか」との点に向けられていたのであって、このことはもとより関係当事者にあっては同族会社間においてたとい低額にもせよ実際に売買による譲渡がなされることを当然の前提としているということであった。

したがって、これよりすれば被告人はじめ関係者は、低額譲渡を現実に実行する意図を有したものであって、実際には売買する意図が存しないのに形式上譲渡がなされたかのごとき外形をつくり税の逋脱を図ろうとの意思など全く存する余地がなかったとみることができる。

たとえ低額にもせよ、現実に譲渡がなされればこそ、それが税務上同族会社間において時価に比し低額であるとの理由から、行為計算の否認が適用されるときは、売主においては時価との差額の譲渡益、買主においては同じく受贈益が課せられるおそれがあることを危惧していたものであり、さればこそ、かかる税務上の否認がなされることのないように税務専門家の意見を徴し、適切妥当な処理をしてもらうことを期待したものなのであって、かかる一連の行為の意図・目的の連続推移の事実関係より見るならば、これこそ低額譲渡そのものなのであって、実際に譲渡する意図が存しないのに拘らず売買を仮装したなどとなす余地は全く存しないと言わざるを得ない。

低額譲渡と仮装譲渡とは、全く異なる法的性質のものであって、もし仮りに税逋脱の目的をもって真実譲渡する意思のない仮装売買を企図したと想定するならば、その場合には、同族会社の行為計算否認の適用を受けることを危惧する理由など存するわけがない。これに反し時価より低額にもせよ実際に売買をなすからこそ、税務上の否認の適用により予想外の多額の課税を受けることを危惧したものであるに他ならない。

一言にして言うならば、税務上の否認がなされるかを危惧している以上、これこそ低額譲渡そのものであって、そこには仮装譲渡の故意の存する余地などもともと存しないのである。

原判決は、この理を全く取り違え混同している。この点よりしても、原判決の判断が誤っていることは明らかである。

(四) 被告人堀口の本件に対する認識内容

被告人堀口の本件に対する認識の内容につき、ここで改めて検討するならば、被告人堀口としては、もともと富士エステートの資産を円山町の物件を除きすべて富士プロジェクトに移す考えであり、とくに利益の発生が見込まれる当期において、低額譲渡による売却損の計上が出来るかどうかが関心事であった。

そこで、被告人堀口としては、佐々木に対し相談し、資産税に明るい有能な税理士の紹介を依頼したところ、佐々木より紹介された大塚税理士より「出来ます」「税法上問題はない」旨の説明を受けたので、同税理士に一切の手続を一任したものである。

大塚税理士は、被告人堀口に対し本件の処理が問題があるとかあるいは違法であるなど述べたことなど全くない。かえって税法上全く正当なものとして、処理に当っていたのである。

右に述べた被告人の認識をさらに詳細に時間的な経過にしたがって見てみることとすれば、被告人としては

1、昭和六二年中頃より不動産価格の下落を予想していた。

2、これに伴い富士エステートの営む不動産業について、営業及び資産の整理を考えるようになった。これは円山町の物件の処分には富士エステートを会社ごと売却する他ないので、それ以外の物件は、富士プロジェクトに移転し、同社を今後の営業主体とする考えであった。

3、同年秋頃被告人も関与し佐々木も相談を受けた大手不動産による盛岡の物件の原価割れの低額譲渡の事例を聞知し、その目的は利益があるときに売却損を計上し、不要在庫の処分と利益と売却損との相殺にある旨説明を受けた。

4、被告人堀口としては、その頃富士エステートで相当多額の当期利益の発生が見込まれる折柄、前記富士エステートより富士プロジェクトへの移転に際し、右と同様に低額譲渡による売却損の計上が出来ないものかどうか、もしこれが出来れば富士プロジェクトへの物件の移転と売却損の計上という二つの目的を一挙に果たすことができると考えた。

5、そこで、被告人堀口は浅沼税理士に相談したところ、同税理士より「同族会社間では難しいのではないか、自分より他の誰か偉い先生に訊ねてみて下さい。」とのことであった。又その頃旧知の佐々木にも相談し、類似事例の新聞記事を受取っている。

6、被告人堀口としては、かねてより浅沼税理士の能力なり知識をあまり高く評価していなかったことも手伝い、他の専門家に訊ねてみようと考え、佐々木に対し有能で土地の譲渡に明るい税理士の紹介を依頼した。

7、昭和六三年三月に佐々木より被告人堀口に対し大塚税理士が紹介された。右紹介の経緯は佐々木はかねて旧知の大塚税理士に対し被告人堀口より相談を受けた前記の件を訊ねたところ、同税理士より「出来ます。やり方次第ですね」とのことであったので、依頼を引受けてもらえるかどうか問うたのに対し、同税理士より即座に応諾する旨の返事がなされたので、紹介に至ったものである。

8、大塚税理士は、被告人堀口に対し懸案である同族会社間の低額譲渡について「出来ます」「税法上問題はない」旨明言し、紹介を受けた数日後における日本リソースでの会議の席上、「富士エステートより富士プロジェクト他数社への低額譲渡と売却損の計上による利益との相殺は税法上許される」旨教示し、以後右方針にしたがって自ら主導して売買、決算手続をすすめた。

被告人堀口としては、大塚税理士の前記指導教示を信頼し、ここに売買手続、決算処理の一切を委ねたものであり、かねてからの懸案の処理がなし得ることとなり安堵したものである。

9、以後の手続は、日本リソースでの数回の会議を経て、売買価額、買主の決定、買受代金の融資、代金支払と登記手続等を経て、すべて大塚税理士の主導の下に行われた。

右一連の手続においては、被告人堀口としては、大塚税理士の教示指導に全幅の信頼をおいたものであり、かりそめにも違法とかあるいは脱税という意識を抱いたことはなかった。

10、大塚税理士は、終始「申告をして、もし問題があれば、税務署との折衝は自分が責任をもってやって上げる」旨被告人堀口はじめ関係者に確約していたものであり、専門家の右のごとき発言よりして、被告人堀口として、売買、決算が逋脱に該ろうなどとは夢想だにしなかった。

以上のとおりの被告人堀口の認識においては、仮装売買を意図したことを窺わしめるものはなく、また税の逋脱に該るとの故意の存在を認めることは、とうてい不可能であるという他ない。

被告人堀口としては、あくまでも同族会社等への低額譲渡をなす考えであり、譲渡の仮装など考えたことはないことはいうまでもない。

(五) 被告人堀口には、大塚税理士の指導教示に対する軽信はあったにせよ、税逋脱の確定的犯意は存しない。

右に述べたとおり、いかなる観点よりみても、被告人堀口においてたとえ軽信のそしりを免れ難いとしても、同被告人に税の逋脱につき悪質な確定的犯意の存在を認めることはできないというべきである。

なるほど見方によっては、一介の税理士の指導教示を唯一正しいものとして信頼し、これに盲従しあるいは一切を委ねたことは経済人として軽率に過ぎるということも言えるかも知れない。

しかしながら、税務の素人である被告人としては税務とくに資産税の専門家であり、とくに有能と信じた税理士の確信に充ちた指導教示に対し、これに全幅の信頼を措くことは不思議ではなくむしろ当然と言えるのではあるまいか。

このことは、特別の知識経験を有する物は別として、被告人以外の何人においても同様であったと考えられるのであって、一般通常人がもし仮りに被告人と同様の立場に立ったと仮定したならば、おそらく被告人のなしたのと同じく大塚税理士の指導に従ったであろうことは想像するに難くないところである。

ましてや被告人堀口としては、一体どの点において、大塚税理士の指導教示に疑問を抱き、これを脱税と認識することが可能であったのか。

もしこれが可能であったとすれば、被告人堀口としては、その点において刑事責任を免れられないことは当然であるが、これに反し、もしかかる認識が不可能であったとすれば、被告人堀口には故意は存せず、かつ又違法性の意識も存する余地がないこととなることは言うまでもないところである。

しかしながら、被告人堀口において、大塚税理士の指導教示について脱税に該るとの認識を持ったことがあるのか、あるいはかかる認識を持つことが可能であったのか、本件の一切の証拠関係を精査しても全く認めることはできない。

まず、低額譲渡による譲渡損の発生と譲渡益との差引相殺が許されること、右実現のための売買手続、登記手続さらには決算、申告に至るまですべて大塚税理士の主導の下になされたものであって、その間に同税理士よりこれが脱税行為に該るなどとの発言がなかったことはもとよりこれを仄めかすことすらなかったのである。

いささか私事にわたって恐縮ではあるが、弁護人としては、本件弁護を担当して以来、被告人堀口と打合において触れ合う機会が多かったため、その人柄なり人物については熟知していると考える。

それによれば、被告人堀口本人の人物、性格、家庭環境等よりして、ことさら脱税を企図したなどとは、いかにしても考えられないところである。

唯考えられることは、被告人堀口は、人を信じやすい善良な性格も手伝ってか、大塚税理士の指導教示に全幅の信頼をおいていたものであり、これに従うことがまさか脱税になろうとは夢にも考えなかったということであり、これこそ真実であるということである。

ここにおいて、もし仮りに被告人堀口の軽信なり軽率な態度を責めることができるとしても、これはあくまでも過失によるものであって、とうていこれをもって確定的な逋脱の故意があるとすることはできないことはいうまでもないところである。

もし仮りに逋脱の故意が存するとすれば、それは大塚税理士以外にはあり得ない。

しかるに大塚税理士においても行為計算否認の適用を避けることのみに汲々としていたものであり、これが逋脱に該るとの認識を欠いていたことが窺われるものであり、このことが又同税理士が訴追を免れる一因となったのではないかとも推測されるのである。

そうだとすれば、正に本件は、関係者において逋脱の故意が存しないのに拘らず、大塚税理士の手続の拙劣、怠慢、無知よりして、税務当局より仮装との疑念を抱かれるに至ったと言うべきである。

(六) 違法性の意識ないしその可能性の不存在

すでに述べたとおり、被告人堀口としては、有能練達の税務専門家であると信じた大塚税理士の指導教示を全面的に信頼し、本件取引より決算、申告に至る一切を同税理士に委ねていたものであるから、前述のとおり故意が存しないことはもとより違法性の意識も又その可能性も存しなかったことは明らかである。

ところで、この点においては、「相当な理由に基づく違法性の錯誤」が存する場合には、違法性の意識の存在も又その可能性も存しないものとされているので、本件において「相当な理由」が存したか否かについて若干検討したい。

右相当性の判断基準としては、行政法規とくに租税法規の解釈なり存在なりの認識を欠いた場合が問題とされ、自己の行動決定にあたり行政官庁、専門家の指導、助言、鑑定意見に従った場合、たとえこれが違法であったとしても違法性の錯誤につき相当の理由があったとされる。

本件においては、租税法上の譲渡益と譲渡損との差引相殺、低額譲渡による譲渡損の発生、行為計算否認の適用の可否等という極めて専門、技術的な事柄について、租税専門家である税理士の見解意見に全面的に従い、これに一切の手続を委ねたという場合にあっては、まさかこれが脱税行為に該るなど考え及ぶはずがない。この点は、税務官庁の指導に従って決算処理、申告をなした場合と径庭はない。

かかる場合にあっても、専門家である税理士の指導教示に疑いを抱き違法であると認識すべきことなどとうてい期待し得ないことであり、これこそ不可能を強いるものという他ない。

さればこそ、本件においては、被告人堀口には違法性の意識乃至その可能性も存しないという他ない(この点において、再三述べるとおり本件は、低額譲渡が仮装と認定されたという極めて特異かつ稀有の事例であることを認識すべきである。これは脱税の手段としての売上除外、経費の架空計上等といった何人にも容易に判明する事柄とは、全くその性質を異にする。同族会社間における低額譲渡という高度に専門的かつ技術的な事項について専門家の指導教示乃至意見を違法であると認識すべきことなど、何人に対しても求めることはできないことに思いをいたすべきであると思料する)。

第四点 訴追裁量権の濫用

前掲第一点(憲法違反の主張)即ち(原判決は、憲法第一四条第一項の解釈に誤りがある。)を受けて、本件の処理における訴追裁量権の濫用について細説する。

(一) 本件の経緯

昭和六三年五月三一日大塚税理士作成にかかる被告会社の法人税確定申告書が同税理士により渋谷税務署に提出されたが、右提出後同年夏に右税務署員が同税理士事務所を訪れ数回折衝がなされた後、同年一〇月四日国税局の査察が行われるに至った。

以後国税局の査察調査は、大塚税理士への事情聴取を中心に行われたが、とくに注目すべきことは、局側としては、右税理士の申立を全面的に信用し、これに依拠して調査を進めたため、被告人堀口はじめ被告会社関係者の供述はことごとく虚偽のものとして排斥されたということである。

その結果、局としては、本件は、被告人堀口が中心となって企図したものであって、大塚税理士はたまたまその手足として使われたに過ぎないとの先入主の下に、大塚税理士をむしろ調査の協力者として遇し、参考人としての顛末書を徴するに止め、ひとり被告人堀口を主犯として告発するに至ったものである。

右告発を受けた検察庁も国税当局の調査結果を基にして起訴に及び、第一審、原審判決を受けたものである。

(二) 原判決の判断について

すでに挙示したとおり、原判決は、

「なるほど、本件で大塚税理士が果たした役割は大きく、同税理士の存在によってはじめて本件の犯行が可能になったものと認められるほか、税務の専門家として納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士法の理念を無視し、現実に報酬の支払まではなかったものの、本件脱税に手を貸すことによって相当多額の報酬を企図していたものと窺われることからすると、同税理士の責任は重大であり、この点は被告人の量刑に当たっても十分考慮されるべきである。しかしながら、被告人が本件で果たした役割は大きい上、そもそも被告会社は、本件における納税義務者であり、被告人は、その実質的経営者として、その法人税納税義務を誠実に履行すべき地位にあった者であって、これらの義務を負わない大塚税理士とは基本的な立場を異にすることが明らかである。本件公訴提起が憲法一四条一項に違反し、訴追裁量の範囲を逸脱した違法無効なものであるとはいえない。論旨は理由がない。」

旨判示する。

原判決が、大塚税理士の果たした役割の重大性、同税理士の存在によってはじめて本件が可能となったものと認めたこと、さらに税務の専門家としての使命を無視していたこと等より同税理士の責任の重大性を認定していることは、評価するに値するものである。

しかしながら、原判決がこれに続き、被告人堀口が本件で果たした役割は大きいこと、納税義務者の実質的経営者としての納税義務を誠実に履行すべき地位にあったことから、右義務を負わない大塚税理士とは基本的な立場を異にするとして、弁護人の主張を斥けていることは、なおかつ大塚税理士の役割、立場に対する根本的な理解を欠くものと言わざるを得ない。

(三) 大塚税理士の役割、立場

本件において大塚税理士の果たした役割の重大性については、原判決の指摘するとおりであるが、以下のごとき事実関係よりすれば、ほとんど主導者としての役割を果たし、その立場にあったことが明らかである。

即ち、大塚税理士は、

(イ) 被告人堀口はじめ被告会社関係者らに対し「取得原価より安く売却し、譲渡損を作り譲渡益と相殺する。譲渡益と譲渡損が同一金額であれば課税関係は生じない。」旨明言し、これを決算申告処理の基本方針としていること。かつ又右処理は税法上なんら問題ない旨確言していること。

(ロ) 右方針の下に、買主の選定をはじめ、売買価格の決定、売買契約書の作成、登記手続の依頼等低額譲渡についての売買契約に伴う手続をすべて自らの判断の下になしていること。

(ハ) 右低額譲渡に基づき自ら決算書を作成した上、法人税確定申告書を作成提出していること。右確定申告書の作成、提出に当たっては、被告人堀口に予じめ提示することなく、税務署への提出後においてはじめて提示したものであること。

(ニ) 納税調査は必ず入るので、自分の方で責任をもってやって上げると確約していたこと。

以上は、すべて証拠関係より明らかに認められる事実である。

それよりすれば、本件における大塚税理士の役割、立場は、主導者そのものであるといわねばならない。

これに比すれば、被告人堀口は、ただ単に大塚税理士の確言を盲信し、これに一切を委ねたというだけのものに過ぎないことは明らかである。

就中、税務専門家としての責任を考えるならば、検察官においてもし仮りに本件を逋脱行為とみるとした場合においては、大塚税理士こそ税務行政に重大な悪影響を及ぼしたものとしてまず、これを第一に訴追すべきものではあるまいか。

しかるに現実には、国税当局の当初の方針(これが大塚税理士の刑事責任追及免除とその代わりとしての被告人堀口への罪責の転嫁との取引であった疑いが濃厚であるが、この点をさて措くとして)どおり、被告人堀口のみ告発、訴追を受けるに至っているのに対し、より重大な刑事責任を負うべき大塚税理士が全く不問に付されていることは、不正義極まれりと評しても過言ではないものと信ずる次第である。

(五) 結語

本件における低額譲渡とこれによる譲渡益と譲渡損の相殺という処理につき、税法上可能であるとして違法ではない旨教示指導した上、右処理方針に基づく手続一切を自ら遂行した実行行為者は、大塚税理士であり、被告人堀口は、右専門家の教示指導に従ったのに止まるのに拘らず、被告人堀口は、長期の勾留とともに公判廷に立たされ、他方すべてを教示指導しかつ自ら実行した大塚税理士は全く不問に付される。この差別的措置は何としても納得できないことである。

専門家としての教示指導をなしかつ自ら手続を履践した大塚税理士が不問に付されるのに、専門家を信頼しこれに従った被告人堀口が訴追されるとは余りにも理不尽な差別的措置であるという他なく、原審以来公訴棄却を求めて来た。

しかるに、原判決は、前挙示のとおり「本件で大塚税理士が果たした役割は大きく、同税理士の存在によってはじめて本件の犯行が可能になったものと認められるほか、税務の専門家として納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士法の理念を無視し、現実に報酬の支払まではなかったものの、本件脱税に手を貸すことによって相当多額の報酬を企図していたものと窺われることからすると、同税理士の責任は重大である」旨正当に判示しながら、単に「この点は被告人の量刑に当たっても十分に考慮されるべきである」旨述べるに止まり、訴追裁量の範囲を逸脱した違法無効なものであるとはいえないとして、斥けられた。

しかしながら、ことは、単に被告人の量刑についての参酌事項であるに止まらず、裁量を逸脱した差別的措置であることよりして、大塚税理士が不起訴になるのであれば、被告人堀口にも当然不起訴になるべきであり、訴追裁量権の行使の逸脱に対しては、被訴追者の救済を考え、公訴を棄却するか、少くとも本件における検察官の差別的措置は甚しいものがあるので、原判決を破棄し、被告人堀口に対しせめて執行猶予を付することによって処断しなければ著しく正義に反するものと思料する。

第五点 量刑不当の主張

一、原判決は、原審における弁護人の事実誤認、憲法違反、理由齟齬、及び訴訟手続の法令違反の各主張をすべて排斥し、ただ量刑不当の主張に対し、被告人堀口に関する部分を破棄して同人を懲役三年六月に処する旨の判決を言い渡した。

そこで弁護人はただちにこれを不服として上告申立をなし、当審において、前述のとおり、憲法違反、判例違反、事実誤認、訴追裁量権の濫用を各主張するものであるが、かりに右各主張がいずれも容れられないとしても、原判決の量刑は以下述べるとおり、甚しく重きに失して不当であり、これを破棄しなければ著しく正義に反すると思料する。

以下その理由を述べる。

二(一) 原判決は、弁護人が原審において控訴趣意書及び弁論において被告人両名に対する量刑不当の理由として主張、指摘した諸点に対し、不利ないし悪しき情状として1、本件は単年度ながら逋脱額が三二億円余と極めて多額に上っている 2、逋脱率も一〇〇パーセントで高率である 3、犯行の主たる動機は結局不動産取引によって被告会社が初めて上げた莫大な利益を保持するため、多額の納税を避けたいという利己的なものに過ぎず、酌量の余地に乏しい 4、手段方法は約五〇億円の土地譲渡利益金を一挙に消すために短期間の内に多数の関係者を動かして一五物件の売買を仮装するなどしており、強固な犯意に基づく大胆な犯行というべきである 5、現在でも逋脱にかかる法人税本税、重加算税等は一部しか納税されておらず、今後完納の具体的な見込みはない 6、不合理な弁解に終始するとともにその手腕を信頼してすべての税務処理を任せた大塚税理士に責任の大半があると述べて自己の責任の転嫁や軽減を図るなど十分な反省の態度を示しているとはいえないとの諸点を指摘して被告人堀口及び被告会社の刑事責任は重いと判示し、他方有利な情状として1、被告人堀口にはこれまで前科前歴がなく、真面目な社会生活を営んできたことやその家庭の状況等の一般的情状 2、本件で大塚税理士が果たした役割は大きく、同税理士の関与なしには実行できなかったものでその存在によってはじめて本件の犯行が可能になったものと認められるほか、税務の専門家として納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士法の理念を無視し、現実に報酬の支払まではなかったものの、本件脱税に手を貸すことによって相当多額の報酬を企図していたものと窺われることからすると同税理士の責任は重大であり、被告人堀口の量刑に当たっても十分考慮されるべきであり、その同税理士が処罰を免れていることを考慮すると、被告人堀口に対してはいまだ刑の執行を猶予すべきものとは認められないものの、検察官の求刑どおり懲役四年に処した一審判決の量刑はその刑期の点でいささか重過ぎて不当であるといわざるを得ないと指摘して結局一審判決中、被告人堀口に関する部分を破棄して被告人堀口を懲役三年六月に処する旨の判決を言い渡したものである。

(二) しかしながら弁護人は、原判決の指摘する不利な情状は、本件の実相を直視することなく、きわめて表面的かつ形式的にとらえたものとして到底承服できない。たしかに本件は形式的にみれば単年度で三二億円余を逋脱したとされるのであるから近時の脱税事件の量刑の状況からすれば代表者に対しては実刑、それも相当重い実刑、法人に対しても重い罰金刑を科せられてもやむを得ない事案かもしれない。しかしながら弁護人は、本件には前記第三点事実誤認の主張その他で詳述したとおりの特殊の事情が存在し、かりにそれによって無罪その他の結論に到達しないとしても、本件の重要な情状として量刑の面において十二分に斟酌を要するものと確信するので、以下この点を含め、本件の情状全般につき分説する。

1、事実に関する情状(いわゆる犯情)

(1) 脱税額が巨額で逋脱率が一〇〇パーセントであることについて

本件で脱税とされる金額は単年度で三二億円でたしかに多額であり、逋脱率も一〇〇パーセントで高率であって、その点だけに着目するならば原判決の量刑はかならずしも不当とはいえないけれども、前述の事実誤認その他の各主張でるる詳論したとおりの特殊の事情、すなわち本件において被告人堀口は職業専門家である大塚税理士の指導と教示を誤まりないものと全面的に信じて同税理士にすべてを一任してしまったところ、予期に反して同族会社間の行為計算の否認をめぐる所轄税務署との折衝と修正申告で事が納まるどころか査察、告発、身柄拘束、起訴、一、二審とも有罪でしかも実刑判決という最悪の路線をたどる破目となったという事情、経緯があり、結局被告人には確定的犯意までは認め難く、事を実態に即してみるならば、原判決の量刑は専門家である大塚税理士の税務処理の実態に疎く、かつ、生半可な理にのみ走ったきらいのある判断、処理のミス、一口にいえば度を超えたやり過ぎの結果責任を被告人堀口に押しつけるというにも等しいものといわざるを得ない。

けだし、逋脱金額が巨額で逋脱率が一〇〇パーセントとなったのはあくまで大塚税理士の操作処理の結果であって、被告人堀口がそのように依頼ないし要求などしたこともなく、申告時においても納税額がゼロとは知らされておらず、申告後にそれを知って銀行取引上困ると大塚税理士に苦情を述べた位であって、要するにこれらのいずれも被告人のあずかり知らぬことであったからである。したがって逋脱金額の巨額などの点をストレートに被告人堀口の不利な情状として考慮するのは本件の場合当を得ないものというべきなのである。

(2) 動機について

原判決は、本件脱税とされる行為の動機について、被告会社が初めて上げた莫大な利益を保持するためという被告人堀口の利己的なものに過ぎず酌量の余地に乏しいと指摘しているけれども、元々一般的に法人の脱税事件はことごとく会社経営者らが自らの会社の利益を先行の思わざる不況などの実態に備えて社内留保ないし保持するために犯されるものというべく、この点について被告人堀口をとくに非難するのは当たらないうえ、被告人堀口は少くとも何らの個人的利得を目的としていたものではなく、あくまで自分が切り回わしてゆくべき富士プロジェクト、富士エステートなどの会社の経営プログラムに伴う資金蓄積とか在庫不動産の値下がりに対する合理的な対応策として行なったものであり、また脱税したとされる金員ないし低額譲渡の代金などを自ら個人的に利得ないし費消した形跡も全く認められず、巷間伝えられる会社代表者が脱税した金員を裏金として利得したり、あるいは遊興費その他個人的用途に費消したというような事犯とは全く類を異にするのである。

(3) 手段方法について

本件脱税の手段方法とされる行為は、要するに所有不動産の「仮装譲渡」ということであるが、被告人堀口が元々目論んでいたのは同族会社である富士エステートから富士プロジェクトへの「低額実売買」であり、それが同族会社間の行為計算の否認の対象となるかもしれないとしても税法上脱税という問題までは生じないのであればその手法で節税をはかろうということであったのであり、不動産の売却先としてパイディアオーバーシーズとかカズコーポレーションが登場してきたのはひとえに有能な職業専門家として新たに登場した大塚税理士の強い指導と教示によるものであったのである。もしかりに被告人堀口の当初の目論見どおり、売却先を同族会社である富士プロジェクト一社のみとして事を運んだとしたならば、売主である被告会社の代表者(実質上)と買主である富士プロジェクトの代表者がいずれも被告人堀口で共通であってみれば、両社の売買意思の合致に何らの問題はなく、あとは同族会社間の低額譲渡として税務署の税務調査の段階で行為計算の否認がどこまでなされるかという場面が生じえたにとどまり、査察が入って脱税事件に発展するというような成り行きにはならなかったものと考えられるのである。

このように本件が原判決のいう如き多数の関係者を登場させた仮装譲渡という「いつわりその他不正の行為」による脱税事犯として追及を受け、そのような認定を受けるに至ったのは、ひとえに税務処理の実務、実情に疎い大塚税理士の生半可で余計な指導、教示に起因するものであって、その責任は主として同税理士に帰せられるべきものであり、これをう呑みにして盲従したに過ぎない被告人堀口に負わせるのは全く当を得ていないというべきである。本件が一見、原判決が指摘する如き強固な意思に基づく大胆な犯行との外観を呈するのは、いうなれば被告人堀口がほとんど無邪気に、単純に優秀で有能と信じた大塚税理士の意見と指導をそのまま信じて事を一任してしまったことの一面の表れともいえよう。

(4) 事後の納税状況等

被告会社が現在まで本税、重加算税、延滞税、地方税の一部しか納税しておらず、今後完納する具体的な見込みはないとの点については遺憾ながらそのとおりであるが、その原因は主としていわゆるバブル経済の崩壊による不動産業界の極端な不況、それに加うるに本件による打撃、ことに被告人堀口を勾留により長期間にわたり欠いたことによるダメージ等にあるのであって、被告人堀口ないし被告会社の納税意思の欠如によるものではないから情状の面でこの点を重視、強調するのは当を得ないものである。なお、東京国税局は、金一二億七千万円余相当の資産を差し押さえており、その分については今後徴収可能の状況にあることを指摘しておく。

(5) 反省の態度について

原判決は、被告人堀口が不合理な弁解に終始し、大塚税理士に責任の大半を転嫁しようとしているなど反省の態度を示していないと指摘するが、本件における被告人堀口の主張を不合理な弁解ときめつけることが不当なことはすでに詳論したところから明らかであるし、被告人堀口の立場としては、税務の専門家である大塚税理士に相談し依頼したのはたしかに自分であるが、その後の一切の作業はすべて大塚税理士の主導に従って行われたものであるから、依頼した後の事務処理、たとえば一五物件の売買契約、登記、税務申告などについてはよくわからないというのが実際であったところからそのように供述しているだけであり、決して自らの責任を回避しようとしているのでも何でもないのであって、原判決の非難は当たらない。

(6) 本件摘発による被告人堀口らの受けたダメージについて

被告人堀口については後述するが、被告会社及び富士プロジェクトは本件の査察、被告人堀口の長期にわたる身柄拘束、起訴、公判、有罪の実刑判決などによりいろいろの面で大きなダメージを受けていることはもちろんであり、時たまたまバブル経済崩壊の時期とほぼ重なったこともあって巨額の納税負担と負債の返済に塗炭の苦しみを味わいつつあるのであって、果たしていつまで会社を維持存続しうるかさえ危ぶまれているところである。このような重大危機に両社が被告人堀口を欠くようなこととなれば、また九億円もの巨額の罰金刑を科せられることとなれば両社の命運はここに極わまれりという事態は必至である。

(7) 大塚税理士の処分と権衡について

ことに最後に強調しておきたい点は被告人堀口と大塚税理士との処分の権衡の点である。すなわち、かりに本件が脱税として有罪を認められるとするならば、両者は当然共同正犯の立場に立つべきところ、両者の本件における立場、役割をみると、要するに被告人堀口は納税義務者である被告会社の代表者として本件脱税処理を大塚税理士に依頼一任したものであり、同税理士はその依頼を受けて実行々為を全面的に担当処理した、それも会社の関与税理士ないし経理担当者が社長の指示命令に従っていわば手足として事務的ないし機械的に事務を処理したというのと全く異り、税理士という職業専門家として、あるいは手法を発案し、あるいは教示し、あるいは実行するなど主導的ないし主体的に経理担当の栗林久枝らを駆使して終始事の一切を担当処理したというものである。この点につき、原判決は、本件において大塚税理士が果たした役割と負わされるべき責任について相当程度の理解を示しつつも、なおかつ結論としては被告人堀口に実刑判決を言い渡したものである。しかしながらこの両者の責任の軽重については見方、立場によって議論がありうるとしても(その詳細は第一点憲法違反、第四点訴追裁量権の濫用の各主張において詳論したので再説を避けるが、とくに大塚税理士には税理士としての職責違反があり、さらに両者の違法性の意識-これありと仮定して-の軽重には、一方が職業専門家で他方が全くの素人で前者に盲従したにすぎないことを考えると正に格段の差があったと思われることなどを考慮されたい)、いずれにせよ一方が懲役三年六月という相当長期の実刑が相当で他方が全くの不処分でよろしいという結論は社会の健全な良識ある人士を得心させないことだけは明らかであろう。してみれば本件における被告人堀口に対する量刑としては、大塚税理士に対する訴追が今さら不可能なのである以上、刑は刑として(たとえば懲役三年)その執行を猶予する(たとえば猶予期間は最長の五年)のが具体的に適切妥当なものであり、それによって一面、本件が逋脱金額その他の点から軽視すべからざることを十分社会に示し、かつ、被告人堀口を厳戒するとともに他面、原審量刑のもたらすべき被告人堀口と大塚税理士との間の処遇の決定的較差による甚しい不正義、不権衡を一挙にして解消することとなるものと確信する次第である。

2、一般的情状(主として被告人堀口について)

(1) 身上経歴について

被告人堀口は日立市で出生し、都立竹早高校を経て昭和三二年東京写真短大を卒業し、イラク大使館に大使秘書として採用されて二年間勤務し、その後百科事典の販売会社に勤務したが、そのころ夫容一と結婚し、間もなく夫の転勤とともに渡英し、昭和四四年帰国するや不動産業界に入り、昭和五四年被告会社などを設立してその経営にあたりつつ本件当時に至った者で当年五九歳の女性である。

このように被告人堀口は中流家庭に生まれ育った通常の社会人であるから刑事事件の犯歴の如きは全くないのはもちろんであるし、被告会社もまた何らの処罰歴がないこともちろんである。

(2) 家庭の状況について

被告人堀口は四人家族で夫容一(六〇歳)、長男昌隆(二二歳)、長女採衣子(一九歳)とともに円満で幸福な家庭生活を送っている。

夫容一は住友商事に長年勤務して非鉄金属副本部長(取締役直前のポスト)にまで昇進したが、本件査察後会社への万一の迷惑を事前に回避するため病気を理由に退職して現在に至っている。また被告人の父母がいまだ健在で(父九〇歳、母八四歳)杉並区内に居住している。

これら夫、子、両親らはいずれも被告人堀口の今後に不安と心痛の長い日々を送っており、夫はもちろんのこと、思春期にある子供二人、老い先短い老父母も本件裁判が被告人堀口にとって明るい結末を迎える日の一日も早からんことを切に願っているところである。

(3) 改悛反省の情について

被告人堀口は元来いわゆる「餠は餠屋」という考え方の持主で税金問題は専門家の税理士にすべて一任する方針でやってきたのであるが、本件についても決算及び申告を大塚税理士に一切「お任せ」してしまった結果、査察、告発、起訴、一、二審有罪判決の実刑という予期せざる最悪の展開となってしまったものであり、今となっては「大風呂敷をひろげるタイプ」(黒川和紀証言)の大塚税理士を実力以上に過大評価して軽率にも盲信盲従した結果の責任を背負わされかねない事態に直面して本件における自らの態度にいささか慎重さが欠けていたと自戒自省しているところである。

(4) 実質的処罰について

被告人堀口は、昭和六三年一〇月の査察以来、平成三年七月四日身柄拘束、起訴、一年近くにわたる未決勾留、約四年半にもわたる一、二審公判、そして一審で懲役四年の厳しい実刑判決、さらに原審において若干の軽減にあづかったけれどもなおかつ懲役三年六月という相当長期の実刑判決を受けるという過酷な長年月を送ってきたものであって、元々良家の子女である被告人堀口にとって文字どおり獄の日々であったと思われる。その間、本件は新聞その他にも報道されるなどいわゆる社会的制裁を十二分に受けていることはいうまでもない。したがって被告人堀口は本件につきすでに実質的な処罰を十分に受け終っていると評価してやってしかるべきものと思料されるのである。

(5) 実刑による悪影響について

被告人堀口は現在も被告会社及び富士プロジェクトを経営しているのであるが、いずれも被告人堀口なくしては到底経営を維持してゆけない状況であり、かりに被告人堀口を実刑により失うこととなれば現下の不況時、資金ぐりその他あらゆる面で行き詰まって早晩倒産の憂き目をみることは必至であり、他方家庭の面においても妻を、母を失なった夫、息子、娘、さらには老い先短い父母に与える打撃と悪影響は正にはかり知れないものがある。

(6) 再犯のおそれについて

被告人堀口は本件につき真底こりごりした、二度と同じようなあやまちを犯すまいと固く心に誓っており、税金問題には慎重な上にも慎重に対処してゆく決心であり、別の信頼できる税理士の関与を得て、また側面から慎重な良識家の夫容一がその後富士プロジェクトの代表取締役に就任して全面的に参画、協力して十分目配ばりしている現況であるから再犯のおそれの如きは文字どおり皆無といってはばからないところである。

三、刑事訴訟法第四一一条二号についての判例事案との対比について

(一) 量刑不当による最高裁の破棄判決は、現在までに十数件を算する如くであり、いずれも本件と対比検討を要するものであるが、そのうち本件と犯情ないし情状につき近似性ないし共通性を有すると思われるものとしてとくに次の五件を指摘したい。

(1) 昭和三〇年五月一二日第一小法廷判決、自判、公職選挙法違反、裁判集一〇五号二〇九頁

被告人が選挙運動者に運動報酬として五〇万円を供与した事案につき、一審は懲役六月、執行猶予三年、二審は懲役八月の実刑に各処したが、本判決は、右五〇万円が専ら運動報酬として供与されたものでなく、別の政治団体の運動費用に主として充てるため支出したものであること、「被告人の認識がいわゆる未必的犯意に属するものであったと」、その他被告人の経歴等一切の情状を総合すると原判決の量刑は不当であるとして破棄し、懲役八月、執行猶予二年の判決を言い渡した。

(2) 昭和三七年四月一三日第二小法廷判決、自判、贈賄、裁判集一四一号七八九頁

いわゆる昭電事件の中心人物の一人である被告人について懲役一年の実刑に処した原判決を破棄して五年間の執行猶予を付したものであるが、その理由として、「被告人は昭和二三年六月二三日逮捕拘禁され、同年一二月三〇日保釈されるまで六ケ月余拘禁され、その後一審、二審、三審と重ねて約一四年の長期にわたる公判を重ねて被告人は心身に有形無形の多大の苦痛を受けたこと」、「本件は起訴された被告人の数は三〇数名にのぼり、いわゆる昭電事件として世人の耳目を聳動せしめた大事件ではあるけれども、その後の推移をみると被告人関係の事件においては関係被告人がすべて無罪または執行猶予となって一名以外はすべて確定していること」、その他の諸事情を考慮するときは被告人に対し実刑を課さなければ刑政の目的を達することができないものとは断じ難く、刑の執行を猶予するのが相当であって、原審の量刑は重きに過ぎ、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる旨判示している。

(3) 昭和三七年五月一七日第一小法廷判決、自判、傷害、裁判集一四二号一二三頁

被告人は他数名と共同して被害者に対し、えり首をつかんで引きまわし、手拳で顔面を殴打し、倒れたところを足蹴りするなどの暴行を加えて全治一ケ月の左肋骨々折等の傷害を負わせたという事案につき、一審判決は懲役五月に処し、原審もこれを維持したのに対し、本判決は、本件は被告人が首謀者もしくは率先者となって共謀などがなされたものでなく、「被害者の受けた重傷はむしろ被告人以外の者の行動にも起因する疑いが濃厚であること」、「被告人はいわゆる軽率盲動に過ぎなかったこと」、その他「被告人の経歴、性格、社会的地位、犯罪後の状況」、「第一審相被告人らに言い渡された刑とのつり合い等」を参酌すると被告人に対する刑の量定(就中被告人に対して刑の執行を猶予しなかったこと)は甚だしく不当であって刑訴法四一一条二号により原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認める旨判示して前記刑に二年間の執行猶予を付している。

(4) 昭和五三年二月二八日第三小法廷判決、自判、公職選挙法違反、判時九二六号一四頁

選挙運動者に対し選挙運動の報酬として現金二〇万円を供与したという事案につき、懲役八月の実刑に処した一審判決を維持した原審判決に対し、本判決は、被告人が候補者に多大の恩義を受けていたこと、有力な選挙運動者からの要求に応じたものであることの他に、「第一審相被告人らに対する量刑」などを考え合わせると、本件は刑の執行を猶予すべき案件と認められ、一、二審判決の量刑は甚しく重きに過ぎ、これを破棄しなければ著しく正義に反する旨判示して懲役八月、執行猶予五年の判決を言い渡した。

(5) 昭和五八年九月二二日第一小法廷判決、自判、業務上過失致死等、判時一〇九八号一七頁

右判決はいわゆる雫石全日空機・自衛隊機空中衝突事件に対するものであるが、その要旨は、本件の過失として、自衛隊の飛行訓練計画の立案当局のジェット・ルートJ11Lの両側五海里内に進入しないよう回避する義務違反の過失及び被告人である教官機長の見張り義務違反の過失がそれぞれ認められるところ、「本件事故について被告人の見張り義務を怠った過失が責められるべきではあっても、その義務履行ないしそれによる事故回避の可能性は極めて限られたものであるから、この義務を懈怠したことをとらえて被告人の罪責を余りに重視すべきではなく、また、見張り義務と同時に存在した編隊の位置を確認してジェット・ルートJ11Lの両側五海里内の空域での編隊飛行訓練を回避すべき義務違背についても、本件の編隊飛行訓練が叙上のような実施計画に従って行われたものであるという事情を酌むときは、被告人のこの点の落度を重くみて被告人のみにその責任を負わせることも相当といえないのであって、飛行訓練計画の立案、実施にあたり、航空安全対策、ことに民間機の常用飛行経路として航空頻度の高いジェット・ルートJ11Lの安全に対する配慮を怠った航空自衛隊当局、特に松島派遣隊幹部の責任こそ重大であるというべきであり、このような事故の発生は、右の如き杜撰な計画をそのまま実施に移し被告人らに飛行訓練を行わせた右幹部らの怠慢を抜きにしては到底考えられないところである。以上のような諸事情を勘案すると、右松島派遣隊幹部らが立てた訓練計画に則り、上官の命により飛行訓練の実施に参加した一教官にすぎない被告人ひとりにあげて本件事故の刑事責任を負わせ、禁錮四年の実刑を科することは、本件事故が極めて重大なことを考慮に入れても、なお酷に過ぎる」というべきであって、第一審判決及びこれを維持した原判決の量刑は甚だ重きに過ぎ、これを破棄しなければ著しく正義に反するといわなければならない旨判示して被告人に禁錮三年、執行猶予三年の判決を言い渡した。

(二) 以上の各判例においては、量刑不当で破棄する理由としていろいろの点を指摘、判示しているのであるが、とくに本件と近似性ないし共通性を有する点として、相被告人ないし当該被告人よりも重い有責者らに対する量刑または不訴追処分との権衡を十分考慮すべきであること、結果発生が被告人以外の者の行動にも基因する疑いが濃厚であること、事件への加担が軽率、盲動に過ぎなかったこと、長期公判により心身に多大の苦痛を受けていること、犯意が未必的であること、被告人の経歴、性格、社会的地位、犯罪後の状況が良好であること等の一般的情状などが挙げられており、これらの各判例事案と本件とを対比検討するならば、本件の量刑もまた甚しく重きに過ぎて不当であり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと言うべきであると信ずる。ことに被告人堀口に対しては、大塚税理士に対する不問処分との権衡を十分に考慮して当然に執行猶予を附すべきところを、あえて原判決が懲役三年六月の実刑を科したのは、前掲各判例、ことに共犯的立場にある有責者の処分との権衡を重視、考慮すべきものとする(2)ないし(5)の各判例の趣意、態度に反するものでその量刑不当はまさに甚しいものと断じて破棄せらるべきものであると重ねて強調するものである。

四、結論

以上の各情状及び各判例事案との対比を総合勘案するならば、原判決が被告人堀口に懲役三年六月の実刑を言い渡し、被告会社に対する罰金九億円の一審判決の量刑を是認維持したのはいずれも甚しく重きに過ぎて不当であって著しく正義に反し、ことに被告人堀口については前述した諸々の情状に照らし執行猶予の恩典を与えてしかるべきであるにかかわらず、あえて実刑を維持したのは誠に不当な酷刑で著しく正義に反することがとくに甚しいというべきであるから、いずれも破棄せられたうえ、被告人堀口については執行猶予付の、被告会社についてはより軽い罰金刑の各判決を求めるため上告に及んだ次第である。

平成七年(あ)第一一七八号法人税法違反被告事件

上告趣意書

被告人 株式会社富士エステートアンドプロパティ

被告人 堀口麗子

右の者らに対する法人税法違反被告事件について上告趣意を左記のとおり述べる。

平成八年一〇月二日

右弁護士 高橋庸尚

最高裁判所第一小法廷 御中

目次

第一 序説・・・・・・二九九六

一 公訴事実・・・・・・二九九六

二 一審判決の要旨・・・・・・二九九七

三 原判決の要旨・・・・・・三〇〇八

第二 上告理由・・・・・・三〇二五

(その一)被告会社の本件物件の売買は仮装行為ではなく、原判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がある。・・・・・・三〇二五

一 本件における法人税法一五九条の適用・・・・・・三〇二五

二 原判決及び一審判決における被告会社の本件物件の売買が仮装行為であるとの判断の根拠・・・・・・三〇二六

三 売買契約成立の要件・・・・・・三〇二六

四 同族会社あるいはグループ企業間の売買契約の成立・・・・・・三〇二六

五 昭和六二年五月一八日付日本経済新聞の「そのときどうなる」と題する記事の意味・・・・・・三〇二八

六 本件売買は仮装行為でない・・・・・・三〇二九

七 本件売買における売主と買主の関係(その一)・・・・・・三〇三〇

八 本件売買における売主と買主の関係(その二)・・・・・・三〇三二

九 本件売買における売主と買主の関係(その三)・・・・・・三〇三三

一〇 本件売買における売主と買主の契約成立の意思・・・・・・三〇三四

一一 本件売買におけるカズコーポレーションの契約成立の意思に関する補論(その一)・・・・・・三〇三五

一二 本件売買におけるカズコーポレーションの契約成立の意思に関する補論(その二)・・・・・・三〇三八

一三 本件売買におけるカズコーポレーションの契約成立の意思に関する補論(その三)・・・・・・三〇三八

一四 本件物件の売買契約に関する契約書作成等の不備について・・・・・・三〇三九

一五 大塚税理士及び浅沼税理士について・・・・・・三〇四〇

一六 被告会社の本件物件の売買は法人税法一五九条一項にいう「その他不正の行為」に当たらない・・・・・・三〇四一

一七 土地の値下りと本件物件売買価格との関係には合理性がある・・・・・・三〇四三

一八 大塚税理士も税務署との話し合いになると予想していた・・・・・・三〇四三

一九 被告会社もパイデアオーバーシーズもカズコーポレーションも被告会社の本件物件の売買は真正なものであり、仮装行為でないと考えていた・・・・・・三〇四五

二〇 結語・・・・・・三〇四九

(その二)被告会社及び被告人には脱税の故意がなく、原判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がある。・・・・・・三〇五〇

一 犯罪における故意の成立・・・・・・三〇五〇

二 被告人において法人税法違反の認識はなかった・・・・・・三〇五〇

三 被告人において偽りその他不正の行為の認識はなかったしそれを認識するについて期待可能性もなかった・・・・・・三〇五一

四 結語・・・・・・三〇五二

(その三)被告会社及び被告人に対する本件起訴は、不公平な起訴であり、憲法一四条一項に反する不公平な処分であって違憲違法の行為である。従って、本件は公訴棄却の判決をすべきであるのに有罪判決を下した原判決には憲法の違反又は憲法の解釈に誤がある。・・・・・・三〇五二

一 本件における大塚雄二税理士の役割・・・・・・三〇五二

二 本件における憲法一四条一項の違反の存在・・・・・・三〇五三

三 結語・・・・・・三〇五三

(その四)原判決は被告会社に対し罰金九億円という一審判決を維持し、被告人に対し懲役三年六月(但し一審未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入する)という実刑判決を言渡しているが、この量刑はいずれも甚しく重い。・・・・・・三〇五四

一 本件における被告会社及び被告人の行為の評価・・・・・・三〇五四

二 被告会社に対する原判決の量刑は甚しく重い・・・・・・三〇五四

三 被告人に対する原判決の量刑は甚しく重い・・・・・・三〇五四

四 被告人には長期の勾留期間があり、被告人に対し、仮に有罪であっても執行猶予とするのが相当であり、これを実刑に処した原判決の量刑は甚しく重い・・・・・・三〇五五

五 結語・・・・・・三〇五六

第三 まとめ・・・・・・三〇五六

第四 補足

平成八年八月二九日、同月三〇日、同年九月二日における本件株式会社カズコーポレーションに関する物件の状況は、本件売買が真正なものであることを示している。・・・・・・三〇五七

第一 序説

一 公訴事実

本件公訴事実は、

被告会社株式会社富士エステートアンドプロパティは、東京都渋谷区円山町一〇番八号(昭和六三年四月二二日以前は、同都新宿区百人町一丁目一二番二号)に本店を置き、不動産の売買及びその仲介等を目的とする資本金一、〇〇〇万円の株式会社であり、被告人堀口麗子は、被告会社の実質的経営者として同会社の業務全般を統括していた者であるが、被告人堀口は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、その事実がないのに、被告会社所有の土地、建物を簿価より低価額で売却したことにして架空の売却損を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四、三七一、六四八、七一四円、課税土地譲渡利益金額が五、〇八二、三七九、〇〇〇円であったのにかかわらず、同六三年五月三一日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が三七、〇三〇、五三八円で、これに対する法人税額が零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三、二〇〇、三三一、二〇〇円を免れたものである。

というにある(罪名は、法人税法違反、罰条は、法人税法第一五九条、第一六四条第一項)。

二 一審判決の要旨

一審の東京地方裁判所刑事第八部は、右公訴事実について

被告会社株式会社富士エステートアンドプロパティ(以下、「被告会社」という。)は、東京都渋谷区円山町一〇番八号(昭和六三年四月二二日以前は同都新宿区百人町一丁目一二番二号)に本店を置き、不動産の売買及びその仲介等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり、被告人堀口麗子(以下、「被告人堀口」という。)は、被告会社の代表取締役あるいは実質的経営者として被告会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人堀口は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告会社所有の土地、建物を簿価より低価額で売却したかのように装って、架空の売却損を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和六二年四月一日から同六三年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四三億七一六四万八七一四円、(別紙一の修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が五〇億八二三七万九〇〇〇円であったにもかかわらず、同六三年五月三一日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その欠損金額が三七〇三万〇五三八円で、これに対する法人税額が零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三二億〇〇三三万一二〇〇円(別紙二の脱税額計算書参照)を免れたものである。

と認定し、被告会社の判示行為は法人税法一六四条一項、一五九条一項に該当し、被告人堀口の判示行為は同法一五九条一項に該当するとして、被告会社を情状により同条二項を適用し罰金九億円に、被告人堀口を懲役四年にそれぞれ処し、被告人堀口に対し、未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入すると判示した。

そして、弁護人の主張に対する判断として、同裁判所は、

検察官は、被告会社所有の別紙三の物件一覧表記載の各物件(以下、「本件物件」ないし「本件各物件」という。)の譲渡は、簿価より低価額でなされ、脱税のため架空の売却損を計上する目的で行われた仮装譲渡であると主張するが、それに対し、被告会社及び被告人堀口の弁護人らは、(一)本件物件は真実売買されたものである、(二)本件物件が簿価より低価額で売買されているとしても、被告人堀口は、それが適法で節税行為として許されるものと信じてなしたのであり、脱税のための行為であると認識するについての期待可能性もなく、被告人堀口は脱税の故意がなかったものである、と主張する。

として、裁判所の判断として、要旨次のとおり判示した。

まず一審判決(証拠の標目)欄に掲げる各証拠により、

1 被告人堀口は、被告会社の昭和六二年四月一日から翌六三年三月三一日までの事業年度(以下、「当期」という。)における土地譲渡益等の利益が、期の早い段階から約五〇億円と見込まれたことから、被告会社の顧問税理士である浅沼文雄(以下、「浅沼」という。)に、税金を安くする方法について何度か尋ねたりしていたが、浅沼からはばかばかしい返事を得られないでいたところ、昭和六二年八、九月ころ、不動産を簿価より安い値段で売買した事例を見聞し、被告会社においてもその所有する不動産を簿価以下で譲渡することにより多額の納税を免れる方法はないかと考えるに至った。

2 被告人堀口は、被告会社自身が多額の出費をしているファイナンス会社日本リソース株式会社(以下、「日本リソース」という。)の会長佐々木秀男(以下、「佐々木」という。)との間で、日本リソースから被告会社所有の不動産を担保に融資を受けて他の会社からの債務を弁済し、融資先を一本化する話を持っていたこともあって、佐々木に、簿価割れによる不動産の低額譲渡の方法について相談したところ、佐々木から、昭和六二年五月一八日付日本経済新聞の「行き過ぎた節税作戦が裏目に出るケースもあるとして、法人同士の土地の低額譲渡は税法上は無効とされる」旨の記載のある記事を渡された。

3 被告会社の昭和六三年三月期の利益が約五〇億で、納税額も約四〇億になることが、浅沼の試算で明瞭になると、被告人堀口は、浅沼に対し、多額の税金を納めたくないとして、被告会社所有の不動産二四物件の名称とその原価の金額を記載したメモにより、うち一〇物件についてそれぞれ原価からマイナスの数字を記した分だけ安い金額で譲渡して譲渡損を出し、約五〇億の利益を消すことを持ち掛けた。しかし、浅沼は、税金を納めても利益の二割は残るとして、譲渡損を出して利益を消すことに消極的な態度を示した。そこで、被告人堀口は、佐々木に新しい税理士を紹介してくれるよう依頼した。

4 佐々木は、大学の後輩でもあり、個人的な税務申告を頼んだことがあった税理士の大塚雄二(以下、「大塚」という。)に、昭和六三年三月初めころ、前記新聞記事を渡して、不動産の取得原価を割る譲渡による譲渡損の計上、及び右譲渡損と既得の不動産譲渡益とを相殺する形にして利益を消すことの可否について検討を求め、続いて同月一一日、佐々木は、大塚を被告人堀口に引き合わせ、被告人堀口、佐々木、大塚に日本リソースの次長島津博雄(以下、「島津」という。)も加わって、四人で会食しながら会合が持たれた。その席上、被告人堀口から大塚に対し、「利益が出ているので、税務会計処理をお願いできますか。」「このままでは税金が大変なので、譲渡損を出す形で、安く株式会社富士プロジェクトに物件を移したい。」「税金は払わないで済むなら払いたくない。」「やってくれますか。」との話があり、佐々木からは、「被告会社の決算を見て欲しい。」「低額譲渡でやるしかない。」との発言があった。被告人堀口らの話から税金逃れの方法を依頼してきていると察知した大塚は、「譲渡損を作っての売却は、決算期との関係で時期的に逼迫し過ぎる状況にある。」旨答えた。

5 被告人堀口は、昭和六三年三月に入って被告会社に約五〇億円の利益が実際に出ていることを確かめると、被告会社の経理事務を担当する栗林久枝(以下、「栗林」という。)に指示して、被告会社所有の不動産の物件名や仕入価額等を記載した一覧表を作成させるとともに、自己が共同設立者の一人であり筆頭株主となっている株式会社マックホームズの営業部長杉山時矢(以下、「杉山」という。)に対し、被告会社に五〇億円の利益が出ているので、株式会社富士プロジェクト(以下、「富士プロジェクト」という。)に損を出して売ることにして五〇億円の利益を消し、税金を納めなくても済むようにしたい旨述べ、右栗林の作成した一覧表を渡して、五〇億円の譲渡損が出るよう値段付けをするよう指示した。杉山は、被告人堀口の指示に従い、五〇億円の譲渡損が出るよう一覧表上の複数の物件に値段を付けた。なお、富士プロジェクトは、被告会社と同時期の昭和五四年五月に不動産の売買、仲介等を目的に被告人堀口によって設立され、同被告人が代表取締役となっていたが、さしたる実質的な営業実績はないまま継続してきた会社である。

6 大塚は、被告人堀口に引き合わせを受けた翌三月一二日、被告会社に赴き、被告人堀口から栗林らに、決算をして貰う税理士であり、経理事務で必要なことは指示を受けるよう紹介を受け、被告会社の決算書及び帳簿等を検討した。

7 被告人堀口は、大塚から、低額譲渡をするのであるならば、富士プロジェクト以外に上場会社やきちんと決算書を作っている会社も譲渡先に加えた方がよいとの助言を受けたことから、譲渡先として適当な会社を探すこととなり、偶々被告会社の社員である楠本敦司(以下、「楠本」という。)が、「パイデアオーバーシーズ」という名の休暇状態にある株式会社(以下、「パイデアオーバーシーズ」という。)を所有していたことから、同人に同会社の決算書を見せてもらった上、「物件を持たせたいので、名義を貸して欲しい。」旨依頼し、その承諾を得た。

8 昭和六三年三月一六日日本リソースにおいて、被告人堀口、佐々木、大塚、島津、杉山、浅沼が出席して、会議が開かれ、被告会社の決算について相談をするということで、その場では、杉山が被告人堀口から先に依頼されて作成し、合計五〇億円の譲渡損が出るように売却価格を決めた低額譲渡の対象となる物件リストが配られ、黒板には富士プロジェクト、パイデアオーバーシーズ及びX社の名が挙げられた上、「物件を富士プロジェクト、パイデアオーバーシーズ及びもう一社に売ったことにし、売却価格は取得原価より低額にして損を出し、今期の五〇億円の利益と相殺して被告会社の決算をする。」「資本金一〇〇万円でも二〇〇万円でもよいから、会社を見つけてきて売ろう。」旨の発言がなされ、売却する物件の選別、売却価格等について話し合いがなされた。そこでは、浅沼はこんなことをしたら脱税になると思い、杉山も大丈夫かなと思った。また、大塚は、売買当事者会社の代表者が共通であったり、持ち株が過半数以上であったりして、同族会社と扱われるようではいけない旨の注意をしたが、自らは被告会社における低額譲渡は脱税行為であると思い、うまく行く保証はないことを強調したが、被告人堀口が税金を納めないで済むにはあくまでも低額譲渡でやるしかないという強い意思であることを知り、佐々木からも被告人はやると言ったらやる性格であると聞かされていたので、脱税の手段になることを承知しつつ低額譲渡の実行に加担することを決意した。

9 被告人堀口は、先にも記したように被告会社の銀行・ノンバンク等数社からの借り入れを一本化して、借入先を一社のみにしたいとの考えを持ち、佐々木に、日本リソースが一本化される融資先となり、既存の融資先に肩代わりして、被告会社所有の八物件(本件物件に含まれる。以下、「八物件」という。)を担保に融資することの承諾を得ていたところ、それら物件を譲渡した場合には、それら物件を担保にした日本リソースからの融資を被告会社の代わりに譲渡先の会社に行うことが、あらためて被告会社と日本リソースとの間で了解され、日本リソースからそれら譲渡先会社に融資される金額は、そのまま被告会社に売買代金として渡されることとなった。

10 右一六日の会議後、被告人堀口、佐々木、大塚、島津、杉山らで、何回か会議が持たれ、低額譲渡の対象とする各物件の取得原価の確認や売却価格の相談がなされ、さらには、当期中に移転登記をし、売買契約書も作ること、売買当事者の双方の会社の代表取締役が共通でないことなど、同族会社としての扱いを受けずに税務当局によって認容され易いよう配慮することなどが話し合われた。そこで、富士プロジェクト及びパイデアオーバーシーズの他に、もう一つの譲渡先が探され、ある会社の買い取りを図ったが、買い取った後も代表者だけは元のままにして欲しいなどの条件を付けたため、面倒が及ぶことを嫌われて買収できずに終り、結局、杉山が以前面倒を見たことのある黒川和紀に頼むこととなり、「どうしても頼まれてもらいたいことがある。全部で三〇億円の四物件を持った形にしておいてくれればよいからともかく頼む。お金の方はすべてこっちで用意するから、ともかく名義だけでも貸してくれ。三か月間くらい持った形にしておいてくれ。」旨依頼して、同人が代表取締役を務める株式会社カズコーポレーション(以下、「カズコーポレーション」という。)を譲渡先として確保し、こうして譲渡先としては、富士プロジェクト、パイデアオーバーシーズ、カズコーポレーションの三者(以下、「三社」という。)が決った。低額譲渡の対象となる物件の選別及び右三社への振り分け、譲渡価格の決定については、被告会社に融資を行なうに当って日本リソース自身が融資を受ける融資元であるファイナンス会社が先に行った各物件の評価額、物件に設定されている抵当権の被担保債権の残高、貸付可能額等を基に、作業が行われたが、最終的な物件の選定と譲渡価格の決定は、被告会社の当期の決算手続を進めていく過程で決められることとなった。また、八物件については、そこに付けられた被告会社を債務者とする抵当権を抹消するには、被告会社が受け取る譲渡代金のみでは不足であるため、日本リソースから譲渡価格を越えて三社へ融資をし、それを被告会社に還流させて既存融資先からの債務の弁済に当てることが決められ、その後三社と被告会社の間に他の会社を介在させて右超過融資分を還流させる方途が取られたが、こうした三社に超過融資をしそれを被告会社に還流させることは、被告会社側で一方的に決めたことであった。

11 本件物件が三社への低額譲渡の対象とされ、それぞれ被告会社から三社への所有権移転登記手続が行われ、売買契約書が作成されるなどしているが、その各売買内容には、次のような特異な点が見られる。また、被告会社の代表者と譲渡先会社の代表者は同一でない方がよいとの見解に従い、昭和六三年四月一日、被告会社の代表者が同年三月七日に被告人堀口から杉山に変更している旨の登記手続が行われている。

(一) 昭和六三年三月二八日から同月三一日にかけて、本件一五物件のうち一四物件について、それぞれ売買を原因とする被告会社から三社への所有権移転登記の手続が行われているが、そのうち九物件については同年三月二八日から同月三〇日までの売買が原因とされているものの、五物件についてはその売買が昭和六二年九月二〇日と日付を遡らせている。残りの一物件については、昭和六三年九月二一日に、真正な登記名義の回復を原因として所有者を富士プロジェクトとする所有権移転登記をしている。また、別紙物件一覧表<7>の円山町の物件については、昭和六三年三月三一日被告会社から富士プロジェクトへの所有権移転登記がなされたものの、同年九月にいずれも錯誤を原因としてその所有権の抹消や回復が繰り返され、最後に平成元年六月九日に、真正な登記名義の回復を原因として被告会社に所有権移転登記がなされている。

(二) 昭和六三年三月末に本件物件について所有権移転登記手続が行われるまでに、被告会社と三社との間の売買契約書は作成されておらず、被告会社及び三社の各代表者間で、明確に売買意思の確認・交換が行われたような事跡がない。本件各物件についての所有権移転登記手続の際にも、本件物件すべてについて売買契約書が存在せず、肝心の売買価格も決っていない物件もあった。そして、本件各物件の売買契約書は右登記手続後作成され、しかも、売買の日付を後記のようにその登記手続前の日付に遡らせている。

(三) 本件各物件の売買価格については、日本リソースから融資を受ける対象となっている八物件に関しては、その融資を受ける関係からも前記所有権移転登記手続前に決まったが、その他の物件に関してはそれまでに決まらず、その後幾度か変転して、最終的には昭和六三年五月後半になって、八物件の売上げを計上した上での被告会社の当期の損益残高を参考にして、仕入原価から二・三〇パーセントを差し引いて決定しており、それは税務申告を前にしての決算手続の中で、被告会社側で一方的に決めたに過ぎないものである。

(四) 本件各物件の売買価格を、その被告会社における各簿価あるいは前記の融資のために行われた各評価額及び日本リソースからの八物件を担保としての各融資額と比較してみると、その状況は別紙物件一覧表のとおりであるが、いずれも売買価格が簿価を下回っており、売買価格が簿価とほぼ同じものは一件で、他の下回っている額は、九億円台が一件、六億円台二件、四億円台二件、三億円台二件、二億円台一件、一億円台四件、数千万円台二件となっており、結局、本件物件の簿価と比較した売却損は合計で四六億四九〇〇万円を越えている。また右の評価額と比べても、本件物件の売買価格は、それを三一億円、一七億円、六億円、五億円、三億円などと大きく下回っているのがある。

(五) 本件各物件についての被告会社と三社間の売買契約書は、前記所有権移転登記手続終了後の昭和六三年四月以降に作成されているのであるが、それら契約書において、契約日を昭和六二年四月一日、同年九月一〇日、二〇日あるいは昭和六三年三月二八日などと遡らせたり(しかも、そのように遡らせながら、先になされた所有権移転登記における原因事実である売買の日付とも異なっているものがある。)、買主の表示で旧商号が使われたり、売主である被告会社の代表者名が、契約書上の日付ではいまだ被告会社の代表者にはなっていなかった者が表示されているなど、作為がなされたりあるいは少なくない誤りがある。

(六) 物件を買い受けたというパイデアオーバーシーズやカズコーポレーションのいずれにも、本件物件の権利証(登記済証)は渡されておらず、それらは被告会社において保管したままになっており、しかも売買がなされたという後においても、売買の対象であるホテル、貸しビル、駐車場、住宅における収入を、昭和六三年一〇月被告会社に対し国税局の査察が行われるまで被告会社で取得しており、また、右両社が本件物件を買い受けるに当って借り入れたとされている日本リソースからの借入金に対する利息の支払いや本件物件の固定資産税の支払いは、被告会社において行い、右両社は行っていない。

このように、本件物件の売買については、真実売買意思に基づいた売買取引には通常見られない事情が多々存在する。

12 大塚は、本件各物件の売買価格を最終的に確定し、昭和六三年五月末ころ、被告会社の当期の決算が赤字になることを確認し、被告人堀口にも赤字決算になったことを告げてその了承を得た上、同年五月三一日所轄渋谷税務署に、欠損金が三七〇三万〇五三八円で納付すべき税額は零である旨の被告会社の法人税確定申告書を提出した。

13 八物件については、被告会社から三社への所轄権移転登記手続が行われるとともに、日本リソースから三社への融資金をもって売買代金の清算がなされ、前記超過融資分も被告会社に還流された。また、八物件以外の本件物件については、日本リソースからの融資が行われないまま、当期末では未収金として処理され、その後昭和六三年九、一〇月ころに、別紙物件一覧表<6>、<11>の物件を除いて、抵当権が設定されて日本リソースからの融資がなされ、そのころ各売買代金の清算がなされていると推測される。

14 昭和六三年八ないし九月ころ、大塚は栗林に対し、総勘定元帳における本件各物件の売上げの記帳が同年三月末ころに集中していたのを、本件各物件の契約書の契約日付に合わせて記帳し直すよう指示し、その旨記載させた。

15 昭和六三年一〇月被告会社に国税局の査察が入り、平成元年三月ころになって、パイデアオーバーシーズにおいて、同社の昭和六三年一二月期の決算及び法人税確定申告をするに当り、別紙物件一覧表<11>の物件について売買代金の清算が済んでいなかったことから、同社が同物件を被告会社から買い入れその代金は未払いとなっているとする、日付を昭和六三年七月三日に遡らせた書面がわざわざ作られ、また同時に右書面に売買日付等を合わせた新たな被告会社とパイデアオーバーシーズ間の同物件の売買契約書が作成された。

16 平成元年九月に、楠本は、大塚と会って同人に対し、「実刑三年になるだろうが、被告人堀口を刑務所に入れるわけにはいかないので、一億円をやるから身代わりに入ってくれないか。」との話しを持ち掛け、大塚に断られている。

17 富士プロジェクトやパイデアオーバーシーズに所有権移転登記がなされた本件物件について、被告人堀口は積極的に他に売却することを図り、そのころ被告会社の登記簿上の代表取締役となっていた森園豊を督励して売却に当たらせ、その結果、平成二年一二月から翌三年三月にかけて本件物件のうち四物件の売却がなされたが、それら物件の売買価格は、被告会社から右両社への売却価格よりもいずれも二億二〇〇〇万円から三億五〇〇〇万円ほど高くなっており、しかもこれら売買には、右両社の者は何ら関与することがなかった。

という事実関係を認定した上、

以上認定できる事実関係から判断すると、被告会社から三社への本件物件の売買は、形式及び実態のいずれからしても、売買を仮装した行為に過ぎなく、それは税を免れる目的で売却損を計上するために行われたものと認められる。そして、被告人堀口は、大塚の言動から本件物件の売買が節税行為として許されるものと信じたようなことはなく、当初からそれが脱税のための不正行為に当たることを承知しながら、脱税の意図をもって、大塚と謀り自らも関与して右の売買仮装行為を行ったものと認められる。

とした上、

従って、弁護人らの本件物件の売買は仮装のものではなく真実の売買であるとの主張、及び被告人堀口は適法な行為であると信じ、また脱税であると認識するについて期待可能性がなく、被告人堀口には脱税の故意がなかったとの主張は、いずれも理由がない。

と判示した。そして、同裁判所は、税理士の大塚を起訴していないのに、被告会社及び被告人堀口を起訴したのは、憲法一四条、三一条に違反し、起訴便宜主義の裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるから、本件公訴は刑事訴訟法三三八条四号により公訴棄却されるべきであるとする弁護人らの主張について、被告会社は本件法人税の納税義務者であり、被告人堀口は被告会社の実質的経営者として、その法人税納税義務を実際に履行すべき義務を負うものであって、いずれも法人税法上の本来の処罰の対象者となっているものであり、それら義務を負うことなくその脱税に関与したとき共犯者としてのみ処罰されることがある大塚とは、基本的に立場を異にしており、また、本件脱税の動機、経過、態様、結果等からしても、被告人堀口が本件脱税の実行についての決定など主導的な役割を果たしたことは明らかであり、被告人堀口及び被告会社と大塚との責任の程度は違っており、なるほど大塚が税理士でありながら、不正行為としての売買仮装行為等に必要な書類作りや虚偽の確定申告書作りなど本件脱税に加担した点は非難されるべきであるが、本件起訴が憲法一四条、三一条に違反したり、起訴裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとはいまだいえず、よって弁護人らの前記主張は理由がない。

と判示した。

三 原判決の要旨

右一審判決に対し、弁護人木下良平、同河本仁之、同鈴木正捷、同松田義之連名の控訴趣意書に記載された各控訴の趣意に基づき、右弁護人らが控訴したところ、東京高等裁判所第一刑事部は、弁護人らの各控訴趣意中事実誤認の主張について

第一 各控訴趣意中事実誤認の主張について

論旨は、要するに、被告人株式会社富士エステートアンドプロパティ(以下「被告会社」という。)の昭和六三年三月期の事業年度に行われた、被告会社所有にかかる別紙物件一覧表の各物件(以下「本件物件」ともいう。)の各買受先に対する譲渡(以下「本件譲渡」ともいう。また、各物件名を同表中の「物件名」欄記載の略称で表示する。以下同じ。)につき、一審判決は、法人税ほ脱のため架空の売却損を計上する目的で仮装されたものであると認定し、さらに、被告人堀口麗子(以下「被告人」という。)に対し右の点に関する法人税ほ脱の故意及び期待可能性の存在を肯定しているが、(1)本件譲渡は真実の売買であって仮装されたものではなく、本件では法人間における不動産の低額譲渡に対する税法上の取扱如何が問題になるに過ぎない、(2)仮に真実の売買でないとしても、被告会社の決算及び税務申告のすべてが専門家である税理士の判断と指導によって行われ、被告人は同税理士の一連の処理が適法であると固く信じていたものであるから、被告人には法人税ほ脱の故意はなく、かつ、他の適法な行為を期待することもできなかったから、これらの点で原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認がある、というのである。とした上で、

しかしながら、一審判決虚示の関係証拠によれば、本件譲渡が仮装されたものであり、被告人に法人税ほ脱の故意及び期待可能性が存在すると認めた一審判決は正当であり、当審における事実取調べの結果によっても、右判断は左右されず、一審判決に所論指摘の事実の誤認はないというべきである。と判示した上、所論にかんがみ以下の説明を付加した。

一 本件譲渡の仮装行為性について

所論は、主に、被告人の捜査段階、一審及び当審公判における各供述、当審証人佐々木秀男及び同島津博雄の各証言などに依頼して本件譲渡が真実の売買であった旨を主張しているが、本件譲渡に関与したその余の者らの各供述、特に、大塚雄二の一審及び当審各証言、黒川和紀の一審証言、杉山時矢、栗林久枝、浅沼文雄、楠本敦司の検察官に対する各供述調書等によれば、本件譲渡が仮装されたものであることは明らかであり、この点は、以下のとおり認定することができる本件譲渡に至る経緯、その内容及び譲渡後の状況等の客観的事実に照らしても、疑いがない。

とし、関係証拠によれば、本件譲渡の客観的な実態は、以下のとおりであったと認めることができるとした。

1 被告会社の昭和六三年三月期における収支の見込みと同期の確定申告の内容等について

被告会社においては、昭和六二年四月以降、不動産取引により多額の利益を上げ、昭和六三年二月末の時点での合計残高試算表によれば、同年三月期には約四九億円の利益の計上が見込まれていた。被告人は、被告会社の当時の顧問税理士浅沼文雄から、同期の納付すべき法人税額等の合計が約四〇億円に上ることを聞き、かねて、不動産を簿価より低い値段で売却して売却損を計上した他社の事例を聞いていたことから、被告会社所有の不動産を簿価よりも低額で譲渡することにより売却損を計上して多額の納税を免れることができるのではないかと考え、同社の決算期である同年三月末日までに、後述するとおり、売上原価の合計が一三一億二八六〇万円余の合計一五件の不動産を、株式会社富士プロジェクト(以下、「富士プロジェクト」という。)、パイデアオーバーシーズ株式会社(以下、「パイデアオーバーシーズ」という。)及び株式会社カズコーポレーション(以下、「カズコーポレーション」という。)の三社に対し、代金合計八四億七九五〇万円で売却し、合計四六億四九一〇万円余の売却損を計上する形とした。そして、被告会社は、昭和六三年五月三一日、所轄の渋谷税務署長に対し、同年三月期における利益はなく、反対に、欠損金が三七〇三万円余である旨を記載した法人税確定申告書を提出した。

2 売却先の会社の状況、売却先決定及びその交渉等について

富士プロジェクトは、昭和五四年五月に設立された不動産の売買、仲介、賃貸及び管理並びにコンサルタント業等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり(設立時の商号は株式会社ハルク。その後、昭和六〇年五月株式会社富士ランドプロジェクトに、昭和六二年一一月現商号にそれぞれ変更)、被告人が代表取締役に就いているが、昭和六三年三月当時、格別の営業活動をせず、法人税の確定申告もしないまま存続していたものであり、本店所在地である東京都千代田区九段南の同社名義で保存登記をしたビルに社名を記した看板を掲げてはいたものの、従業員はおらず、実質的な事務所もない状態であった。パイデアオーバーシーズは、昭和六二年八月に被告会社に入社した楠本敦司(以下、「楠本」という。)によって昭和五七年九月に設立された海運業並びに不動産の売買、仲介、賃貸及び管理業務等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、設立以来楠本が代表取締役に就いているが、昭和六二年春からまったく営業活動をしておらず、昭和六三年三月当時は従業員も事務所もない状態であった。カズコーポレーションは、黒川和紀(以下、「黒川」という。)によって昭和五九年一二月に設立された有限会社アーバンホームズを昭和六二年七月に組織変更したものであって、不動産の売買、賃貸、管理及び仲介等を目的とする資本金三〇〇万円(その後平成二年四月に二一五〇万円に増資)の株式会社であり、設立以来黒川が代表取締役に就いている。

被告人は、当初、被告会社所有の不動産を売上原価を割った低価格で売却する相手方として富士プロジェクトのみを考えていたが、被告会社の昭和六三年三月期の税務処理を依頼した大塚雄二税理士(以下、「大塚税理士」という。)から、「低額譲渡の相手方として、富士プロジェクト以外に決算書を作っている他の会社も加えた方がいい。そういう会社があれば買えばいい。」などという助言があったため、他社をも加えることになった。そこで、急遽、前示のとおり、被告会社の社員である楠本が持っていたパイデアオーバーシーズをその一社に加え、さらに、被告人の指示により、被告人が共同設立者の一人で筆頭株主でもある株式会社マックホームズの取締役営業部長杉山時矢(以下、「杉山」という。)が買受先として適当な会社を探し、候補に上がった株式会社ロゴジャパンの代表取締役に二〇〇万円ないし三〇〇万円で同社を売ってほしいと頼んだが、同時に代表者の名前を残したままにしてほしいとの条件を付けたことから警戒されて話がまとまらず、次いで、杉山と親交のあった黒川が経営するカズコーポレーションが候補に上がった。

楠本は、昭和六三年三月二〇日過ぎごろ、被告人から、「パイデアに物件を持たせたいから、パイデアを使わせてほしい。」と頼まれてこれを承諾したが、その際に、売買の対象となる物件の所有者、物件の所在地、代金額などは一切聞いていなかった。また、その後のパイデアオーバーシーズに売却する物件の選定、各代金額の決定、各契約書の作成について、楠本は一切関与しておらず、すべて一方的に被告会社側で決定、処理されており、同人は、同月二八日ころ、被告人の指示に基づいて、日本リソース株式会社(以下、「日本リソース」という。)の事務所において、パイデアオーバーシーズを債務者とする金銭消費貸借契約書等の必要書類に同社の代表者印を押すなどしたのみであった。その後同人は、同社の代表者印等を、被告会社の経理事務を担当していた栗林久枝に渡しておいた。

黒川は、同月二〇日過ぎころ、被告人の意を受けた杉山から、青葉台、代官山、用賀及び北沢の各物件について、「金の方はすべて用意するから、三か月くらい持った形にしてくれ。名義を貸してくれ。」と頼まれてこれを承諾したが、その際、各物件の所有者、地積、面積等の詳細やそれぞれの具体的な代金額を知らされておらず、同月二八日ころ、所有権移転登記手続等のため、日本リソースの事務所に赴き、持参した代表印や印鑑登録証明書等の必要書類を杉山に交付したにとどまる。その後作成された各売買契約書についても、その内容の決定にまったく関与していない。

3 売却の時期、売買代金決定の経緯とその内容、売買契約書の作成状況及び所有権移転登記手続等について

(1) 売却の時期等について

本件譲渡は、被告会社の決算期が切迫していた昭和六三年三月中旬ころから、同月末までの間に、急遽、決定され、実行されたものである。その中には、国土利用計画法上の届出を要する土地取引に当たるものもあったが、届出から不勧告通知がされるまで二週間程度を要すると見込まれたことから時間的余裕がなく、結局、届出をしないこととされた。そして本件譲渡により昭和六三年三月期の利益にほぼ見合う前示の四六億四九〇〇万円余の売却損を出している。このように、多数かつ多額の本件物件を一括して、この時期に、しかも極めて短期間の内に、その期の利益に見合う売却損を出してまで他に譲渡しなければならなかった合理的な理由としては、被告会社の税金対策の外に想定できるものがない。

(2) 売買代金決定の経緯及びその内容について

次に、売却の経緯をみると、同月半ば過ぎころ、杉山は、被告人から、合計五〇億円の売却損が出るように在庫不動産の売価をセットするよう指示を受け、被告会社所有不動産の物件リストに基づき、各物件の特性を加味しながらも、合計五〇億〇九〇〇万円の原価割れになるように売却物件の選別及びそれぞれの一応の値付けをした。以後これをたたき台として、物件の選別及び価格の決定等が進められた。

本件物件の売買価格は、既存の債権者が期限前弁済及び抵当権の消滅に応じてくれる八つの物件については、所有権移転登記手続がされた同月末ころまでに、前示の杉山案を基に各物件の鑑定評価額、既存の抵当権の被担保債権残額及び貸付可能額等を考慮して決定されたものの、残る七つの物件については、未定であり、大塚税理士によって、前示の八つの物件の売上の計上を前提にして被告会社の決算の状況と調整しながら、被告会社の法人税確定申告期限の直前である同年五月二六日に至ってようやく決定された。その内容は売上原価の二〇ないし三〇パーセントの範囲内で一定の割合分を差し引くという方法によるものであった。そして、本件物件の各代金額は、いずれも売上原価(簿価)を下回っており、かつ、山一総合ファイナンス株式会社(以下、「山一ファイナンス」という。)が不動産鑑定士に依頼して得た、久米川及び西新宿物件を除く一三の物件の各鑑定評価額で、売上原価以下であった六つの物件についても、これに満たないものであった(鑑定評価額に比して大幅に下回っている例としては、九段物件の約一七億三一〇〇万円減、円山物件の約五億七八〇〇万円減、島一ビル物件の約三一億二八〇〇万円減、代官山物件の約五億三三〇〇万円減、青葉台物件の約六億九五〇〇万円減などがある。)。さらに、右の一三の物件の鑑定評価額の合計額は一六七億六一〇〇万円であり、その譲渡の代金の合計額は七九億九三五〇万円であって、その差額は八七億六七五〇万円に達している。

(3) 売買契約書の作成状況について

本件譲渡に関する各不動産売買契約書は、いずれも、大塚税理士によって、被告会社の法人税確定申告を終えた後の昭和六三年八月から九月ころに至ってようやく完成、作成されたものである。その内容については、売買の日付を昭和六二年四月や同年九月に遡らせたものがあり、その中には登記簿上の登記原因の売買日付と異なっているものも少なくない。さらに、富士プロジェクト関係の昭和六二年九月を売買の日付とする契約書には、当時の同社の商号は前示のとおり、「株式会社富士ランドプロジェクト」であったのに、設立時の旧商号である「株式会社ハルク」を買主として掲げているほか、売主の表示に関し、七つの物件に関する契約書において、被告会社「専務取締役副社長杉山時矢」と事実と異なる記載がされているなど、極めて杜撰かつ恣意的な内容になっている。

(4) 登記手続の状況について

昭和六三年三月二八日から同月三一日にかけ、九段物件を除く一四の物件について、いずれも売買を原因とする所有権移転登記手続が行われた。そのうち、九つの物件については、同月二八日から三〇日の売買を登記原因としているものの、五つの物件については、超短期所有土地に関する譲渡利益の損益通算の関連で取引日を遡らせる必要があったことなどから、その日付が昭和六二年九月二〇日とされている。残る九段物件については、同物件に関する契約書の記載とはまったく異なり、昭和六三年九月二一日付で真正な登記名義の回復を登記原因として富士プロジェクトに所有権移転登記手続が行われている。さらに、昭和六二年九月二〇日付売買を原因として富士プロジェクトに所有権移転登記手続が行われた円山町物件についても、昭和六三年九月にいずれも錯誤を原因として所有権移転登記の抹消登記手続や同回復登記手続が行われ、最終的には、平成元年六月九日付で真正な登記名義の回復を登記原因として被告会社に所有権移転登記手続が行われている。

(5) 代金決済の状況及び超過融資分の還流について

昭和六三年三月ころまでの間に、不動産を担保に複数の金融機関から借り入れをしている被告会社に対して、被告会社や前記株式会社マックホームズが大株主である日本リソースが融資をし、被告会社がこれによって既存の債務を弁済して日本リソースに対する債務に一本化するという基本的な合意が関係会社間に成立していたところ、抵当権設定の対象となる被告会社所有の不動産が譲渡された場合には、日本リソースからの融資を、被告会社に代わってその買受先に行い、買受先に対する日本リソースの融資金は、そのまま被告会社が売買代金として取得することが新たに合意された。その際、日本リソースのバックファイナンス先である山一ファイナンスとしては、不動産融資による債権保全を確実にするため、日本リソースが当該不動産上に第一順位の抵当権を取得し、山一ファイナンスがこれに対する第一順位の転抵当権を取得することを融資の条件としていたことから、被告会社に対する既存の債権者が期限前弁済及び既存抵当権の消滅に応じてくれることが融資の前提となっていた。

日本リソースの不動産担保融資の対象となった前記の八つの物件については、その売買代金額のみでは、各物件に設定された既存の抵当権の被担保債権額には足りず、抵当権を消滅させることができないため、同代金額を超えて各買受先に融資し、その超過融資分を被告会社に還流させて被告会社の既存債務の弁済に充てることとした。その際、買受先の三社から直接被告会社へ金が流れることを隠蔽するために、資金の通過点として実態のない三弥工業株式会社を介在させ、各買受先からの同社に対する貸付け及び同社からの被告会社に対する貸付けの形を仮装して超過融資分を被告会社に還流させることにした。そのため、大分銀行東京支店に「三弥鉱業株式会社東京営業所長近藤久雄」という架空名義の普通預金口座を新たに開設するなどの工作をした。これらの事情についても、被告会社側が一方的に決めたことであり、楠本や黒川はまったく知らされていなかった。

右の八つの物件の代金決済は、登記手続を終えて融資が実行されると同時に前示のとおり行われ、超過融資分も被告会社に還流された。残りの七つの物件については、代金決済が留保されたまま、所有権移転登記手続が行われるなどし、当期は未収金として処理された。

4 被告会社における社内処理の状況について

被告会社の経理事務担当者栗林久枝は、昭和六三年四月に、前示の日本リソースの融資の対象となった八つの物件の売上や三弥鉱業株式会社からの三八億一〇〇〇万円の借入等について総勘定元帳に記帳し、同年七月には、残りの七つの物件の売上について同元帳に記帳していたところ、同年八月から九月ころ大塚税理士によって作成された右一五の物件に関する売買契約書に記載された売買の日付と同元帳の記載と食い違うものがあったため、同税理士の指示により、元帳の該当部分を契約書の記載どおりに新たに書き直している。

5 本件譲渡後の状況について

(1) 権利証の保管及び各権利関係の変動等の状況について

本件譲渡後も、パイデアオーバーシーズ及びカズコーポレーションに対して、売却物件の権利証(登記済証)は交付されず、被告会社がこれを保管していたほか、富士プロジェクトに売却した相模大野物件及びホテルやしろ物件によるホテルの営業による売上、同社に売却した百人町、九段、久米川及び島一ビルの各物件から生ずる賃料収入、パイデアオーバーシーズに売却した中野区中央物件及びカズコーポレーションに売却した用賀物件から生ずる駐車場の使用料収入が、引き続き被告会社の銀行口座に入金されるなどして被告会社が取得し、また、日本リソースからの三社に対する融資金の利息や各物件に課税される固定資産税も被告会社においてすべて支払った。特に、カズコーポレーションに売却するはずの青葉台物件については、被告人ら家族が引き続き居住を続けていたが、カズコーポレーションとの間で賃貸借契約が締結されるなどした形跡はまったく見当たらず、被告会社がその一階ないし三階を事務所として使用していた百人町物件についても、被告会社から買受先の富士プロジェクトに対して賃料が支払われたり、使用権限について新たな契約が締結された形跡はない。

その後、本件査察が開始された昭和六三年一〇月以降に至って、ようやく、被告人によって、前示の栗林らに対し、被告会社と富士プロジェクト、パイデアオーバーシーズ及びカズコーポレーション間の各経理を明確に区別して行うように指示された。

(2) パイデアオーバーシーズの昭和六三年一二月の決算の状況等について

昭和六三年一〇月に被告会社に対する国税局の査察が開始されたところ、平成元年三年ころに至って、パイデアオーバーシーズの昭和六三年一二月期の決算及び法人税確定申告に際し、当時成城物件について売買代金の清算手続が未了であったことから、この点を正当化する必要が生じ、既に同物件については売買代金の支払期日を昭和六三年三月三〇日とする昭和六二年九月二〇日付売買契約書が存在するのに、楠本や被告人らによって、同物件の売買契約上代金の支払期日は昭和六三年六月末であること及び買主であるパイデアオーバーシーズの都合によりこれを決済できず、翌七月末まで決済するよう努力することなどを記載した被告会社宛の同月三日付差入書が作成された。そして、同差入書の内容に合わせるため、新たに、昭和六三年六月末を代金支払期日とする同年三月二八日付売買契約書が作成された。

以上1ないし5の事実、特に、(a)本件譲渡が一括して実行された時期、(b)各売買代金額が、結局は、専ら被告会社の当期の利益に見合う売却損を計上するために被告会社によって調整、決定されていること、(c)パイデアオーバーシーズ及びカズコーポレーションは、急遽、買受先として被告会社が探し出したものであり、その代表者である楠本や黒川は、真実の売買であれば、最も重要な関心事であるはずの買受物件の選定や代金額の決定等に何ら関与しておらず、また、各社に対する日本リソースからの超過融資や超過分を被告人会社へ還流することについても知らされていないこと、(d)買受先のうち富士プロジェクト及びパイデアオーバーシーズは、当時いずれも営業活動をしておらず、企業としての実態がなかったことが明らかであり、一方、カズコーポレーションは、企業としての実体は備えていたものの、被告会社との資本的人的関連は薄く、被告会社がことさらその所有不動産を著しい低額で譲渡して同社に利益を与えなければならないような特別の事情が何ら見当らないこと、(e)売買契約書がないまま代金決済や登記手続が行われ、また、昭和六三年三月までに不動産担保融資の対象とならなかった七つの物件については代金決済を留保した状態のまま、先に登記手続が行われていること、(f)各売買契約書が、登記手続後数カ月を経てようやく作成されているが、その内容は、登記簿の内容と食い違う点があるのみならず、損益通算等の関係があったとはいえ、売買の日付などが場当たり的に操作されており、真実の売買がされたと考えるには全体的に極めて杜撰かつ恣意的な処理が行われているといわざるを得ず、例えば、パイデアオーバーシーズの関係では、査察開始後の平成元年三月に、成城物件についてのそれまでの売買契約書とは異なる新たな契約書が作成されていること、(g)本件譲渡後も、各物件による売上や賃料収入等は被告会社が取得し、それぞれに課税される固定資産税の支払や日本リソースへの支払等を被告会社が行うなどしており、結局は、各物件の所有名義が形式上変更になっただけで実質的な権利関係は何ら変更されていないことなどの諸点を総合すると、本件譲渡は、真実の売買でなく、いずれも多額の法人税を免れるために売却損を計上する目的でされた仮装行為であると認めるほかはない。

所論は、(1)本件譲渡に関し、各買受先に対する所有権移転登記手続、売買代金の決済、融資及び担保権設定等が行われた事実からすると、真実の売買が行われたことは明白であり、また、大塚税理士や日本リソースの関係者らを含め、関係当事者らの間で、本件譲渡が仮装行為であることの了解や認識はなかった、(2)富士プロジェクト及びパイデアオーバーシーズが買い受けた物件の一部が、それぞれ第三者に有効に転売されているほか、カズコーポレーションが買い受けた物件の一部が、それぞれ第三者に有効に転売されているほか、カズコーポレーションが買い受けた物件について、同社の所有であることを認めた民事事件の確定判決書が存在し、かつ、同社所有名義の物件について滞納処分等がされており、これらも本件譲渡が真実の売買であることを示すものである、などと主張している。

しかしながら、(1)については、所有権移転登記手続が往々にして実体を伴わずに行われることは公知の事実であり、また、所論指摘の代金の決済、各買受先に対する融資及び抵当権の設定等も、結局は前示認定の経緯によるものに過ぎず、本件譲渡の仮装行為性と矛盾するものではない。さらに本件譲渡に関する前示の客観的事実からすれば、その仮装行為性は明らかであり、関係当事者もその旨の認識を有していたと認めるのが相当である。この点に関し所論は、大塚税理士は、法人税確定申告後当局の調査が入り、交渉の末修正申告等をすることが予想されるという認識を有していたに止るから、同税理士自身本件譲渡が仮装行為であるとの認識はなかったと主張し、同税理士の供述中にも、税務当局の対応について右のように考えていたのでいきなり国税局の査察が入って驚いたとするものがあるが、これは単に同税理士の知識や経験不足により、その税務当局の動きに対する見通しが極めて甘かったことを示すに過ぎず、所論の証左となるものではない。(2)については、仮装行為によって作出された外観に基づいて、新たに律法行為等が積み重なることは当然ありうることであり(民法九四条二項参照)、所論指摘の転売等の事実が本件譲渡の仮装行為性と矛盾しないことは明らかである。また、弁論主義や処分権主義が支配する私人間の民事事件で言い渡された判決の内容が、本件と直接的な関連性を有するものとは考えられない。

結局、この点についての一審判決の事実認定には、誤りはない。論旨は理由がない。

二 被告人の法人税ほ脱の故意等について

所論は、要するに、被告人は、昭和六三年三月期においてかなりの利益が見込まれたため、すでに値下がりしていた被告会社の在庫物件を富士プロジェクトに譲渡して含み損を現実化するとともに節税をしようと考えていたものであり、かかる同族会社間の不動産の低額譲渡が税務当局によって否認されるなどして、かえって多額の課税を招くことを危惧し、その点を大塚税理士に相談した結果、専門家の同税理士から低額譲渡は法的に問題はないし、自分が責任をもって処理する旨の明言を得たので、これを信頼し、すべての税務会計処理を任せてその指導教示に従ったのであるから、被告人に法人税ほ脱の故意はなく、また、他の適法行為に出る期待可能性もなかった、というのである。

低額譲渡であってもそれが真に売買の意思に基づくものであれば、ほ脱とならないことは当然であるところ、本件譲渡の客観的な実態は、前記認定のとおりであり、その事実関係の主要な部分について被告人の認定に欠けるところはなかったと認められるのであるから、被告人に法人税ほ脱の故意が存したことは明らかというべきである。本件譲渡が真意に基づく売買であり、単に低額譲渡に伴う税法上の問題が生ずるに過ぎないと考えていたとする被告人の供述は、上述した客観的事情に照らし、とうてい信用することができない。また、被告人につき期待可能性の不存在を問題とする余地はない。所論は採用することができない。

その他、所論が種々な主張する点にかんがみ、証拠を調査検討しても、一審判決に所論指摘の事実誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。

と判示し、弁護人らの各控訴趣意中憲法違反の主張について、

第二 各控訴趣意中憲法違反の主張について

論旨は、要するに、本件において、主導的な立場で譲渡損の計上による譲渡益の相殺を提言してそのための方策を助言し、さらに、価格決定から売買契約書の作成などの一連の行為を指揮し、税務処理一切を担当した大塚税理士に対しては、起訴はもとより、逮捕、勾留もされていないのに、同税理士に全幅の信頼を置いてその指導助言に従い、かつ、被告会社の税務会計処理の一切を委ねた被告人に対しては逮捕、勾留のみならず、被告会社とともに起訴さえされているのは、憲法一四条一項に違反する恣意的、不平等な事件処理であり、本件公訴の提起は訴追裁量を著しく逸脱した違法無効なものであって、これを認めなかった一審判決は憲法一四条一項に違反する、というのである。

なるほど、本件で大塚税理士が果した役割は大きく、同税理士の存在によってはじめて本件の犯行が可能になったものと認められるほか、税務の専門家として納税義務の適正な実現を図ることを使命とする税理士法の理念を無視し、現実に報酬の支払まではなかったものの、本件脱税に手を貸すことによって相当多額の報酬を企図していたものと窺われることからすると、同税理士の責任は重大であり、この点は被告人の量刑に当たっても十分考慮されるべきである。しかしながら、被告人が本件で果した役割は大きい上、そもそも被告会社は、本件における納税義務者であり、被告人は、その実質的経営者として、その法人税納税義務を誠実に履行すべき地位にあった者であって、これらの義務を負わない大塚税理士とは基本的な立場を異にすることが明らかである。本件公訴提起が憲法一四条一項に違反し、訴追裁量の範囲を逸脱した違法無効なものであるとはいえない。論旨は理由がない。

と判示し、弁護人らの各控訴趣意中理由不備の主張については、

第三 各控訴趣意中理由不備の主張について

論旨は、要するに、一審判決は本件譲渡を仮装行為であると認定しながら、他方で、(1)富士プロジェクトプロジェクト及びパイデアオーバーシーズに所有権移転登記が経由された四つの物件について、各社から第三者に転売された事実を認定し、(2)日本リソースから買受人である三社に融資が実行され、所有権移転登記が経由された各物件に日本リソースのために抵当権が設定された事実及び同融資金をもって各売買代金の清算が行われた事実を認定しているが、右(1)及び(2)の説示は、被告会社と買受先の三社間の売買がいずれも仮装されたものであるとの認定と矛盾しており、一審判決には理由の齟齬がある、というのである

しかしながら、一審判決は、右(1)及び(2)の転売や抵当権設定行為等の有効性については何ら判断を示していないのであるから、その説示の間に矛盾があるとはいえない。また、いうまでもなく、通謀による仮装行為は私法上無効であるものの、仮装された外形について新たな利害関係を持った第三者との関係ではその無効を主張し得ない場合があり(民法九四条二項)、したがって、仮装行為の存在を前提にこれに基づいた新たな法律行為等の存在を認定することは何ら矛盾することではない。したがって、一審判決に所論指摘の理由の齟齬はなく、論旨は理由がない。

と判示し、弁護人らの各控訴趣意中訴訟手続の法令違反の主張について、

第四 各控訴趣意中訴訟手続の法令違反の主張について

論旨は、要するに、原審が、(1)代官山物件に関する被告会社とカズコーポレーション間の売買が実際に行われた事実を立証するため、弁護人がした民事事件の判決書の証拠調べ請求を却下し、(2)杉山時矢の検察官に対する平成三年七月二三日付または同月二四日付供述調書に関する弁護人の証拠開示の申立てについて職権を発動しなかったのは、いずれも判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反にあたる、というのである。

しかしながら、(1)については、前示のとおり、弁論主義や処分権主義の支配する私人間の民事訴訟において裁判所の判断を示した判決書を本件とは直接の関連性がないとして取り調べなかったからといって、証拠の採否にあたっての合理的な裁量の範囲を逸脱したものとはいえない。また、(2)については、訴訟指揮権による個別的な証拠開示は、その具体的必要性等の判断は裁判所の合理的な裁量に委ねられているのであるから、所論指摘の杉山時矢の検察官調書が被告人及び被告人会社側の防御のためとくに重要であるとは認めずに職権を発動しなかったとしても、裁量の範囲を逸脱したとは認められない。論旨はいずれも理由がない。

と判示し、弁護人らの各控訴趣意中量刑不当の主張について

第五 各控訴趣意中量刑不当の主張について

論旨は、要するに、被告会社を罰金九億円に、被告人を懲役四年にそれぞれ処した一審判決の量刑は、重過ぎて不当である、というのである。

そこで検討するに、本件は、不動産の売買及びその仲介等を目的とする被告会社の代表取締役あるいは実質的経営者としてその業務全般を統括していた被告人が、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告会社所有の不動産を簿価より低価格で売却したように装って架空の売却損を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、被告会社の昭和六三年三月期における実際所得金額が四三億七一六四万八七一四円、課税土地譲渡利益金額が五〇億八二三七万九〇〇〇円であったのに、欠損金額が三七〇三万〇五三八円で、これに対する法人税額が零円である旨記載した虚偽過少の法人税確定申告書を所轄税務署長に提出してそのまま法定納期限を徒過させ、よって、正規の法人税額三二億〇〇三三万一二〇〇円の全額を免れた事案である。

右のとおり、単年度ながら、ほ脱額が三二億円余と極めて多額に上っており、ほ脱率も一〇〇パーセントと高率である。犯行の主たる動機は、結局、不動産取引によって被告会社が初めて上げた莫大な利益を保持するため、多額の納税を避けたいという利己的なものに過ぎず、酌量の余地に乏しい。所得秘匿の手段方法をみると、一部に稚拙な面があるものの、約五〇億円の土地譲渡利益金を一挙に消すために、短期間の内に、多数の関係者を動かして、一五の物件の売買を仮装するなどしており、強固な犯意に基づく大胆な犯行というべきである。現在でも、ほ脱にかかる法人税本税、重加算税等は一部しか納税されておらず、今後、これが完納される具体的な見込みはない。さらに、被告人については、不合理な弁解に終始するとともに、その手腕を信頼してすべての税務処理を任せた大塚税理士に責任の大半があると述べて自己の責任の転嫁や軽減を図るなど、本件に対して十分な反省の態度を示しているとはいえない。以上の諸点に徴すると、被告会社及び被告人の刑事責任は重い。

しかしながら、一方、被告人は、これまで前科前歴がなく、真面目な社会生活を営んできたことやその家庭の状況等の一般的情状のほか、前示のとおり、本件は大塚税理士の関与なしには実行できなかったものであるのに、同税理士が処罰を免れていることを考慮すると、被告人に対しては、いまだ刑の執行を猶予すべきものとは認められないものの、検察官の求刑どおりに懲役四年に処した一審判決の量刑は、その刑期の点でいささか重過ぎて不当であるといわざるを得ない。論旨は右の限度で理由がある。

と判示し、結論として、被告人を懲役三年六月に処し、第一審における未決勾留日数中一八〇日を右刑に算入し、被告会社に対しては、控訴を棄却する旨判決した。

第二 上告理由

(その一)本件物件の売買は仮装行為ではなく、現判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がある。

一 本件における法人税法一五九条の適用

本件は、被告会社富士エステートアンドプロパティ(以下、「被告会社」という。)及び被告人堀口麗子(以下、「被告人」という。)において法人税法一五九条に違反する事実があったものとして起訴された事案であるが、法人税法一五九条は、「偽りその他不正の行為により」、「法人税を免れる」ことを処罰するものである。

従って、本件において、法人税の課税額を減ずる行為がなされたことは明らかであるので、被告会社及び被告人が法人税法一五九条違反になるか否かは、専ら、被告会社及び被告人が行なった行為が「偽りその他不正の行為」に当たるか否かにかかっている。一審判決及び原判決は、この点について、被告会社及び被告人が別紙物件一覧表の各物件(以下、「本件物件」という。)について行なった売買行為が仮装行為であると認定し、これら仮装行為は法人税法一五九条の「偽りの行為」に該当すると判断し、被告会社及び被告人を同法違反としたものである。

二 原判決及び一審判決における被告会社の本件物件の売買が仮装行為であるとの判断の根拠

原判決及び一審判決は、被告会社及び被告人の本件物件の売買が仮装行為であると認定する根拠について、両判決とも、多数の事実をあげてその根拠としており、判決理由の大部分をこの多数の事実の列挙に当てているのであるが、これら列挙された多数の事実が、そのまま、被告会社及び被告人による本件物件の売買が仮装行為であることを理由づけるものとなるかは疑問である。

三 売買契約成立の要件

もとより売買契約の成立には、自然人又は法人である売主と買主が、ある財物について、売主における買主に対する所有権の譲渡と買主における売主に対する売買代金の支払の合意があればよいのであり、この合意がある以上はそれ以外の要件は必要とせず、売買契約は成立するのである。原判決及び一審判決が、これを仮装行為と認定するためには、右の売買契約成立の合意である売主における買主に対する財物の所有権の移転の意思及び買主における売主に対する売買代金支払の意思の一方あるいは両方の不存在を認定する必要があるが、本件において、これら意思の一方あるいは両方が不存在だったと言えるであろうか。

四 同族会社あるいはグループ企業間の売買契約の成立

売買契約の成立について、法人税法は、同族会社間あるいはグループ企業間においての成立についても、これを否定していないことは法人税法の条文自体から読みとれるところである。

法人税法によれば、同族会社とは「株主等の三人以下並びにこれらと政令で定める特殊の関係のある個人及び法人が有する株式の総数又は出資の金額の合計額がその会社の発行済株式の総数又は出資金額の百分の五十以上に相当する会社をいう。」のであり(法人税法二条十号)、「政令で定める特殊の関係のある個人」とは「株主等の親族、株主等とまだ婚姻の届出をしないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者、株主等(個人である株主等に限る。以下同じ。)の使用人、右に掲げる者以外の者で株主等から受ける金銭その他の資産によって生計を維持しているもの、右に掲げる者のうち株主等の親族を除く者と生計を一にするこれらの者の親族」であり、「政令で定める特殊の関係のある法人」とは「株主等の一人(個人である株主等については、その一人及びこれと前記の特殊の関係ある個人。以下同じ。)が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額の百分の五十以上に相当する場合における当該他の会社、株主等の一人及びこれと右の特殊の関係のある会社が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額の百分の五十以上に相当する場合における当該他の会社、株主等の一人及びこれと右の特殊の関係のある会社が有する他の会社の株式の総数又は出資の金額の合計額が当該他の会社の発行済株式の総数又は出資金額の百分の五十以上に相当する場合における当該他の会社」であり、「同一の個人又は法人(人格のない社団等を含む。以下同じ。)と前記の特殊の関係のある二以上の会社が、同族会社であるかどうかを判定しようとする会社の株主等である場合には、その二以上の会社は、相互に右の特殊の関係のある会社であるものとみなす」のであり(法人税法施行令第四条)、「税務署長は、内国法人である同族会社の法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人の法人税の課税標準や欠損金額や法人税額を計算することができる」(法人税法第一三二条一項)としてあり、法人税法は同族会社間の売買契約の成立を認めているのである。同族会社と言えないグループ企業間の売買契約の成立についても、同族会社について法人税法が売買契約の成立を認めているのであるから当然に法人税法はこれを認めていると言える。

五 昭和六二年五月一八日付日本経済新聞の「そのときどうなる」と題する記事の意味

昭和六二年五月一八日付日本経済新聞の「そのときどうなる」と題する記事(別紙四、一審検察官請求証拠等関係カード甲八六証拠物、新聞写。以下「本件新聞記事」という。)は、同族会社間のあるいは同一グループ企業間の売買契約の法人税法上の取扱いについて書いた記事である。この記事は、被告人も読み、本件に関係した者も読んでいるのであり、本件の基本的な理論上の素材であるので、右記事の内容を検討する必要がある。この記事は、事例として、A、B、Cの三つの会社を経営しているX氏が、A社の所有する土地を時価より低額でBに譲渡し、B社はこの土地を利益を上乗せした上で同様に時価より低額でC社に譲渡し、C社はこの土地を第三者に時価で譲渡した場合、A社、B社、C社にそれぞれ赤字欠損がある場合、法人税の減額は可能かという内容の解説である。結論として論者の弁護士・公認会計士関根稔氏は、時価より低額の譲渡は、税務署により否認され、課税される法人税は、むしろ増加すると言う。理由として、論者の言うには、税務署は、法人税法の寄付金の損金不算入の規定を適用するであろう。それによれば、「内国法人が、各事業年度において寄付金を支出した場合において、その寄付金の額につきその確定した決算において利益又は剰余金の処分による経理(利益積立金額をその支出した寄付金に充てる経理を含む。)をしたときは、その経理をした金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。」(法人税法三七条一項)のであり、「内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をしていた場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、寄付金の額に含まれるものとする。」(法人税法三七条七項)とされる。右記事は、同族会社又はグループ企業間の資産の低額譲渡は、税務署により寄付行為とみなされ法人税の減額の効果はないと述べているのである。

この記事について、不動産の売買をする同族会社または同一企業グループ会社が全て赤字企業である点が、被告会社の本件物件の売買と異なっており、その点について一審第一五回公判において、被告人は松田弁護人から「これは、税法上は否認されるけれども、民法上というか、実質上は、所有権が移転しているケースですよね。」と問われ、被告人は「それは、今回一応、丁寧に読んでみましたけれど、今回というのは、裁判になって、丁寧に読んでみましたけれども、基本的には、私どもが富士エステートの売買とは全くケースが違うなということ、なぜかというと、その新聞のケースは、まず売った先が赤字会社であったと……。」と答え、さらに松田弁護人から「新聞のケースを聞いているわけじゃなくて、要するに、あなたとしては、同族会社に譲渡したいんだと、それで税金上、問題があるんだということだったわけでしょう。」と問われ、被告人は「すいません。もう一度。」と答え、次いで松田弁護人から「同族会社の富士プロジェクトに財産を譲渡したい、でも、税金上問題があるんで、その問題を解決してくれる税理士さんを紹介してほしいという趣旨だったわけでしょう。」と問われ、被告人は「そうです。」と答え、次に松田弁護人から「あなたの気持としては、実際に不動産を同族会社の富士プロジェクトに譲渡する意思はあったんですか。」と問われ、被告人は「もちろんです。」と答えている(一審第一五回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊六二七丁、六二八丁表)。

六 本件売買は仮装行為でない。

法人税法において、同族会社の概念が定義され、同族会社間の行為の税務署長による否認が定められており、法人間の資産の低額譲渡において当該価額と時価の差額を寄付金とみることが定められていることの意味は、本件売買が、仮装行為でなければ法人税法上否認され寄付金として取扱われることがあるということであり、このことはそれが税務署長の否認の問題であって法人税法違反により処罰される問題ではないことである。

原判決及び一審判決が、本件売買を仮装行為と認めた各理由は正しいのであろうか。これらの各理由を見て行けば、それらは、いずれも、同族会社間の低額譲渡行為やグループ企業間の低額譲渡行為に随伴する事柄に過ぎないのであって、売買契約の成立の要素である売主がある財物の所有権を移転する意思及び買主がそれに対し代金を支払う意思の存在を否定する事実ではない。原判決及び一審判決の重大な事実誤認はここにある。

七 本件売買における売主と買主の関係(その一)

まず、売主である被告会社と買主である株式会社富士プロジェクト(以下、「富士プロジェクト」と言う。)の関係であるが、原判決及び一審判決は、富士プロジェクトが実体のない会社であり買主としての法人格が否定されるという趣旨の認定をし、これを、本件物件の売買が仮装であることの理由の一つとしている。しかし、被告人は、被告会社は「不動産業を営みつつホテルの経営やビルの賃貸業に手を広げてきたが、将来その保有資産を円山町のホテル「クリスタル」だけにして会社ごと売ってしまいたいと思っていた」(被告人平成三年七月一六日付検察官に対する供述調書第九項。一審検察官請求証拠関係カード乙二、一審記録全一二冊のうち第五冊、六七七丁裏)のであり、被告人は、右ホテルについて、「これを売ることは以前から考えていたことであり」、その理由は、「このホテルは、古くて故障が多く何かと手がかかる上、いわゆるラブホテルで世間体も良くないから」であるが、「新しい風俗営業法によれば、富士エステート(被告会社)と一緒でなければ売れない。つまり、右ホテルは、風俗営業の免許を経営主体である富士エステート(被告会社)名義で取得しているところ、新しい風俗営業法の制定によりその免許付きでなければホテルが売れない」ためであった(被告人平成三年七月一六日付検察官に対する供述調書第九項、一審検察官請求証拠等関係カード乙二、一審記録全一二冊のうち第五冊六七七丁裏、六七八丁表)。従って、被告人は、別紙物件一覧表の円山町物件を除く以外の物件を別の会社の所有に移すことは以前から考えていたことであり、その動機となった理由は右に述べたことであった。そして、その所有権譲渡をする相手企業の一つとして、富士プロジェクトが選ばれたのであるが、富士プロジェクトは、「昭和五五年に設立した富士ハルクを母体とする資本金一〇〇〇万円の会社であり、商号をハルクから富士ランドプロジェクトに変えたもので、昭和六三年三月迄は休眠状態であったが、昭和六三年三月以降は営業活動をしている」のであり(被告人平成三年七月一六日付検察官に対する供述調書第一〇項、一審検察官請求証拠等関係カード乙二、一審記録全一二冊のうち第五冊六八〇丁裏、六八一丁表)、休眠状態であった会社が、資産を買取って営業活動を始めることを把えて、企業の実体がないとは全く言えないのであり、富士プロジェクトが本件物件の売買をする真意がないとする証拠にはならない。被告会社は昭和六三年三月三一日に、富士プロジェクトに対し別紙物件一覧表の円山町物件を売買により所有権移転をしたが、前記のとおり、円山町物件は、被告人において被告会社ごと第三者に売却するという計画であったので、円山町物件は誤まって被告会社から富士プロジェクトに所有権移転がなされたのであり、そのため、平成元年六月九日に真正な登記名義の回復を原因として円山町物件の所有権は被告会社に戻されている(一審検察官請求証拠関係カード甲一一五土地登記簿謄本及び甲一一六建物登記簿謄本、一審記録全一二冊のうち第七冊一〇四三丁、一〇四八丁参照。)。

富士プロジェクトは、平成七年三月九日付商業登記簿謄本によって明らかなとおり、昭和六三年三月以降営業活動を続けており仮装の会社でない(原審弁護人請求証拠等関係カード四四、商業登記簿謄本、原審記録全一六冊のうち第一五冊三〇七丁参照)。富士プロジェクトは、平成三年五月三一日付で平成三年三月期の法人税確定申告をしており(平三・三期富士プロジェクト法人税確定申告書(決算報告書添付)写、原審弁護人請求証拠等関係カード二、原審記録全一六冊のうち第一四冊三九丁参照)、平成四年六月二日付で平成四年三月期の法人税確定申告をし(平四・三期富士プロジェクト法人税確定申告書(決算報告書添付)写、原審弁護人請求証拠等関係カード三、原審記録全一六冊のうち第一四冊五七丁参照)、平成五年五月三一日付で平成五年三月期の法人税確定申告をし(平五・三期富士プロジェクト法人税確定申告書(決算報告書添付)写、原審弁護人請求証拠等関係カード四、原審記録全一六冊のうち第一四冊七〇丁参照)、営業活動を行なっており仮装の会社ではない。

富士プロジェクトは、昭和六三年三月以降営業活動をしており、昭和六三年夏にはカナダのホテルを当時の為替相場で二八億円ぐらいで買収し、その後現地法人をつくって経営をさせたり、このほか富士プロジェクトは新宿御苑にビルを買いこれを事務所として賃貸したり、中野区に土地を買って事務所用の貸ビルを建築したりして活動しており(被告人平成三年七月一六日付検察官に対する供述調書(一八丁のもの)第一〇項、一審検察官請求証拠等関係カード乙二、一審記録全一二冊のうち第五冊六八一丁参照)、富士プロジェクトは仮装の会社ではなく実在の会社であり、被告会社との間で本件物件の売買契約を買主として締結する権利能力を有する。

八 本件売買における売主と買主の関係(その二)

株式会社パイデアオーバーシーズ(以下、「パイデアオーバーシーズ」と言う。)は、昭和五七年九月七日楠本敦司が設立した会社であり(一審検察官請求証拠等関係カード甲四二商業登記簿謄本、一審記録全一二冊のうち第三冊三〇三丁参照。)、昭和六三年三月頃は休業状態であった。楠本敦司は、当時被告会社の社員であり、被告人から話があって、自分が所有するパイデアオーバーシーズが、被告会社から本件物件を買取ることとしたものであるが(一審第九回公判楠本敦司証人尋問調書、一審記録全一二冊のうち第一〇冊三五八丁参照)、パイデアオーバーシーズは、本件物件を買取った後存続を続けているのである(原審弁護人請求証拠等関係カード四三、平成七年三月二〇日付商業登記簿謄本、原審記録全一六冊のうち第一五冊三〇三丁参照)。

被告会社は、別紙物件一覧表の円山町物件以外を別の会社に売却しようとしていたのであり、パイデアオーバーシーズは、被告会社から本件物件のうち中野区中央、新小川町、成城の三物件を買取り、その後営業しているのであり、被告会社とパイデアオーバーシーズは共に法人として存在していることに疑いはない。

パイデアオーバーシーズは、平成四年四月二三日付で平成三年一二月期の法人税確定申告をし(原審弁護人請求証拠等関係カード五、平三・一二期パイデアオーバーシーズ法人税確定申告書(決算報告書添付)写、原審記録全一六冊のうち第一四冊九四丁参照)、営業活動を行なっており仮装の会社ではない。

パイデアオーバーシーズは昭和六三年以降不動産の売買や仲介以外にもジャマイカのコーヒー豆の輸入、及びメキシコの美術の壷の輸入代行及び国内販売をやり同社の代表取締役楠本敦司が平成四年四月一六日の一審第九回公判で証言した時点でもジャマイカの高級なブルーマウンテンのコーヒー豆の輸入を長期契約で行なっており(一審第九回公判楠本敦司尋問調書、一審記録全一二冊のうち第一〇冊三七九丁)、パイデアオーバーシーズは実在の会社であり、被告会社との間で本件物件の売買契約を締結できる権利能力を有する法人である。

九 本件売買における売主と買主の関係(その三)

株式会社カズコーポレーション(以下、「カズコーポレーション」と言う。)は、昭和六二年七月二二日有限会社カズコーポレーションの組織を変更し設立した会社であり(一審検察官請求証拠等関係カード四一商業登記簿謄本、一審記録全一二冊のうち第三冊四七二丁参照)、昭和六三年三月頃黒川和紀が社長であった(一審第八回公判黒川和紀証人尋問調書、一審記録全一二冊のうち第一〇冊三〇四丁参照)。右商業登記簿謄本は、平成三年六月一八日付のものであり、カズコーポレーションは、本件物件の売買後も不動産の売買、賃貸、管理及びその仲介等を目的とする株式会社として存続している。従って、昭和六三年三月に別紙物件一覧表の代官山、北沢、青葉台、用賀の四物件を被告会社から買取る法人として、カズコーポレーションが買主となることができることは疑いないのであり、被告人会社とカズコーポレーションの間で売買契約が成立することができたことは明らかである。

カズコーポレーションは、平成五年七月一四日に株式会社アーバンポートと名称を変更し平成五年七月一七日本店所在地を東京都新宿区高田馬場二丁目一番二号から東京都千代田区三崎町二丁目二一番一一号に移転し(原審弁護人請求証拠等関係カード一五閉鎖登記簿謄本、原審記録全一六冊のうち第一四冊一五六丁参照)、平成六年八月二三日付同社商業登記簿謄本を見れば営業を続けており(原審弁護人請求証拠等関係カード一六商業登記簿謄本、原審弁護人請求証拠等関係カード一六商業登記簿謄本、原審記録全一六冊のうち第一四冊一六一丁参照)、実在の会社として被告会社との間で本件物件の売買契約を締結する権利能力を有する法人であることは明らかである。

一〇 本件売買における売主と買主の契約成立の意思

本件売買について、売主である被告会社と買主である富士プロジェクト、パイデアオーバーシーズ、カズコーポレーションの間に売買契約成立の意思があったか否かという点であるが、売主である被告会社が、本件物件を売却する意思があったことは、前述のとおり、被告人において円山町物件以外を別に売却しようとかねてから考えていたところからも明らかである。

買主富士プロジェクトが本件物件を買取る意思があった点については、被告人が富士プロジェクトの事実上の経営者であることから、被告会社の所有物件を買取る意思を有したことは明らかである。

買主パイデアオーバーシーズが本件物件を買取る意思があったことは、同社の社長の楠本敦司が、被告人会社の社員であり、被告人に使用される立場にあって、同社は被告会社のグループ企業の立場にあったのであるから、被告人の意向を楠本敦司はそのまま受け入れたものであり(一審第九回公判楠本敦司証人尋問調書、一審記録全一二冊のうち第一〇冊三五八丁参照。)、パイデアオーバーシーズにおいて買主として本件売買契約を成立させる意思が存在したことは明らかである。

買主カズコーポレーションについては、被告人の依頼により、被告人が出資している株式会社マックホームズの社員である杉山時矢がカズコーポレーションの社長の黒川和紀に話をして、同社に本件物件の買主になってもらったものであり(一審第五回公判杉山時矢証人尋問調書、一審記録全一二冊のうち第九冊一四二丁裏、一四三丁表参照。)、同社の社長黒川和紀の意思は本件売買契約の成立に合意する意思であった。右黒川は、本件物件の所有権移転登記手続の際、被告人や杉山時矢や楠本敦司や大塚雄二税理士らと共に司法書士の説明及び登記に必要な書類の授受の場に列席して登記手続の実行に合意しており(一審第八回公判黒川和紀証人尋問調書、一審記録全一二冊のうち第一〇冊三一四丁参照。)、本件物件の売買契約の成立について、カズコーポレーションの合意があったことは明らかである。

一一 本件売買におけるカズコーポレーションの契約成立の意思に関する補論(その一)

本件売買における買主カズコーポレーションの契約成立の意思については、同社社長の黒川和紀が一審公判廷で、これが仮装行為であったという趣旨の証言をしているが、これは本件物件の売買契約の成立当時の同人の意思に関し、真実を証言していないためになされた証言である。同人は、本件物件の売買契約について真意でこれを成立させたことは、前記のとおりであるが、昭和六三年一〇月四日に、同人は、被告会社に対し本件売買物件の買戻しを約束させている事実は、同人が本件物件の売買について真に契約を成立させる意思があったことを裏づける。

別紙五の一覚書写(黒川和紀平成三年七月二四日付検察官に対する供述調書添付、一審検察官請求証拠等関係カード甲二八、一審記録全一二冊のうち第三冊三三一丁)及び別紙五の二念書写(同右)は、昭和六三年一〇月四日に同人が弁護士山本耕幹に相談して同弁護士から起案してもらい、そのうち別紙五の一覚書について杉山時矢から印をもらったものであるが(黒川和紀平成七年七月二四日付検察官に対する供述調書第一項、一審検察官請求証拠等関係カード甲二八、一審記録全一二冊のうち第三冊三三一丁参照)、別紙五の一覚書の内容の骨子は、カズコーポレーションが日本リソース株式会社から金三〇億四千五百万円を借り入れて、内金一八億六千万円は本件物件の買収代金に充当し、残金一一億八千五百万円は、被告会社が預り保管していることの確認と、被告会社は昭和六三年一二月二五日限り右預り金の全額をカズコーポレーションに引き渡すこと及び被告会社は昭和六三年一二月二五日迄に右物件を前記三〇億四千五百万円に本件売買に関する登記費用、公租公課及び借入利息その他の実費を加算した金額で買戻すこと及び被告会社が右買戻しを実行しない場合はカズコーポレーションは本物件を自由に他に売却することができ、その売却代金が右被告会社の買戻し代金に満たないときは不足代金を一〇日以内に被告会社が支払うことを約束している。

別紙五の二の念書は、被告会社が本件物件を買戻したときは、返還した預り金をカズコーポレーションは被告会社に再度返還するという内容である。

この覚書及び念書の作成された昭和六三年一〇月四日は、東京国税局作成の捜索差押てん末書(一審検察官請求証拠等関係カード五一乃至五三、一審記録全一二冊のうち第二冊二〇五丁、二〇九丁、二一六丁参照)のとおり、本件について東京国税局の捜索が始った日である。

別紙五の一の覚書の甲欄に作成者名義が、東京都新宿区百人町一丁目一二番二号株式会社富士エステートアンドプロパティ代表者代表取締役祭主司郎となっていることについては、右住所は被告会社の昭和六三年四月一三日迄の住所であり(一審検察官請求証拠等関係カード一三一商業登記簿謄本、一審記録全一二冊のうち第七冊一一〇一丁参照)、被告会社が同日渋谷区円山町一〇番八号に住所を移転したあとに、大塚雄二税理士において前住所に同一商号の会社の設立手続をしたところ(一審第一七回公判被告人調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊七七六丁参照)、本件物件の被告会社からカズコーポレーションへの所有権移転登記が昭和六三年三月末の被告会社の旧住所地時代に行なわれたので、売主である被告会社の住所は旧住所のまま所有権移転登記がなされたため(一審検察官請求証拠等関係カード甲一二三、一二四、一二五、一二六、一二七、一二八、一二九不動産登記簿謄本、一審記録全一二冊のうち第七冊一〇七七丁から一〇九七丁参照。但し甲一二六及び一二七は平成二年八月三〇日建物取毀のため閉鎖謄本)、旧住所地に所在する新設の株式会社富士エステートアンドプロパティ(代表者代表取締役祭主司郎)と右覚書の起案者であるカズコーポレーション側において混同したために生じた誤りと推測され、覚書の作成の日が東京国税局の捜索の初めて入った当日であり、杉山時矢においてとりあえず右名義で覚書を作成したものと推測される。

別紙五の一の覚書及び別紙五の二の念書は、右に述べたとおり黒川和紀が山本耕幹弁護士に相談して起案されており、これは、黒川和紀の当時の認識を正確に表わしているものと見られ、黒川和紀は、別紙五の一の覚書において、カズコーポレーションが本件物件のうち代官山、北沢、青葉台、用賀の物件を被告会社から売買代金一八億六千万円で買ったこと、日本リソースから三〇億四千五百万円を借りその中から右代金を支払い、残額の一一億八千五百万円は被告会社に預けてあること、右物件には日本リソースのため合計三〇億四千五百万円の抵当権が設定されていること、右物件は被告会社において、昭和六三年一二月二五日迄に右売買代金に費用を加えた代金で買戻しその際預り金の清算をすること、被告会社が買戻しを実行しないときは、カズコーポレーションは右物件を自由な価額で第三者に売却し、その売却代金が右物件の買入代金の一八億六千万円に満たないときは、差額を被告会社がカズコーポレーションに補償することを被告会社とカズコーポレーションが、相互に確認し合意している。別紙五の二の念書は、カズコーポレーションが被告会社に対し清算のため支払うべきものがある場合のカズコーポレーションの支払約束を記載したものであり、右覚書及び念書は、カズコーポレーションが被告会社との本件物件の売買契約の成立の意思を有していたことを証明している。

一二 本件売買におけるカズコーポレーションの契約成立の意思に関する補論(その二)

別紙物件一覧表記載の青葉台の物件について、被告人がカズコーポレーションに本件売買により所有権が移った以降も居住している事実があるが、これは右物件が転売される迄一時的に被告人が居住しているのであり(一審第一五回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊六四八丁、六四九丁)、右の事実は、本件物件の売買契約の成立についてカズコーポレーションが意思がなかったという証拠にはならない。

一三 本件売買におけるカズコーポレーションの契約成立の意思に関する補論(その三)

カズコーポレーションは、別紙物件一覧表代官山物件についてその所有者であることを認める一審東京地方裁判所及び控訴審東京高等裁判所の民事事件の勝訴判決を得ており(原審弁護人請求証拠等関係カード一及び一四判決写、原審記録全一六冊のうち第一四冊一丁及び一三八丁)、カズコーポレーション代表者黒川和紀は、右勝訴判決を受け取り、かつ、東京高等裁判所の口頭弁論期日の呼出状を何度も受け取っている(原審弁護人請求証拠等関係カード二五乃至三一郵便送達書写、原審記録全一六冊のうち第一四冊二〇七丁乃至二一三丁)。これは、黒川和紀において、本件物件の売買契約の成立についてその意思があったことを示す証拠である。

原判決は、これら判決について「弁論主義や処分権主義が支配する私人間の民事事件で言い渡された判決の内容が、本件と直接的な関連性を有するものとは考えられない。」として証拠性を排斥しているが(原判決理由第一、一、5項、末尾から四行目)、右民事事件の一審判決は平成元年一二月二五日に言い渡されており、その内容は別紙物件一覧表の代官山物件の所有者はカズコーポレーションであると言うものであり、この判決に対する控訴審の判決は平成三年一月二二日に言い渡されており、この判決も一審判決の内容を認め控訴を棄却している。黒川和紀は、右一審判決に対する控訴状を受領しており、カズコーポレーションが代官山物件の所有者であるという一審判決に対し控訴がされたことを認識しているのであり、その後の右控訴審では本人訴訟で対応し、控訴審の口頭弁論期日の呼出しや準備書面の送達を受けながら、そのまま推移させ、カズコーポレーションの代官山物件の所有を認める控訴審判決を得ているものである。

黒川和紀は、その一方において、本件一審の平成四年三月一九日の第八回公判で証人となり、公判廷において本件物件の売買は仮装行為であると証言している(一審第八回公判黒川和紀証人尋問調書、一審記録全一二冊のうち第一〇冊三〇四丁、三〇五丁)。この黒川和紀の一審公判における証言は、右民事判決の内容に反している。

右民事判決のうち東京地方裁判所における一審判決は、本件一審において弁護人から証拠として取調べ請求をしたが、一審裁判所はこれを却下して証拠として調べていない(一審弁護人請求証拠等関係カード九、一審記録全一二冊のうち第一冊一八九丁)。原審では、右民事一審判決及び控訴審判決を証拠として調べたものの、民事判決と刑事判決は直接の関連がないとして証拠価値を認めなかった。しかし、右民事判決書及び右民事判決に関する一審及び控訴審における黒川和紀の対応は、黒川和紀が本件物件の所有者がカズコーポレーションであることを認容していたことを意味するのであり、黒川和紀が一審第八回公判で本件物件の所有者がカズコーポレーションであることを認めない証言をしていることは一八〇度逆の態度である。

黒川和紀は、本件物件について被告会社とカズコーポレーションの間で売買が成立していることを認識していたことは明らかであり、これを認めない原審及び一審判決は事実誤認である。

一四 本件物件の売買契約に関する契約書作成等の不備について

原審及び一審判決は、本件物件の売買契約について、契約時に契約書が作成されていなかったことや売買価格が確定されていなかった物件があることを本件物件の売買が仮装行為であったことを裏づける事実として摘示しているが、売主たる被告会社と買主たる富士プロジェクト及びパイデアオーバーシーズ及びカズコーポレーションの間に売買契約を成立させる合意が出来ている以上、契約書がないという事実をもってして仮装行為を裏づける事実とすることは出来ない。売買価格についても売主と買主は低額譲渡であることを合意しているのであり、具体的な金額の決定を売主側に委ねても、売主と買主の関係が、同族会社あるいはグループ企業の関係であるから可能なことであり、仮装行為の裏づけにはならない。カズコーポレーションにしても杉山時矢を介して被告会社と親しい関係を有していたのであるので同様である。固定資産税や家賃収入の計算関係の中に被告会社と富士プロジェクトやパイデアオーバーシーズやカズコーポレーションの間で混同があるということについても、同族会社やグループ企業や親しい関係にある企業間の関係であるので、最終的に負担関係を処理し会計決算をする方法がとられても、被告会社と富士プロジェクトとパイデアオーバーシーズとカズコーポレーションの間の本件物件の売買契約の意思が存在しなかった証拠にはならない。これらのことは、いずれも売主の被告会社と買主の富士プロジェクトやパイデアオーバーシーズやカズコーポレーションが、同族会社やグループ企業や親しい関係の企業であったため起こったことであり、相互に本件物件の売買契約の成立の意思がある以上、これを被告会社とこれら買主との間の本件物件の売買が仮装行為であることの証拠にはならない。

一五 大塚税理士及び浅沼税理士について

本件において、大塚雄二税理士は、本件物件を売買することの主導的役割を果たしているが、同税理士にしても別紙四の日本経済新聞写を読んで、右行為のきっかけとしたのであり、右新聞記事は、同族会社あるいはグループ企業間の不動産物件の低額譲渡が税務署によって否認され、節税にならないどころか、寄付金収入等の名目でかえって多額の法人税が課税されることを警告した記事であり、大塚税理士もその点に注意が向けられたと思われる。右記事は、同族会社あるいはグループ企業間の不動産の低額譲渡が、仮装行為と見られて、偽りその他の不正の行為に該当し、法人税法違反として処罰される趣旨のことは一切述べておらないのであり、専ら右行為が税務署により否認される場合があることを述べているのであり、この記事を読んで大塚税理士及び同税理士の指導を受けた被告人等関係者において脱税を考えることはなかったものである。関係人らの関心は、専ら同族会社あるいはグループ企業間の不動産の低額譲渡は、税務署によって否認され、かえって多額の税金を支払わなければならなくなるのではないかという心配に向けられていたところ、大塚税理士がその心配はないと言うので本件物件の売買が行なわれたのである(原審第五回公判被告人供述調書、原審記録全一六冊のうち第一六冊八九丁)。

浅沼文雄税理士は、被告会社の顧問税理士であったところ、同族会社あるいはグループ会社間の不動産の低額譲渡については、確定的な税法上の判断を有していなかったが、大塚税理士が税法上可能というならばこれに追随する立場であった(一審第一三回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊五四二丁及び原審第五回公判被告人供述調書、原審記録全一六冊のうち第一六冊九四丁表)。

従ってこれら税理士らは、本件物件の売買について、税務署による計算の否認を心配していた事実はあっても、仮装行為を認識した事実はない。

一六 被告会社の本件物件売買は法人税法一五九条一項にいう「その他不正の行為」に当たらない

本件物件の売買は仮装行為でないことは、以上述べたとおりであるが、これが法人税法一五九条一項にいう「偽りの行為」に当たらないとしても同項にいう「その他不正の行為」に当るかという問題がある。この点について述べれば、同族会社あるいはグループ会社間の不動産の低額譲渡は、昭和六二年頃被告人も他の会社の取引例を知っており(一審第一三回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊五二四丁、五二五丁)、また、昭和六二年当時国土法の規制が強化されて土地の値段が下がりはじめた事実があり(一審第一三回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊五二四丁裏)、そのため被告人において将来の被告会社の経営に不安を感じていたところ、昭和六三年三月期において被告会社の利益が高額となって多額の税金が課せられることについて、合法的に節税ができないかと被告人は考えた。本件のきっかけは、ここにあるが、凡そ経営者は自分の企業について最大の収益を上げることを目指すのであり、その収益は単年度限りでなく多数年度に渡り獲得しようと努力することは当然である。法人税についても経営者が合法的に節税しようとすることを非難できないのである。別紙四の日本経済新聞の記事は、このような経営者の節税意図が方法を誤まれば税務署の否認により逆により多額の税金を納めなければならなくなることを警告した文書である。被告人においても当然そのような心配をし、大塚税理士に同族会社あるいはグループ企業間の不動産の低額譲渡を実行したいが、かえって多額の税金を納めることになっては困ると相談したのであり、この被告人の行為自体を非難することはできない。法人税法一三二条一項の同族会社の行為又は計算についての税務署長の否認の規定や同法三七条七項の企業間における資産の低額譲渡の場合の当該対価と当該資産の時価との差額を寄付金として取扱う規定等の発動が被告会社の本件物件の売買について配慮されるべき事であることは当然であるが、これが直ちに法人税法一五九条一項にいう「偽りの行為」又は「その他不正の行為」に当るものでないことは、別紙四の日本経済新聞の記事からも読み取れることであり、同族会社間又はグループ企業間の不動産の低額譲渡が税務署により否認され、当該低額価額と時価との差額が法人税法三七条七項により寄付金とされ法人税の申告漏れとして取扱われた有名企業の例が平成三年六月二一日の日本経済新聞で報道されており(原審弁護人請求証拠等関係カード一七日本経済新聞、原審記録全一六冊のうち第一四冊一六二丁参照)、不動産の低額譲渡が税務署の否認の問題として扱われ直ちに脱税となるのではないという解釈は、所得税法一五九条一項の「偽りその他不公正の行為」の解釈として社会的に受け入れられている。

一七 土地の値下りと本件物件の売買価格との関係には合理性がある。

前項で既に述べたとおり、被告人は、土地の一般的な値下りを予想したが、現実に値下りは起り、その値下り率は、昭和六三年から平成六年にかけて本件物件所在地域の公示価格で見ても平均五〇パーセントに達しており(原審弁護人証拠等関係カード三六物件価格減価一覧、原審記録全一六冊のうち第一五冊二四四丁参照)、被告会社の本件物件の売買価格が簿価(仕入価格プラス仕入諸費用)の平均三〇パーセント減になっており(同右参照)、被告人の経営上の判断として、被告会社の本件物件の値下りを予想しての本件売買は合理性を有しており、これから値下りの予想される物件を安く処分して、一時的に生じた昭和六三年三月期の利益を少なくして今後の経営に備えたいという企業経営上の判断は、不正な手段で利益を隠そうという脱税を意図するのとは異なり、法人税法上税務署長の否認の審査の対象となることはあっても、脱税行為となることはないのであり、企業経営上の判断としても合理性があり、合法のものである。この点からも、被告会社の本件物件の売買を仮装行為と捕えることは誤りである。

一八 大塚税理士も税務署との話し合いになると予想していた

被告会社の本件物件の売買が、同族会社やグループ企業の不動産の低額譲渡に関する税務署の行為否認の問題となるということは、大塚税理士も予想していたところであり、大塚税理士も予想していたところであり、一審第四回公判で証人となった大塚税理士は、木下弁護人の「結局のところ、あなたとしては、これは税務署から税務調査を受けて、そこで折衝してランディングをどうするかとか、その結果修正申告に持っていく、こういうお考えだったんですね。」という質問に対して「それが基本なんです。」と答えている(一審第四回公判証人大塚雄二尋問調書、一審記録全一二冊のうち第九冊九二丁裏)。被告人も大塚税理士から同様の説明を受けて、被告会社の本件物件の売買は「行為計算の否認ですから、安く売るということになるんですけれど、安かった、高かったは税務署との話し合いだから、それは私のほうが責任をもって、これから今後もやってあげますから、もし安ければ修正すればよろしいんだから、というような説明を受けたから、そういうもんかなと思って安心しました。」と一審公判で供述している(一審第一三回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊五四〇丁)。そして、税務署の調査については、不動産業の場合日常的に必ず来るので、被告会社の本件物件の売買についても必ず来ると思っていたのであり、被告人は一審第一四回公判の供述において、裁判長から「税務署の調査は。」と問われ「調査は来ますね。」と答え、さらに裁判長が「だから、調査を受けるかもしれないという心配はあったの。」と問うたのに対し「税務署の調査はいつも受けていますから、必ず来ますから、不動産業の場合、必ず定期的に来ますから、最初から覚悟して、すべて書類も整えて、税務署用にというふうにして、税務署さんが言う資料というのは売買契約書と領収証というのは必ずおっしゃいますから、それはもう分けておくぐらいに、税務署の調査、はいと、捜すのが大変なのでふだんからもう税務署の調査というのは不動産業は非常に頭に置いてます。今回は、先ほど来申し上げてますけれども、同族会社の売買で否認されると、多大な税金がかかるということを知ってましたから、それでは困ってしまうわけですから、節税どころかダブルか三倍か知りませんけれども、たくさんの税金がかかっちゃうわけです。それで困るので、それにならないようにということで、そしたら大塚先生(大塚税理士)が、要するに安かったら税金がかかるわけですから、安かったか安くなかったかは税務署との話し合いだから、それは私に任せなさいと。」と答えている(一審第一四回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊六〇八丁)。さらに、被告人は被告会社の本件物件の売買は脱税になるなどと全く考えていなかったことにつき、被告人は一審第一四回公判で、木下弁護人から「要するに税法上そういうことができるかどうか、専門家に判断してもらいたいと、何かいい方法があればということだったんですか。」と問われたのに対し、被告人は「多大な税金が来ないような、余計な税金がたくさん来てしまう、いわゆる寄付行為とかなんとかでは大変ですから、刑事事件なんて夢にも思ってません。」と答え(一審第一四回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊五九九丁裏)、さらに、同公判で、裁判長から「それから、あなたは刑事事件のことは考えてなかったと言うけれども、今の話で、大塚税理士の話から刑事事件の問題になるんじゃないかと、そういう心配はそのときは浮かばなかったの。」と問われたのに対し、被告人は「脱税なんてことは私のまわりには全然存在というか、考えたこともなかったです。大塚先生にお願いする前も、大塚先生にお願いしたあとも、私自身は脱税ということは全然頭になかったです。全く私とは関係のないことだと思ってました。」と答えている(一審第一回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち六〇九丁表)。被告会社の本件物件売買が脱税になるということは、大塚税理士も被告人も予想していなかったところである。

一九 被告会社もパイデアオーバーシーズもカズコーポレーションも被告会社の本件物件の売買は真正なものであり、仮装行為でないと考えていた。

被告会社と富士プロジェクトとの間の本件物件の売買が仮装行為でなく真意に基づくものだという点について、被告人は、一審第一五回公判で松田弁護人らから「要するに、富士エステートアンドプロパティ(被告会社)の財産関係を富士プロジェクトに移そうかという意識があったわけでしょう。」と問われたのに対し、被告人は「そうです。」と答え(一審第一五回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊六二六丁表)、さらに、同公判で被告人は、松田弁護人から「あなたの気持としては、実際に不動産を同族会社の富士プロジェクトに譲渡する意思はあったんですか」と問われたのに対し、「もちろんです。」と答えている(一審第一五回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊六二八丁表)。そして、さらに、被告人は、被告会社の本件物件の売買が仮装行為でないという点について、同公判で松田弁護人が「同族会社の富士プロジェクトに資産を移すというのは、財産をすべて移すつもりでいたんですか。」と問うたのに対し、被告人は「基本的に、なぜ富士エステート(被告会社)から富士プロジェクトに資産を売りたかったかと言いますと、富士エステートが風俗営業のホテルを持っていて、そのホテルを売るために法人売買しか方法がないので、どうしても法人を売るためには、そのホテル以外のものを他社に売ったり、あるいは所有したいものは新しい会社に移ること以外には、方法が考えられませんでしたので、富士エステートはホテルごと将来売ってしまう会社、それから、富士プロジェクトは新しい資産を持って、その他、営業していく会社というふうに考えておりました。」と答え(一審第一五回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊六二九丁裏、六三〇丁表)、被告会社が本件物件の売買について真意を有していたことを述べ、また被告人は原審第五回公判で河本弁護人が「その点について国税局の査察、それから検察庁の調べ、その二つの場面においてはどういうふうに述べられたかということを伺いますけれども、まず国税局の査察の場面においては、仮装か実質売買かの点について、どういうふうに述べておられるんですか。」と問うたのに対し、被告人は「古いことですけれども、私が強烈に覚えているのは、商法上は売買だろうけれど、税法上は売買でないというふうに担当の方から言われたのだけはびっくりして、どういうことなのかと思いましたけれども、そのことで仮装なんだというふうに言われたんでしょうか、国税のほうは。」と答え、さらに河本弁護人が「国税の査察官の方は、そういうふうに言われたわけですか。」と問うたのに対し、被告人は「私には、はい。」と答え、続けて河本弁護人が「で、それに対してあなたは、どういうふうに抗弁したんですか。」と問うたのに対し、被告人は「私には商法上と税務上が売買が違うという意味が全く分かりませんから、そんなことは分からないというふうにお答えしたし、仮装の売買ということはあり得ないというふうに、当然言っております。」と答えている(原審第五回公判被告人尋問調書、原審記録全一六冊のうち第一六冊一〇六丁裏、一〇七丁表。)。さらに、続けて同公判で河本弁護人が被告人に対し「実際に売ったんだと、こう主張したんですね。」と問うたのに対し、被告人は「はい。」と答え、続けて河本弁護人が「実際に売ったんだと主張する根拠は、どういうふうに説明したんですか。」と問うたのに対し、被告人は「まず、笑われてしまうかもしれませんけれども、本当に仮装でないから仮装でないということが大前提ですけれども、私たちの常識から言うと、登記をするということは、仮装では基本的にはあり得ない。なぜかというと、ほかの人の名義になってしまったものに仮装ということは絶対ならないと思うんです。ですから、すべて登記をして、しかも、ない法人ではありませんから、ある法人に登記をしているということが、なぜ仮装と言わなきゃならないのかということは、そのときも当然ですし、また、今でも大きな疑問です。」と答えている。被告会社とパイデアオーバーシーズとの間の本件物件の売買についてそれが仮装行為でなく真意に基づくものだという点について、被告人は一審第一六回公判で河本弁護人の「楠本さんの調書に、楠本さんがパイデアに移転になった三つの物件の名前とか売買契約の内容とか、そういったものを知ったのは問題の六三年三月から見て約一年後、平成元年の初めごろのことであると、こういうふうに調書で言っておりますが、その点についてはどうでしょうか。」という問に対し、被告人は「いいえ、それも違います。なぜかっていうと、その時点で、三月の末の時点で楠本敦司本人が登記にも立ち会いましたので一年後ということはありません。」と答え、さらに河本弁護人が「六三年三月末の日本リソースにおける登記手続きのために皆さんが集まった、あの場に楠本さんも出ておられたんですか。」と問うたのに対し被告人は「そうです。」と答え、続いて河本弁護人が「だから、そういうことはあり得ないというわけですね。」と問うたのに対し被告人は「はい。」と答えている(一審第一六回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊六八七丁裏、六八八丁表)。この点については、楠本敦司も一審第九回公判で検察官が「本当に三物件に関する富士エステートアンドプロパティとパイデアオーバーシーズの取引というのは、売買契約書があるようですがほんとに売買だったんですか。」と問うたのに対し、証人として出廷した楠本敦司は「売買ですね、それは。」と答え、さらに検察官が「実体的に売買だったんですか。」と問うたのに対し、楠本敦司証人は「実質的な、伊藤先生(伊藤満邦公認会計士)もそのとき言っておりましたけれども、売買は売買であると、ただ税法上行為計算の否認にあたる可能性がある、というふうなご意見を聞いたように思っております。」と答えている(一審第九回公判証人楠本敦司証人尋問調書、一審記録一二冊のうち第一〇冊三六九丁表)。さらに、楠本敦司は一審第九回公判で証人として鈴木弁護人から「通常この物件もそうだと思いますけれども、銀行から金を借り入れた場合、当然金融機関はその物件を抵当に取りますよね。」と問われ、楠本敦司証人は「はい。」と答え、さらに鈴木弁護人から「当然金銭消費貸借の末尾に物件表示というのがあるんですよね。」と問われ、楠本敦司証人は「はい。」と答え、続けて鈴木弁護人から「そこに所在、面積、書かれてますよね。」と問われ、楠本敦司証人は「(うなずく)」という態度を示した。さらに同公判で楠本敦司証人は、鈴木弁護人から「あなたとすれば、確認をしなかったかも分からないけれども、金銭消費貸借契約書に署名捺印したことによって、売買物件は特定していたというふうに理解していたんじゃないですか。」と問われたのに対し、楠本敦司証人は「私は署名じゃなくて、捺印しました。」と答え、さらに鈴木弁護人から「いずれにしても、金銭消費貸借契約書に捺印したわけですね。」と問われたのに対し、楠本敦司証人は「はい。」と答え、続いて鈴木弁護人から「金融機関でこれ購入の際に、担保に入ったわけですよね。」と問われたのに対し、楠本敦司証人は「そうです。」と答え、次いで鈴木弁護人から「少なくとも法律上は、ちゃんと特定はしていたと言えるんじゃないですか。」と問われたのに対し、楠本敦司証人は「法律上は私もそうなると思っていました。」と答えている(一審第九回楠本敦司証人尋問調書、一審記録全一二冊のうち第一〇冊四〇四丁、四〇五丁裏)。

被告会社とカズコーポレーションとの間の本件物件の売買についてそれが仮装行為でなく真意に基づくものだという点について、被告人は、一審第一六回公判で、被告人は河本弁護人からの「この黒川さんは非常に関係者の中で一番はっきりと言っていいぐらい、この売買が仮装であったと言い切っているんですが、その点カズコーポレーションに売ったということは仮装だという頭ですか。」という問に対し、被告人は「いいえ、とんでもありません。仮装というのは不動産にはちょっとあり得ないんじゃないかと思うんです。なぜかといいますと、不動産の売買に一番大切なのは私が考えるのには登記ですから、登記をしてしまったものに仮装ということは基本的にあり得ないとまず思います。なぜかというと、登記をした時点で登録されてしまって、それによって所有権とか、それから税金とかずっとくるわけですから、仮装というのは一回こっきりのことで終ることは仮装というふうなことはあるかもしれませんけれど、登記を伴った不動産の売買は仮装というのはまず不可能だと思います。」と答え、さらに河本弁護人が「登記を移転したということが非常に重要なポイントで、これは仮装じゃないんだというわけですね。」と被告人に問うたのに対し、被告人は「はい。」と答えている(一審第一六回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊のうち第一一冊六九二丁裏、六九三丁表)。

従って、被告人は、被告会社と富士プロジェクト及びパイデアオーバーシーズ及びカズコーポレーションの間の本件物件の売買について、これら当事者はいずれも売買の真意に基づいて売買をしたものであり、売買契約は真正なものであり仮装行為ではない。

二〇 結語

結局、被告会社の本件物件の売買は、仮装行為ではなく、また、不正の行為にも当らず、法人税法一五九条一項に言う「偽りその他不正の行為」ではないので、被告会社及び被告人は控訴事実について無罪である。

原判決は、右事実を誤認して、被告会社及び被告人に対し有罪の判決を下したが、これは無罪を有罪とする重大な事実の誤認であり、この誤認がなければ被告会社及び被告人は無罪となったのであり、判決に影響を及ぼすものであり、かつ、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する。よって原判決には刑事訴訟法四一一条三号の上告理由がある。

(その二)被告会社及び被告人には脱税の故意がなく、原判決には、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認がある。

一 犯罪における故意の成立

犯罪において故意が成立するには、構成要件に該当する事実の表象及び認容が必要である(団藤重光「刑法綱要総論」第三版二九三頁)。

本件において被告人は法人税法一五九条一項にいう「偽りその他不正の行為によって法人税を免れる」故意はなかった。

二 被告人において法人税法違反の認識はなかった

被告人は、昭和六二年に国土法が小さな物件にまで規制が適用されるように改正されたことにより土地の値段が下りはじめたことがきっかけで会社の土地の処分を考えはじめ、さらにある大手の会社が当期に多くの利益を得たので売れにくい不動産を低額で譲渡することとした例を知って不動産の低額譲渡を考え始めたものである(一審第一三回公判被告人供述調書、一審記録全一二冊うち第一一冊五二四丁、五二五丁)。そして、企業の不動産の低額譲渡に関連して別紙四の日本経済新聞の記事の切抜きを日本リソースの佐々木秀男から渡されてこれを読み、同族会社あるいはグループ企業間で不動産を低額譲渡することが可能かということを考えるに至ったものである。そして右について佐々木秀男から税理士大塚雄二を紹介され、同税理士が、法人税法違反にならないと説明し、その実行を任かされてよいと言うので、同人に任せて、本件物件の被告会社から富士プロジェクト及びパイデアオーバーシーズ及びカズコーポレーションに対する売買を実行したものである(一審ポレーションから何ら民事上の救済手続をしていないのである。確かに、原判決のとおり弁論主義や処分権主義が支配する民事事件と刑事事件は相違するかも知れないが、本件で問題となっているのは本件物件の所有権の帰属、即ち、仮装売買か実体売買かを問題にしているのであり、民事事件の範疇の問題なのである。

原判決は、右所有権の帰属が民法に基づく処理であることを看過ごしているのである。

ところが、第二審判決も、「原判決挙示の関係証拠によれば、本件譲渡が仮装されたものである」と判示した。

即ち、第二審判決は、

「所論は、主に、被告人の捜査段階、原審及び当審公判における各供述、当審証人佐々木秀男及び同島津博雄の各証言などに依拠して本件譲渡が真実の売買であった旨を主張しているが、本件譲渡に関与したその余の者らの各供述、特に大塚雄二の原審及び当審各証言、黒川和紀の原審証言、杉山時矢、栗林久枝、浅沼文雄、楠本敦司の検察官に対する各供述調書等によれば、本件譲渡が仮装されたものであることは明らかであり、この点は、以下のとおり認定することができる本件譲渡に至る経緯、その内容及び譲渡後の状況等の客観的事実に照らしても、疑いがない。

本件譲渡が真実の売買であると認識していたなどとする被告人の一連の供述及び前示佐々木らの証言は信用することができない。」

と判示した。

しかし、本件取引を決定し指導した税務専門家である大塚雄二の原審及び当審の各証言に夜も、「脱税」を指南したとの証言は何処にも存在しないし、大塚雄二自体、本件が脱税になるなど全く予想だにしていなかったことは、同人の証言から明らかである。

殊に、重大な問題は、大塚雄二は、東京国税局及び東京地方検察庁との取引により、不処分にしてもらうことを交換条件として、税理士としての良心を捨て、正に、上告人会社及び上告人堀口麗子を不当にも偽証で陥入れたものである。

即ち、大塚税理士にとっては、本件税務申告が刑事事件になるなどとは思ってもいなかったものであることは、同人の原審及び第二審での法廷での証言からも明白である。

又、黒川和紀の証言も、東京国税局及び東京地方検察庁との取引により、不処分にしてもらうことを交換条件として売買を否定しているが、取引前、取引時、取引後の諸事実からして偽証していることは明白である。

7、被告人の法人税ほ脱の故意等について

原判決は、「低額譲渡であっても真に売買の意思に基づくものであればほ脱にならないことは当然である。」としている。

右認定は当然のことである。翻って、本件事案を鑑みれば、被告人をはじめとする関係当事者においては、合法的な節税方法を考えこそすれ、不正な脱税など全く念頭になかったものであり、本件の税務処理も同族会社間乃至関係会社間においてしばしば行われる資産の低廉譲渡(これは子会社の援助、育成あるいは評価損の実現、その他さまざまな目的のために行われる)に過ぎないものであり、これに対しては、利益操作あるいは所得振替に当るとの観点から、損金性の当否より行為計算否認の可否が税務当局によって問題とされることはあっても、これに対して法人税ほ脱観点より問題とされることなど全く存しなかったものである。

それでは、何故、本来は単なる税務上の是、否認の問題であるに過ぎない低額譲渡が、本件ではほ脱事犯と取扱われるに至ったのか、この点の解明を通じて、もともと被告人をはじめ関係者にはほ脱の範囲など存する筈がなかったことが自づと明瞭となるものと考える。

その理由の最大のものは、大塚税理士が実際には未熟、未経験であるにも拘らず、若干の税法上の知識から自己過信に陥り、ことさら税務当局の誤解を招きかねない税務上の処理を行い、且つその適切妥当な対応を怠ったことと、かかる大塚税理士の能力知識を買い被り、ただひたすら同税理士を信頼しその指導処理に何らの疑いをも差し挟むことなく全てを任せた被告人はじめ関係当事者の軽率、無思慮が挙げられよう。

しかし、その軽率さ、あるいは無思慮を責めることはもとより、可能であったとしても、これをもってほ脱の犯意なり認識ありとなすことなどできよう筈がない。

それでは、右に述べた大塚税理士の未然且つ不手際な税務処理と、同税理士に対する過大評価につき見ることとする。

本件において、特徴的なこととしては、何よりも大塚税理士の自己過信と被告人らの大塚税理士に対する過大評価が挙げられる。

もともと大塚税理士は、正規の税理士試験を合格したことによる資格を取得したものではなく、国家試験の抜け穴と評されているダブルマスター(大学の法学研究科と商学研究科の各修士過程をそれぞれ二年で終了し、合計四年で二回の修士資格を持つことを示す)による全科目免除により税理士試験を無試験で資格を取得したものであるに過ぎない。

右の如き、税理士試験免除による資格取得者については、税理士試験が高度且つ厳格となり、その合格が困難となるに従い抜け穴として活用され、近時その数は激増するに至っている。

ところで、かかる試験免除による資格を取得した税理士に対しては、全く実務経験がなく、更に何らの研修制度も義務付けられていないため、能力、知識における質的低下がかねてより憂慮されると共に、規範意識の弛緩が指摘されているところである。

大塚税理士については、正に試験免除による資格取得者の欠陥が端的に露呈されていると見られるのである。

大塚税理士は、実際には実務経験に乏しく、又先輩よりの指導も殆ど受けたことがなく、従って、税理士として納税者に対する適切妥当な指導をなす能力、知識はなかったものであり、ただ実務経験に何ら裏付けされない生硬な若干の税法上の知識のみであったに過ぎないのである。

ところが、大塚税理士は自らの能力知識を過信したあまり、基本的には税法上許容される行為ではあるが、税務当局の強烈な拒絶反応を引き起こしかねず、ほ脱行為と疑いを招くがごとき税務上の処理を当然なものとして行い、且つこれに伴う税務署への事前打診なり折衝等、適切な処理を怠ったがため、税務当局にあらぬ疑いを引き起こすこととなり、ついに脱税と認められるに至ったものである。

他方、委嘱者である被告人らにおいては、大塚税理士が実際には理にのみ走ったきらいのある粗雑な処理を行い、且つ実務については未熟、未経験であることに気づかず、かえって逆に大塚税理士の学歴に惑わされ、且つ同税理士の大言壮語を鵜呑みにして同税理士を並の税理士とは違う能力、知識と卓越した実務経験を有する税理士と盲信し、なかんずく資産税乃至不動産税務の処理に極めて堪能熟知しているものと誤解し、同税理士の指導及び処理につき寸毫も疑いを差し挟むことなどなかったのである。誠に軽薄とも軽率とも言い得ようが、これは脱税の犯意とは全く結びつくものではなく、かえって逆に犯意のないことを示すと言えよう。

これが、本件の税務処理が、本来単なる同族乃至関係会社間取引であり、法人税法上、同族会社間の行為計算の否認の適用の可否にすぎないものであるのに、法人税法ほ脱事犯として取り扱われるに至った主因である。

要は、大塚税理士の未熟、未経験よりきた税務処理の不手際より、税務当局に法人税ほ脱と誤解を与え、査察更には告発へと至ったものであり、もし彼に被告会社におけると同様の会計税務処理が、熟達した税理士によってなされたとするならば、その行為計算の否認の可否をめぐり税務当局との折衝はあったにせよ、決してほ脱事犯として取り扱われることはなかったと認められるのである。現に、同族会社間の行為計算否認のなされた事例について、これがほ脱とされた例は全く存しないことからも明らかである。

このように考えるならば、本件においては、被告人はもとより大塚税理士をはじめとする関係当事者において、もともと脱犯の犯意なりほ脱の認識がなかったことは極めて明白と言えよう。

四、刑の量定と法の下の平等

仮に、被告人らが有罪であるとしても、被告人に対する原判決の量定は著しく不当である。

原判決は、量刑について、「本件は大塚税理士の関与なしには実行できなかったものであるのに、同税理士が処罰を免れていることを考慮すると、被告人に対しては、いまだ刑の執行を猶予すべきものとは認められないものの、検察官の求刑どおりに懲役四年に処した原判決の量刑は、その刑期の点でいささか重過ぎて不当であると言わざるを得ない。論旨は右限度で理由がある。」と判示したが、懲役三年六ケ月の実刑とした。

しかし、本件取引の重大な役割を果たした大塚税理士及び黒川らが全く不問とされ、自由の身でいることを考慮すれば、既に一一か月もの長期間に及ぶ自由を剥奪され甚大な苦痛と十分な制裁を受けている被告人を想えば百歩譲っても被告人も自由の身でいられるべきであり、それが、正義に叶い平等であると言うべきである。

しからば、本件では大塚税理士や黒川和紀と同様に、被告人の自由も保障されるべきであり、被告人に対して許容される処罰の上限は執行猶予付実刑判決とすべきで、執行猶予のない懲役三年六月の実刑判決は刑の量定が甚しく不当であり、明らかに法の下の平等に違反すると言える。

よって、原判決は憲法第一四条に違反し、破棄を免れない。

第四 補足

平成八年八月二九日、同月三〇日、同年九月二日における本件株式会社カズコーポレーションに関する物件の状況は、本件売買が真正なものであることを示している。

一 代官山物件(別紙物件一覧表<12>渋谷区西恵比須西一丁目二四六-一三土地、同二四六番一三の一建物)は、所有者は、株式会社カズコーポレーションであり、それをいずれも、平成六年七月二二日、大蔵省が滞納を理由に差押えをしている。抵当権者は山一総合ファイナンス株式会社である(別紙六の一、同六の二不動産登記簿謄本参照。)。

二 北沢物件の土地(別紙物件一覧表<13>世田谷区北沢四丁目九〇四番四宅地)は、株式会社カズコーポレーションから原審判決後平成七年一一月二二日競売による売却によって秀光建設株式会社に所有権移転され(競売開始決定平成六年三月二四日申立人山一総合ファイナンス株式会社)、山一総合ファイナンス株式会社の抵当権は抹消されている(別紙七不動産登記簿謄本参照。)

北沢物件の建物世田谷区北沢四丁目九〇四番四の二については、平成二年八月三〇日取毀されている(原審弁護人請求証拠等関係カード七八番、原審記録全一六冊中第一五冊四五二丁参照。)。

三 青葉台の物件(別紙物件一覧表<14>目黒区青葉台三丁目五二一番一一一土地、同五二一番一一一建物)については、所有者株式会社カズコーポレーション、平成六年三月二四日競売開始決定、申立人山一総合ファイナンス株式会社、差押東京都、抵当権者山一総合ファイナンス株式会社である。(別紙八の一、同八の二不動産登記簿謄本参照。)。

四 用賀物件(別紙物件一覧表<15>世田谷区玉川用賀二丁目三二八番一土地)は、株式会社カズコーポレーションから原審判決後平成八年一月二九日に競売による売却によって倉林建設株式会社に所有権移転され(競売開始決定平成六年三月二四日申立人山一総合ファイナンス株式会社)、山一総合ファイナンス株式会社の抵当権は抹消されている(別紙九不動産登記簿謄本参照。)。

五 本件物件につき、抵当権者の山一総合ファイナンス株式会社の右融資の担当者八尋茂信は、昭和六三年三月二八日及び三月三〇日に抵当権を設定した際、何ら権利関係について問題がなく被告会社富士エステートアンドプロパティと株式会社カズコーポレーション間の売買及び本件全ての売買についてこれを当然真正な売買と認識していたのであり、右八尋は、検察官に対する供述調書で「私や私の上司が、エンドユーザーの事業計画に特に問題がないと認めた」場合、「社内の融資委員会に諮ってその許可を得てから、融資を実行していました。」と述べている(一審検察官請求証拠等関係カード甲三三番八尋茂信の検察官に対する供述調書第六項、一審記録全一二冊のうち第二冊第八丁表第一行乃至第四行)。その後競売申立が右山一総合ファイナンス株式会社によりなされ、競売開始決定が東京地方裁判所民事第二一部によってなされ、競売による売却の完了したものもあり(以上前記第一乃至第四項記載のとおり。)、この経緯から、本件物件の被告会社富士エステートアンドプロパティと株式会社カズコーポレーション等との売買が真正であったことを推認させるものである。

六 代官山物件(別紙物件一覧表<12>については大蔵省(国税当局)自体が株式会社カズコーポレーションが所有者であることを認めて差押をしている(前記第一項記載のとおり。)。

七 青葉台物件(別紙物件一覧表<14>)については東京都が株式会社カズコーポレーションが所有者であることを認めて差押をしている(前記第三項記載のとおり。)。

八 そうであれば、現在に至る本件各物件の権利関係の経緯からして、本件各物件の売買は仮装ではなく真正なものであることが推認できる。

別紙一

修正損益計算書

<省略>

別紙二

脱税額計算書

<省略>

別紙三

物件一覧表

<省略>

別紙四(一審検察官請求証拠等関係カード甲八六内容)

日本経済新聞昭和六二年(一九八七年)五月一八日(月曜日)S(四一)頁

(見出し)

法テク・税テク

LAW&TAX

そのときどうなる

法人同士の契約

税法上は無効

土地を低額譲渡し節税

グループ内取引の悪用には国税庁の厳しい目が……

(内容)

首都圏を中心とする地価高騰は、土地取引や相続など土地がらみの税金にも大きな影響を与えている。納税額は少ないに越したことはないが、行き過ぎた節税作戦が裏目に出るケースもある(弁護士・公認会計士関根稔)課税免れるはずが……

XさんはA、B、Cの三つの会社を経営している。悩みの種は赤字と税金。

A社が所有する土地を売却して赤字を埋めることにしたが、それではA社の欠損しか埋められない。そこで、次のような取引をすることにした。

A社は時価六億円の土地をB社に二億円で譲渡する。A社の土地帳簿価額は一億円なのでA社には一億円の利益が生じる。

次いで、B社はこの土地をC社に三億円で譲渡する。B社にも一億円の利益が残る。さらに、C社は第三者に六億円で売り、三億円の利益を得る。

Xさんのもくろみでは、A、B、C社の合計で五億円の利益が生じるが、三社にはそれぞれ同額の繰越欠損金があるので課税は免れるはずだった。

ところが、結果は予想を見事に裏切り、A社に五億円、B社に四億円、C社に三億円、合計十二億円の利益が生じるとして課税されてしまった。

税務署の考え方は次のようなものだった。

A社は六億円相当の土地をB社に譲渡したのだから、B社からは六億円を受け取れたはず。二億円しか受け取らなかったのはA社の勝手。税務署としては六億円を受け取ったものとして税金を払ってもらう。

B社に対する課税処分はこうだ。B社は六億円相当の土地を二億円で購入した。だから、B社はA社から四億円相当の贈与を受けたのと同じ。C社は六億円相当の土地を三億円で購入することができた。だからC社は三億円の受贈益がある。

A社らは、課税処分の取り消しを求めて裁判所に訴えた。大阪高等裁判所はB社に対する課税処分を取り消したが、A社への課税処分は正当だと判断した。B社に対する課税処分が取り消されたのは次のような理由だ。B社はA社から低額譲渡を受けたが、これはC社に三億円で転売することを義務づけられた課税だ。だからB社には一億円の受贈益しか発生しない。

当事者間では有効な契約でも、税法の解釈では契約条項として効力が認められないことがある。Xさんの失敗は、当事者間の契約条項が税法上も有効と考えたところにあるわけだ。

時価で譲渡と扱う

最近、Xさんの場合と同様に、売買価額が時価を下回っているという理由で、更正処分が行われる事例が増えている。

田中角栄元首相系の室町産業は、子会社の株式を約二億円でグループ企業に売却した。ところが東京国税局から、譲渡価額が低すぎるとの更正処分を受けてしまった。

ホテルニュージャパン火災の横井英樹被告が経営する東洋郵船と横井一族は、それぞれが所有する土地を「価額がほぼ見合う」として交換したが、東京国税局からの更正処分を受けた。資産価額に差があるというのが更正処分の理由だ。

低額譲渡が常に否認されるわけではない。個人間の低額譲渡は税法上も正当な取引と認められる。取引価額を収入として譲渡所得を計算すれば良いことになっている。ただし取引価額が相続税評価額を下回る時は、買主に対して贈与税がかかる。

しかし、契約の当事者に法人が加わると、原則として低額譲渡は認められない。売主に対しては、資産を時価で譲渡したものとして譲渡所得が計算され、買主に対しては、時価との差額相当の贈与を受けたものとして受贈益が計算される。

唯一の例外は、個人から法人に対する低額譲渡のうち、譲渡価額が時価の二分の一以上である場合。この時は取引価額を正当なものと認め、譲渡所得を計算するというのが税務の原則的な取扱いだ。この場合も買主である会社に対し、時価との差額相当額には受贈益課税される。

注意しなければならないのは、法人を契約の当事者とする場合は、相続税評価額が使えないということだ。相続税評価額が利用できるのは、相続税か贈与税が課税される場合に限られる。当事者の一方が法人なら、時価はあくまでも実勢価額となる。だから同じ贈与契約でも、個人間の贈与なら相続税評価額が使えるが、法人からの贈与だと実勢価額が評価額だということになる。

民法上は同じ取引でも、契約当事者が代われば、税法の取扱いも変わってくるわけだ。

安易な節税策は禁物

首都圏の異常な地価高騰で、不動産業者は利益の圧縮にきゅうきゅうとしている。手っ取り早いのが赤字会社の利用で、取引の途中に赤字会社を介在させ、繰越欠損金で所得を圧縮する。でも、安易な節税策はXさん同様の失敗を生む。グループ内取引の悪用には目を光らせるというのが国税庁の方針だ。

教訓

当事者間では有効な契約でも、そのまま税務上も認められるとは限らない。

法人を当事者とする契約では低額譲渡は否認されるのが原則で、節税には使えない。

相続税評価額が利用できるのは相続税と贈与税。所得税や法人税の課税で採用される価額は実勢価額。

別紙五の一(一審検察官請求証拠等関係カード甲二八添付覚書写内容)

覚書

甲 株式会社 富士エステートアンドプロパティ

乙 株式会社 カズコーポレーション

上記甲乙間において下記事項を確認する。

一、甲が、事務管理によって乙のため下記事項をなしていることを互いに確認する。

(一) 甲が乙名義(連帯保証人黒川和紀を含む以下同じ)をもって日本リソース株式会社から金三〇億四千五百万円を弁済期昭和六五年一二月二〇日利息年六・三%にて借入れたこと。

(二) 甲は上記借入金全額を保管し、内金一八億六千万円は、甲所有名義の別紙目録第一記載の物件を(以下本件物件と略記)同物件付記の金額をもって乙に譲渡した代金に充当したこと。

(三) 残金一一億八千五百万円は、甲が前記(一)の利息の支払に充てたほか、すべて、甲において、これを乙のため預り保管中であること。

(四) 乙が前記(二)によって取得した物件全部はすべて前同目録第二記載のとおり日本リソース株式会社のために抵当権を設定していること。

二(一) 甲は前記(三)の金一一億八千五百万円全額を、昭和六三年一二月二五日限り乙に引き渡す。

(二) 全文抹消。

(三) 甲は、借入時から上記(一)の引渡時までの借入利息相当金として年六・三%の割合による金員を附して乙に支払うものとする。

三、甲は本件物件全部を昭和六三年一二月二五日までに買戻す。

買戻し価格は前記一、(一)の金員にして、前同目録抵当権の被担保債権合計額のほか乙が本件物件取得のために要した登記手続に関する費用、公訴公課及び借入利息その他の実費を加算した金額とする。

四、甲が上記買戻し期限までに買戻しをしないとき、又は前記二、の金額を期限までに完全に引渡しをしないときは、乙が本件物件の全部又は一部を乙の定める金額をもって自由に他に売渡すことについて、甲は、何ら、異議、故障を申し出ない。

五、乙が前項によって本件物件全部を売渡した金額が前記一、(一)の借入金の元利金に満たないときはその不足額を甲は補償する。

甲は乙より上記補償金の請求を受けたときは一〇日以内に同金額を支払う。

上記支払を遅怠したときは年一割二分(年に満たないときは日割計算とする)の割合による延滞損害金を附して支払う。

六、甲は乙に対して事務管理費用は一切請求しない。

七、甲代表者及びオーナーは個人として前記各項による債務を甲と連帯して保証する。

八、本覚書に記載のない事項又は本覚書の解釈について紛争、疑義を生じたときは誠意をもって互いに協議し解決するものとする。

九、甲乙は本覚書事項を誠実かつ円満に履行、解釈し、今後とも互いに親密な関係を持続して社業の発展に協力するものとする。

上記、後日のため本覚書を作成し甲乙互いに各一通宛保有する。

昭和六三年一〇月四日

東京都新宿区百人町一丁目一二番二号

甲 株式会社 富士エステートアンドプロパティ

上記代表取締役 祭主司郎<印>

乙 株式会社 カズコーポレーション

上記代表取締役 黒川和紀<印>

連帯保証人 甲オーナー

住所 渋谷区南青山一-一七-一一

氏名 杉山時矢<印>

物件目録

第一、不動産目録

一、東京都世田谷区用賀四丁目 所在

地番 三二八番一

地目 宅地

地積 一七四m2一三

二、東京都渋谷区恵比寿西一丁目 所在

地番 二四六番一三

地目 宅地

地積 三一三m2七八

三、東京都渋谷区恵比寿西一丁目二四六番地一三 所在

家屋番号 二四六番一三の一

居宅 木造瓦葺・平屋建

床面積 六三m2〇二

(以上合計売買代金 六億六千万円)

四、東京都目黒区青葉台三丁目 所在

地番 五二一番一一

地目 宅地

地積 三八〇m2三九

五、東京都目黒区青葉台三丁目五二一番地一一一 所在

家屋番号 五二一番一一一

居宅 車庫 物置、鉄筋コンクリート造銅板葺・陸屋根参階建

床面積 一階 二八五m2一三

二階 一九一m2六一

三階 一二二m2八五

(以上合計売買代金 九億二千万円)

六、東京都世田谷区北沢四丁目 所在

地番 九〇四番四

地目 宅地

地積 二六八m2二一

(代金 三億七千二二万円)

第二、抵当権目録

いずれも、債権者 日本リソース 株式会社

債務者 株式会社 カズコーポレーション

一、抵当物件前記第一の一、

昭和六三年三月三〇日設定、債権額金二億九千万円

弁済期日昭和六五年一二月二〇日、利息年六・三%

二、抵当物件前記第一の二、

昭和六三年三月三〇日設定、債権額金八億六千五百万円

弁済期日昭和六五年一二月二〇日、利息年六・三%

三、抵当物件前記第一の三、

昭和六三年三月三〇日設定、債権額金八億六千五百万円

弁済期日昭和六五年一二月二〇日、利息年六・三%

四、抵当物件前記第一の四、

昭和六三年三月三〇日設定、債権額金一四億二千万円

弁済期日昭和六五年一二月二〇日、利息年六・三%

五、抵当物件前記第一の五、

昭和六三年三月三〇日設定、債権額金一四億二千万円

弁済期日昭和六五年一二月二〇日、利息年六・三%

六、抵当物件前記第一の六、

昭和六三年三月二八日設定、債権額金四億七千万円

弁済期日昭和六五年一二月二〇日、利息年六・三%

別紙五の二(一審検察官請求証拠等関係カード甲二八添付覚書写内容)

念書

株式会社 富士エステートアンドプロパティ 御中

株式会社 カズコーポレーション

代表取締役 黒川和紀<印>

昭和六三年一〇月四日

貴社と当社間の昭和六三年一〇月四日付、覚書記載三項によって貴社が、買戻しを完了した時は、同覚書二項によって支払を受けた金額がある時は、これを貴社に返還する。

以上

別紙六の一

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13 全部事項証明書 (土地)

<省略>

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13 全部事項証明書 (土地)

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東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13 全部事項証明書 (土地)

<省略>

別紙六の二

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13-1 全部事項証明書 (建物)

<省略>

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13-1 全部事項証明書 (建物)

<省略>

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13-1 全部事項証明書 (建物)

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別紙七

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別紙八の一

東京都目黒区青葉台3丁目521-111 全部事項証明書 (土地)

<省略>

<省略>

東京都目黒区青葉台3丁目521-111 全部事項証明書 (土地)

<省略>

<省略>

東京都目黒区青葉台3丁目521-111 全部事項証明書 (土地)

<省略>

別紙八の二

東京都目黒区青葉台3丁目521-111 全部事項証明書 (建物)

<省略>

<省略>

東京都目黒区青葉台3丁目521-111 全部事項証明書 (建物)

<省略>

<省略>

東京都目黒区青葉台3丁目521-111 全部事項証明書 (建物)

<省略>

別紙九

<省略>

<省略>

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<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

平成七年(わ)第一一七八号法人税法違反被告事件

上告趣意書

被告人 株式会社富士エステートアンドプロパティ

同 堀口麗子

右の者に対する御庁平成七年(あ)第一一七八号法人税法違反被告事件について、弁護人の上告趣意は次の通りである。

平成八年一〇月二日

右弁護人 鈴木正捷

同 松田義之

最高裁判所第一小法廷 御中

目次

第一、上告理由総論(一頁)

法令違反・憲法違反・事実誤認・量定不当

第二、上告理由各論(一頁~一〇二頁)

一、法令違反(一頁~八頁)

刑事訴訟法第四一一条一項及び同法第三三八条四項違反

原判決は、本件公訴が公訴権の濫用に該当し、刑事訴訟法第四一一条一項及び同法第三三八条四項により、公訴棄却の判決を下すべきところ、これをしなかった違反がある。

二、憲法違反(八頁~三一頁)

1、憲法第一一条及び憲法第一四条第一項違反(八頁~一八頁)

原判決は、公訴権濫用を看過し、その結果憲法第一一条の基本的人権の享有を妨げ、且つ不当な差別を容認し憲法第一四条第一項の法の下の平等に違反している。

2、憲法第一三条違反(一八頁~二一頁)

原判決は、民法第一条ノ二(民法解釈の基準)に違反し且つ民法第五五五条(売買の意義)の解釈適用を誤る法令の違反を犯し、憲法一三条に違反している。

3、憲法第二五条違反(二一頁~二六頁)

原判決は、生存権、国の生存権保障義務に違反し憲法第二五条に違反している。

4、憲法第三八条二項違反(二六頁~三一頁)

原判決は、脅迫により取得された証拠を判決の基礎にしており憲法第三八条二項に違反している。

三、事実誤認(三一頁~一〇一頁)

刑事訴訟法第四一一条第三項違反

原判決は、売買について判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認がある。

四、量定不当(一〇一頁~一〇二頁)

刑事訴訟法第四一一条第二項違反

原判決は、刑の量定が甚しく不当である。

第一、上告理由総論

原判決は、刑事訴訟法第四〇五条第一項に定める憲法違反があり、又、刑事訴訟法第四一一条第一項の判決に影響を及ぼすべき法令の違反があり、同法第四一一条第二項の刑の量定が甚しく不当であり、且つ同法第四一一条三項の判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があるので破棄しなければ著しく正義に反すると認められるので、判決で破棄されるべきである。

第二、上告理由各論

一、法令違反(公訴権濫用と公訴棄却)

原判決は、判決に影響を及ぼすべき法令違反がある。

1、本件公訴は、同種事件の処理について不公平があり、起訴が不当偏頗であり、起訴猶予を相当とすべき明白な事情があるのにことさらに公訴が提起されたものであり、被告人に対する公訴の提起は、訴追の裁量を逸脱し刑事訴訟法第二四八条規定に違反し無効であるから同法第三三八条四項によりこれを棄却すべきであるのにこれをしなかったのは刑事訴訟法第四一一条一項に違反するものであり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するから破棄されるべきである。

2、本件は正に東京国税局が東京検察庁に依頼した「試験訴訟」である。

即ち、本来は法令改正により解決すべき事案であったのを、東京国税局が恣意的に意見を述べることで税金の徴収が可能となる方便を取得する為のものであったのである。

つまり、東京国税局に私人間の売買の有効無効を当事者の自由意思とは関係なく決定する権限があるか否かを裁判所に判断してもらうことにあった。

即ち、本件は国家権力が憲法で保障している私人間の契約自由の原則について、契約当事者の契約無効又は取消し等の契約関係の解消の主張がないのにこれに介入し、無効を主張できるか否かである。

3、当時の東京国税局は、バブル経済の終焉を察知していたが、バブル期において多額の利益を得てきた法人が輩出していたが、それらの法人からの税金の徴収成果は芳しくなく非常に苦慮していた。

本件では、証人である堀口容一に対し、東京国税局の取り調べ担当官の話しでは法人の健全なる会社経営の方策として、利益の一部を翌期に繰り越し決算を行っていることが多かったことから、現行の税法制度下でその繰越決算を阻止する必要に迫られていた。

即ち、東京国税局としては、法人多額の利益に比較し徴収成果が上がらなかったことから、当期利益に対する法人税を当期に徴収する意図から、何とか繰り越し決算申告を阻止することが急務となっていた。

つまり、当時は法人が多額の利益を得た場合には、子会社又は関連会社に低額で譲渡し(多くは買戻付きでの売買)、損金を計上し、利益を圧縮して申告するのが常套手段となっていることが頭痛の種であったのである。

4、東京国税局は、このような状況下で正にお誂え向きの本件に出くわしたのである。

本件を担当した東京国税局の主査は、このような申告をされては困る、この申告を認めたら税金が徴収できなくなってしまい、大変なことになってしまう。本件は圧縮金額が多き過ぎるので認められない。金額がこれまで行かなければ別である。との見解であった。

即ち、本件は「質に問題が」あるのではなく、「量が問題である」との見解であったのである。

しかしこれは、税法の執行者の法令解釈誤解であり、正にその場合には「低額譲渡」又は「寄付」等の認定により、法令上税金の回収の方途は確保されているのである。勿論修正申告又は追徴課税にて解決処理される問題である

5、東京国税局としては、「低額譲渡による行為計算の否認」や「寄付行為」等の認定によるも労力に比較し思うような成果に結びついていなかったことから、安易な簡便な方途を模索していた時期でもあったのである。

そこで、売買自体を否認し、売買が無かったとの決定権を取得できれば、安直に課税徴収が可能となることから、その権限を付与されるか否かを実験したのが本件である。

当時、本件の東京国税局の主査は、仮に裁判で負けたらそれは法の不備であるから法人税の全面改正を求めるまでである。本件はその為の試験訴訟である旨放言していたのである。

6、この様に、本件は、多額の利益を得た法人が行う常套手段であり、正に売買が有効であれば、利益の償却となり税額が減少する。

そして、この方式は、違法ではない。勿論脱税ではない。

ところが、税金の徴収側としては非常に不都合である。それと言うのも低額譲渡の行為計算の否認や寄付行為の認定は煩瑣であり、徴収の成果は殆ど期待できない状況下にあったのである。

そこで、東京国税局は、違法、違憲にも売買が無効であり損金計上を認めない、しかもこれを機に類似事件の多発を恐れ、見せしめとして脱税事犯に仕立て挙げる企図し、関係者の中から、中心人物である大塚税理士と、裁判所で売買が認定されていて売買を否認することの不可能な黒川和紀を落とさなければ裁判に勝ち目が無いと判断し、東京地方検察庁と謀議の上、右両名を脅迫と報奨とで懐柔し、虚偽の供述及び証言を取得し裁判に悪用したのである。

即ち、脅迫とは、脱税の共犯として逮捕勾留起訴する。そうすれば当分は出てこられない。黒川には法人は倒産間違いない。大塚には税理士の資格は無くなる。との言葉である。

事実、被告人は不当にも逮捕され一年の近く勾留されたのであり、同人らにとっては正に恐怖以外の何物でもない。

報奨とは、被告人らを脱税犯として逮捕したり、起訴したりしない。との約束である。

何故かと言えば、本件は、大塚税理士と被告会社との間は委任乃至請負契約又は両者の混合契約であり当事者の意思の合致が不可欠であり、被告会社と黒川との関係は双務契約でこれまた当事者の意思の合致が不可欠であり、被告会社が脱税犯であれば同右人らも当然脱税犯であるからである。

東京国税局及び東京地方検察庁が大塚及び黒川と不当な取り引きをし、同人らがその黒い取り引きに乗ったが為に、単なる「低額譲渡の事案」が「脱税事案」に変質されてしまったのである。

大塚及び黒川とは、東京国税局及び東京地方検察庁が本件を脱税事件として試験的に立件し公判を維持する為には、必要不可欠な人物であり、同人らが真実を述べたならば本件は脱税事犯として扱う事が不可能な事案であったことは明らかである。

以上の通り、本件は、元来低額譲渡が問題となるのみで、売買が有効か無効かとか脱税の意思があったか否かの問題等存在し得ない事案であったのを東京国税局及び東京地方検察庁が大塚及び黒川と不当な取り引きをし、試験的に脱税犯としてでっち上げたもので公訴権を濫用したものであり、これは本来は、問題外で起訴猶予を相当とすべき明白な事情があるのにことさらに公訴が提起されたものであり、被告人に対する公訴の提起は、訴追の裁量を逸脱し刑事訴訟法第二四八条規定に違反し無効であるから同法第三三八条四項によりこれを棄却すべきであるのにこれをしなかったのは刑事訴訟法第四一一条一項に違反するものであり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するから破棄されるべきである。

二、憲法違反

仮に本件公訴提起が、公訴棄却にあたらないものとしても、原判決には憲法の違反がある。

1、公訴権の濫用と憲法第一一条の基本的人権の侵害及び憲法第一四条一項の法の下における平等の原則違反東京国税局及び検察庁は、

(一)、麻布建物に更正処分

株売却損過大申告七七億円申告漏れ

麻布建物が、株価が大幅に下がっていたため、九五年五月期にこの株取引の売却損七七億円を過大損金と判断し、更正処分に付した。(日本経済新聞夕刊:平成八年七月一九日金曜日)

本件は、麻布建物の売却損の対象が「株式」であり、上告会社の売却損の対象が「不動産」であり、しかも双方とも過大損金との評価は全く同一である。

にも拘らず、麻布建物の代表取締役及び関係者らは、何ら刑事処分の対象とはならず、単に更正処分となっただけである。

(二) 二子山部屋三人で約三億七、九二〇万円の申告漏れ

結婚式のご祝儀一〇〇万~二〇〇万円は常識、政界もビックリのごっつあん体質

本件は、修正申告となったが、二子山親方は今回の申告漏れについて、「私の認識では(後援会からの)資産の援助が個人の所得になることが理解できませんでしたが、国税局の指摘で認識を改め修正申告しました。」と認識または理解が不十分であったとのことで脱税扱いとなっていないものである。

即ち、脱税となることの認識がなかったとの本人の意識を中心に捉えて事件処理をしているものである。(東京スポーツ新聞:平成八年七月二四日水曜日)

(三) JAF 七〇億円の申告漏れ

「社団法人 日本自動車連盟」が東京国税局の税務調査を受け、平成七年三月期までの三年間で、実に七〇億円もの申告漏れを指摘され、東京国税局が約五億円の追徴課税をした。

そもそもJAFは、収益事業を行わないかわりに、税法上、優遇措置を受けられる公益法人であるところ、やってはならない収益事業から得られた所得を申告せず、税逃れに走っていた事案であったのである。

正に、典型的な所得隠しによる脱税行為である。

しかも、脱税額も実に金七〇億円と多額であった。

ところが、東京国税局は、誰一人として脱税犯としての告発もしなかったし、又、検察庁も刑事処分を全くしていない。(週間文春:平成八年八月八日号一五九頁)

(四)、浦和地方裁判所判決

脱税共謀、不起訴は不公平(日本経済新聞:平成五年一月三〇日)

不動産取引による所得をごまかし脱税したとして、所得税法違反などに問われた事件で、元会社顧問ら二人と共謀して不動産売却をなし、過少申告をしたとされる事案で、浦和地検が会社顧問を不起訴処分とした事案では、「在宅取り調べだけで不起訴としたのは不公平だ」とされた。

因に、脱税額は金二億七、八〇〇万円である。

(五)、地上げリベート脱税、「初穂」元常務ら七人逮捕

本件は、元幹部や「税理士」など七人を所得税法、法人税法違反の疑いで逮捕した。

因に、脱税額は総額で約金一八億円である。(朝日新聞夕刊:平成二年二月五日月曜日)

(六)、第一勧銀、申告漏れ

一〇億円、追徴四億円余り、ブラックマンデー米証券現法の損補う。

本件は、米国の証券現地法人が、昭和六二年の世界的株暴落(ブラックマンデー)で大きな損失が発生。この為、第一勧業銀行本店は、同行が保有していた債権をこの現地法人に安く売却した後、再びこの価格より高値で買い取り、証券現法の損失分を埋めたという事案である。

ところが、東京国税局は、同行が「移転価格」を利用して所得の一部を現地法人に留保、課税を逃れていたとして追徴課税処分を行ったとするのみで、誰一人として刑事訴追を受けなかった。

因に、脱税額は約金一〇億円である。(日本経済新聞夕刊:平成元年九月四日月曜日)

又、第一勧銀の言分は、「国税当局との見解の相違。当初から寄付金として申請していたように、所得を隠す意図など全くなかった。」で、刑事処分はされていないものである。

被告会社としては、利益の申請のみならず、正に不動産取引については隠す意思など全くなく、全て当初から売買の事実を申請していたのであるから、所得等を隠す意図など全くなかったのである。

もし仮に、被告人らの所為が法人税法違反の罪を構成するとしても、被告人らのみを起訴処罰することは、基本的人権を保障した憲法第一一条及び法の下における平等を保障した憲法第一四条第一項に違反するものである。

憲法第一四条第一項は、人格の価値が全ての人間について平等であり、合理的な理由なくして差別されないことが、個人の尊厳に立脚する民主的な社会を確立するための不可欠の要件としているものと解されるのであり、公訴権についてもその訴追裁量が法の下の平等に反する偏頗なものであってはならないことはいうまでもない。

ところで、本件においては、主導的立場で譲渡損による譲渡益の相殺を提言し、そのための方策を助言し、しいては価格決定から売買契約書の作成等までの一連の行為を指揮し、決算・税務申告をはじめ税務処理一切を行った実行行為者である税理士大塚雄二に対しては、起訴がなされなかったことはもとより、逮捕勾留さえもなされず、その責任については、全く不問に付されている。

他面、大塚税理士に全幅の信頼をおき、同税理士の指導助言に従い、且つ同税理士に税務申告その他税務会計処理の一切を委ねた被告人堀口麗子に対しては、逮捕勾留にまで及び、被告会社と共に起訴に至り、さらにはこれに続く長期間の勾留がなされたのである。

これは、憲法第一四条第一項に違反する恣意的な不平等な事件処理であり、本件公訴の提起は、訴追裁量を著しく逸脱した違法無効な公訴権の濫用というべきである。

しかるに、第一審判決は、「・・・大塚が税理士でありながら、不正行為としての売買仮装行為等に必要な書類作りや、虚偽の確定申告書作りなど本件脱税に加担した点は非難されるべきである。・・・」としながら、「大塚と被告人、被告会社とは納税義務者であるか否かの点で基本的に立場を異にし、且つ責任の程度も違っている」として「本件起訴が憲法一四条、三一条に違反したり、起訴裁量権の範囲を脱税したり違法なものであるとはいまだ言えない。」旨判示しているのである。

又、原判決は、

「論旨は、要するに、本件において、主導的立場で譲渡損の計上による譲渡益の相殺を提言してそのための方策を助言し、さらに、価格決定から売買契約書の作成などの一連の行為を指揮し、税務処理一切を担当した大塚税理士に対しては、起訴はもとより、逮捕、勾留もされていないのに、同税理士に全幅の信頼を置いてその指導助言に従い、かつ、被告会社の税務会計処理の一切を委ねた被告人に対しては、逮捕、勾留のみならず、被告会社とともに起訴さえされているのは、憲法第一四条一項に違反する恣意的、不平等な事件処理であり、本件公訴の提起は訴追裁量を著しく逸脱した違法無効なものであって、これを認めなかった原判決は憲法第一四条一項に違反する、というのである。

なるほど、本件で、大塚税理士が果たした役割は大きく、同税理士の存在によってはじめて本件の犯行が可能になったものと認められるほか、税務の専門家として納税義務の適正な実現を図ることを氏名とする税理士法の理念を無視し、現実に報酬の支払まではなかったものの、本件脱税に手を貸すことによって相当多額の報酬を企図していたものと窺われることからすると、同税理士の責任は重大であり、この点は被告人の量刑に当たっても十分考慮されるべきである。しかしながら、被告人が本件で果たした役割は大きい上、そもそも被告会社は、本件における納税義務者であり、被告人は、その実質的経営者として、その法人税納税義務を誠実に履行すべき地位にあった者であって、これらの義務を負わない大塚税理士とは基本的な立場を異にすることが明らかである。本件公訴提起が憲法第一四条一条に違反し、訴追裁量の範囲を逸脱した違法無効なものであるとはいえない。論旨は理由がない。」旨判示している。

しかしながら、本件事実関係を見るならば、本件の如き所為は、税務の専門家が関与しなければとうてい達成できるものではなく、本件不動産売買、決算及び税務申告の全てについてこれを適法行為として教示指導し、且つ主導的立場にあって自ら実行した税務専門家である大塚税理士が全く不問に付されているのに対し、専門家の教示指導に全幅の信頼をおき、これに従っただけに過ぎない被告人堀口麗子が長期間勾留を余儀なくされたうえ被告会社とともに何故起訴されねばならないのか。その不当、不公平たるや何人の目にも明らかであると言わねばならない。

裁判例でも、浦和地方裁判所の脱税事件で、不動産取引に係った人物の一部を不起訴処分にしたのは不公平だと判示している(本項(四))。

初穂事件でも、役員が脱税であるならば、関与した税理士も同罪として逮捕起訴され、刑事処罰されているのである(本項(五))。

事実、脱税に関与した税理士は、殆ど逮捕、起訴され、刑事処罰がされているのが現実であり、正に正義に叶うものである。

このように、税理士の職責の公益性及び大塚税理士が本件において果たした立場、役割及び責任を見るならば、同税理士を起訴することなく、被告人、被告会社を起訴したことが訴追裁量を逸脱した違法無効な公訴権の濫用に該ることは明らかであり、刑事訴訟法第三三九条二項に該当し、公訴棄却すべき事案と言わねばならず、これを看過した第一審判決及び原判決には憲法第一四条第一項の解釈適用に誤りが存するものである。

2、憲法第一三条の幸福追求権の侵害

民法は第一条の二において、民法の解釈の基準を示しているが民法解釈は個人の尊厳と両性の本質的平等とを旨としてこれを解釈しなければならないとしている。民法は契約自由の原則を謳っている。

又民法第五五五条は売買の意義について「売買は当事者の一方が財産権を相手方に移転する事を約し相手方がこれに其代金を払うことを約するに因りて其効力を生ず」と規定している。

即ち諾成契約である。

つまり、売買契約書が無くても、売買代金の支払が無くても、登記の移転があろうと無かろうと、売買契約の成立について効力要件では無く何らの支障とならないことを明記しているものである。

ところが原判決は、契約書の不備や売買代金の流れを問題にし、売買契約が無効である旨の判断基準としているもので、明らかに法令解釈を過っているものであり、憲法第一三条で保障する個人の尊厳及び幸福追求の権利を侵害するものである。

第一審判決及び原判決は被告会社の株式会社富士プロジェクト、株式会社パイディアオーバーシーズ、株式会社カズコーポレーションとの間の売買についてその成立を否定した。

しかし、国家権力は、個人間・法人間または個人と法人間の私的ことがらについて介入することは許されない。

憲法第一三条は、個人が一定の私的ことがらについて、公権力に干渉されることなくみずから決定する権利ないし自由を有するとするものであり、個人の自由な決定や行動を保障している。

即ち、憲法第一三条は、何人も健康に生活する健康権・平和的生存権ないし自己決定権を保障している。

本件は、関係当事者らは、殊に大塚税理士も黒川和紀も売買であることを全く疑うことなく信じていたものであるが、東京国税局の「指導ないし要望・否、脅迫」に屈服し、ある日から突如、売買ではないかの如き供述ないし法廷での証言をするに至った。

右事実は、国家権力の不当な介入権の行使であり、本条に違反する違憲行為である。

私人間の物の売買は、契約自由の原則があり、取引の内容、形態は法令の範囲内では自由であり、当事者がその無効、不存在を主張していないのに横槍りを入れて、無効だ違法だとする権利は存在しない。

第一審判決及び原判決は、憲法第一三条で保障する自己決定権を侵害する違法な解釈であると言わざるを得ない。

よって、破棄されるべきである。

3、憲法第二五条の生存権、国の生存権保障の義務違反

(一)、「買取機構の取引」と「被告会社の不動産取引」の差別と違憲性

不動産買取機構は、

<1>、主な取引銀行が資本金一、〇〇〇万円を出し合い特別目的会社を設立する。

<2>、各行が同社に債権を割引価格で現物出資する。

<3>、特別目的会社は、買い取った債権の金利を配当として持ち込んだ銀行に支払う。

<4>、銀行は売却損を損金として処理する。

ことを目的とする会社である。

本件は、正に、潜在的含み損を売買の形式で具現化乃至は顕出するための方式であり、被告会社の取引先は、既存の会社であったのに、銀行が行なった買取機構は、不動産を安く買い取るためにのみ設立される「特別目的会社」である点である。

即ち、潜在的な不動産の含み損を売買により顕在化させ、それを損金として処理し、既存の利益でもってその損害を償却する方法は決して違法ではないとする法制度である。

当期利益を有する銀行が、利益償却を目的として含み損のある担保不動産を低額で買い取らせる目的で法人を設立し、その設立した法人に当期見込み利益相当の低額で買い取らせ、損金を顕在化させ税務上損金として計上することを認め、右損金でもって利益を償却することを、又は既存の利益で当期に発生した損金を消すことを認めているという方式である。

しかも、右処分価格については、担保権者である銀行と買取側の法人とが国税庁又は税務署に取引価格について事前に伺いを立てるという念の入れようであり、国税庁は税務署の事前承認(黙認)を得て決定するというもので、当事者間に自由な売買の意思など到底認められるものではないが、有効な売買と扱っているのである。

(二)、被告会社は、銀行業を目的とする法人ではないが、不動産取引を目的とする法人である。

しかも、被告人は、当期に利益があったこと、含み損のあった不動産を他法人に売却し、含み損金が顕在化した損金分を税務申告上損金に計上し、結果として既存利益分で当期の損金を埋め合わせしたのである。

このように、被告会社のとった不動産取引による税務処理と銀行が利用する不動産買取機構を使っての税務処理とは全く差異はなく、むしろ銀行が利用する買取機構を利用する損金の計上の方が、利益償却をするための受け皿の法人を「特別」に設立してまでして損金処理を認めるというものである。

このように、銀行業を目的とする法人の利益償却を目的とする損金計上取引及び申告が脱税でないとする以上、不動産業を目的とする法人が、仮に、利益償却を目的とする損金計上取引及び申告が行なわれたとしても、その取引も脱税ではないというべきである。

正に、不動産取引に係っての多くの法人が陥った経済的危機であり、その脱出方法における損金処理方式であり、その主体が「銀行」であろうが「不動産会社」であろうが差別する合理的理由はない。

(三) 本件では被告会社も被告人も「所得」や「利益」を「隠した」という事実は全くない。

利益はありのまま、損害もありのままであり、「脱税」する意思など全くなかった事案である。

法人が健全経営、即ち、資産と負債との均衡を取るべく財産の売却又は取得を行なうことは当然の事態であり、憲法で保障された基本的人権の幸福追求の権利の一つであると言える。

即ち、法人又は法人代表者は、会社財産の負の要因を取り除くべく最前を尽くし、会社財産を守る権利を保障されていると言える。

(四)、ところで本件は、<1>、当期利益があったこと。<2>、反面、法人所得不動産は既に資産価値が下落し、更に近い将来においては、更なる大きな損失が見込まれていたこと。<3>、被告会社及び代表者としては、早期に含み損を顕在化させ、資産との調整をする必要に迫られていたことから、見込み含み損分を控除した代金での売買を実行したものであること。<4>、右売却処分で発生顕在化した損金を計上した結果、利益償却がなされた事案である。

(五) ところが、第一審判決及び原判決とも、被告会社の行為を脱税と判断したのであり、右事実は法人間の不当な差別であり、憲法第一一条の基本的人権の享有を侵害し、且つ、憲法第一四条の法の下の平等に違反するものと断ぜさるを得ない。

4、憲法第三八条二項違反

憲法第三八条二項は、強制・拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く勾留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができないとされている。

ところで、第一審判決及び原判決も、いずれも税理士である大塚雄二及び取引先である黒川和紀の証言を中心に本件不動産売買の成立を否定し、且つ、脱税の故意の存在を認定している。

殊に、脱税の故意の存否については大塚雄二の証言が、又、売買については黒川和紀の証言が決定的証拠となっている。

しかし、大塚雄二は、被告人らが脱税であるとして刑事処罰されるならば、売買が双務契約であることから、共謀共同正犯とならざるを得ず、当然同罪とならなければならない立場にあるが、それが全く不問との事実は、正に被告人らが有罪となるよう捜査に協力し、且つ、公判でも協力すること、即ち、協力しなければ同罪として刑事処分に付するが、協力すれば不問扱いにする旨の脅迫の下供述し、且つ、法廷で証言しているものであり、又、黒川和紀も、売買について否定しなければ共犯として刑事処分に付するが、協力すれば不問に付する旨脅迫されての供述及び法廷での証言である。

何故ならば、本件不動産取引の主役である大塚税理士及び被告会社との取引先の代表取締役である黒川和紀らが合意の下、又、協議の下に行なった取引が、一方の者は犯罪者で一方の者が問題外とのことは本来あり得ないことである。

大塚雄二及び黒川和紀が刑事処分に該当しないとのことは、被告人らも当然刑事処分に該当しないとするのが正義であり平等である。

ところが、本件は東京国税局及び東京検察庁と大塚雄二及び黒川和紀らが、「取引により」事実が著しく歪曲され被告会社と被告人が脱税犯としての犯罪人が作り上げられたものである。

このような、東京国税局及び東京地方検察庁の行為は、憲法第三八条に言う大塚雄二及び黒川和紀を脅迫して証言させているものとの評価ができ、本条違反となるので、本来証拠とすることができないものである。

ところが、第一審判決及び原判決は、同人らの法廷での証言を下に判決を下したものであり、憲法第三八条に違反していると言わざるを得ない。

しからば、他の証拠によれば、被告人らを有罪とするに足りる証拠は何処にも存在しないのであるから、被告人らも大塚税理士や株式会社カズコーポレーション及び黒川和紀と同様に刑事処罰を受ける理由はなく無罪である。

本件被告人らの行為は、可罰的違法性がなく、本件起訴と公訴提起の裁量の範囲を逸脱し違法な公訴提起であり、刑事訴訟法第二四八条の規定に違反し無効であるから、同法第三三八条四号により棄却されるべき事案であったのであるから、本鈴、大塚雄二、株式会社カズコーポレーション及び黒川和紀等と同様、被告人らに対しても公訴の提起をすべきでなかった事案である。

ところが、同人らを全く不問とし、被告人らのみに対して公訴提起した本件は、正に憲法第一四条に抵触する違法な行為である。

本件被告人らの行為は、大塚雄二を始め関係当事者らと同様、期待可能性がなかったのであるから、大塚雄二らと同様に不問に付されるべき事案であったのである。

即ち、国家から脱問題の専門家ですら期待可能性がないのに、税務専門家でない素人に期待可能性があるとするのは常識外であり、本件では、専門家であったので期待可能性があったというのならいざ知らず、専門家が合法であると確信し、その旨説明し、それを了承した素人が違法であることの認識することにつき期待可能性があったとするのは、全く恣意的な判断であり違憲な解釈である。

本件は、関係当事者らが違法でないとの認識のもと、合議のうえ実行されたものであり、関係当事者は同一扱いされる筈であり、大塚税理士及び黒川和紀の行為が全く不問で、これが可罰的違法性がない、又は、期待可能性がないとするのであるから、被告人らも同様な扱いを受ける権利が憲法で保障されているというべきである。

本件税務申告方式の発想・実行を担当した税理士大塚雄二が全く不問である本件は、元来、事案自体に可罰的違法性が無かった証拠である。

正に、不動産買取機構の特別目的法人の取引が違法でないとする現行法制度下においては、本件被告人の取引は、同様に可罰的違法性がなかったからと認められる。

これを一方は合法、一方は違法との扱いは、全く合理的な理由はなく、憲法第一四条の法の下の平等に違反するものである。

ところが、本件は、共同行為者でありながら、共同行為者の当事者の一方のみが違法だとするのは、全く不平等な処分と断ぜざるを得ない。

第一審判決及び原判決は、いずれも専門家にとって違法性の認識につき欠落していたにも拘らず、素人で合法・違法の判断が出来なく、その為、専門家に相談したところ、専門分野における素人に違法性の認識があったとするものであり、憲法第二四条の個人尊厳を侵害する恣意的な違憲な判断である。

三、事実誤認

原判決は、本件売買が「架空譲渡」で無効と判示し、その結果、右取引により発生した損金を計上したのは脱税であるとしたもので、右事実誤認は、判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があるので、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められるので、原判決は破棄されるべきである。

第一審判決も原判決も、低額譲渡についての認識に誤解がある。

第一審判決も原判決も、売買価格が低額であることを仮装譲渡の根拠として、あたかも、低額譲渡が違法であるかの如き間違った前提又は認識で判断している。

現行税法は、個人が著しく低い価格で資産を譲渡した場合には、その時における価額に相当する金額によりこれらの資産の譲渡があったものとみなして、山林所得、譲渡所得、雑所得の金額を計算することとし(所得五九条一項)、また、内国法人が資産の譲渡をした場合において、その譲渡の対価が当該資産の譲渡のときに置ける価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は寄付金の額に含まれるものとして取扱われることとなっている(法人三七条六項)。

この基本的な考え方は、資産が譲渡された場合には、譲渡の対価がいかほどであるとかは関係がなく、その資産は時価までの経済的価値を有するものとして機能しており、時価までの値上りという形で発生している資産利益を、その所有者の支配から離れる際に清算課税しようとするものである。

即ち、移転という事実を契機として当該資産の評価益の実現を認めたもので、譲渡人の側においては時価と取得原価との差額に相当する利益を享受(課税所得を構成)し、譲受人の側においては時価相当額の資産を取得(他に譲渡したときの取得価額となる)したと見られる。これはまた、その資産を一旦時価で他に売却(所得が実現)し、而して、当該収入金額を贈与する場合と税負担が同一でなくてはならないことからも論ぜられる。

即ち、大阪地方裁判所昭和四五年九月二五日判決によっても、低額譲渡に対する課税は租税法律主義に反しないとして、「所得税は、ある特定の個人について、一定期間内に発生した経済的利益であるところの所得に着目して、当該個人に対して賦課されるのであるが、経済的利益といっても、資産の評価益などのように未だ実現されていないものについては、これを一年ごとに査定して所得として把握した上、これに対して課税をするということは技術的に多くの困難を伴うので、資産が他に譲渡されることなく、単にその値上りによる評価益が生じているにすぎない場合には、これに対しては課税しないこととし、そのかわりに、資産が売却その他の事由により他に譲渡されて、現金その他の物に換価され、譲渡時までに蓄積されてきた当該資産の値上り等の増加益である、未実現の経済的利益が顕現した場合には、この蓄積されてきた経済的利益を譲渡時におけるその年分の所得として認識把握したうえ、課税の清算を行なうことにしているのであって、これが譲渡所得における基本的な課税原理である(旧所得税法九条一項八号、新法三三条)。譲渡所得に対する法律の建前がこのようなものであるとすると、譲渡所得として課税をなすためには、資産の値上り等による増加益が現金その他の物に換価されること、換言すれば、正当な対価を得てなされる資産の有償譲渡であることが必ず必要であるように思えるのである。

しかし、譲渡所得に対する課税を、正当な対価を得てなされる資産の有償譲渡の場合に限定するとすれば、対価を全く得ないでなされる無償譲渡の場合(遺贈または贈与の場合)とか、あるいは正当な対価を得ないでなされる有償譲渡の場合(低額譲渡の場合)には、譲渡者に対して譲渡所得としての課税を全くなし得なくなる場合も生ずることになるが、これでは、未実現であるとはいえ、譲渡時までに資産の値上り益という形で発生していた経済的利益を譲渡者の自由な処分に委ねてしまうことになり、その結果、資産の値上り益を一年ごとに把握して課税するのは困難であるという技術的理由によって、課税が遷延していたにすぎないのに、本来なら未実現の経済的利益が顕現すべきはずの資産の譲渡によって、かえって、譲渡者の意思によりついに譲渡所得としての課税を全くなし得なくなる場合も生ずるということになるばかりか、このような事態を放置するとすれば、租税の回避を誘発することも考えられるのである。そこで、法律は租税公平負担の見地に立って、このような事態に対処するため、遺贈(包括遺贈及び相続人に対する遺贈を除く)により、資産の移転があった場合(無償譲渡の場合)においては、遺贈または贈与のときにおいて、そのときの価額により資産の譲渡があったものとみなして譲渡所得を算出することとし(旧所得税法五条の二第一項)、また、著しく低い価額の対価で資産の譲渡があった場合(低額譲渡の場合)においては、その譲渡のときにおける価額により、当該資産の譲渡があったものとみなして譲渡所得を算出することとなる(同条二項)という特別の規定を設け、更に、右にいう著しく低い価額というのは、資産の譲渡のときにおける価額の二分の一に満たない価額とする(旧所得税法施行規則二条)としているのである(新法においても、同趣旨の規定が所得税法五九条、同法施行令一六九条にある)。」と判示し、低額譲渡は有効であり、単に課税上の問題にすぎないとしている。

右のとおり、低額譲渡は何ら違法・不法な行為ではなく、現行法上、是認される売買であることを、第一審判決も原判決も看過ごし誤った結論を導いているのである。

1、仮装行為について

原判決は、本件譲渡行為について、「本件譲渡に関与したその余の者らの各供述、特に、大塚雄二の原審及び当審各証言、黒川和紀の原審証言、杉山時矢、栗林久枝、浅沼文雄、楠本敦司の検察官に対する各供述調書等によれば、本件譲渡が仮装されたものであることは明らかであり、この点は、以下のとおり認定することができる本件譲渡に至る経緯、その内容及び譲渡後の状況等の客観的事実に照らしても、疑いがない。本件譲渡が真実の売買であると認識していたなどとする被告人の一連の供述及び前示佐々木らの証言は信用することができない。」と判示している。

しかしながら、原判決は、本件譲渡行為が仮装であったことを独善的に断定し、関連証拠を援用し結論を認定しているものであって、重大な事実を誤認しているものといえる。

以下、本件譲渡の実態について詳細に述べる。

(一)、売買は同族会社間はもとより、その他経済的実体的に同一視される者同士の間でも有効になされ得る。

それは、売買は、ただ単に純然たる第三者間においてのみ有効になされ在るものではなく、同族会社間は勿論のことあるいは一人株主とその会社との間あるいはその他経済的実体的には同一と認められる者同士の間においてさえも有効になされ得るということである。

これは、現行私法制度における法人格の独立性から当然導き出せる原則であるが、同族会社間その他密接ないし特殊な関係にある者の間における売買についても、あくまでも右原則が貫徹されるのであり、単に代表者が同一人であるとか株主が同じであるとかいう理由によって、売買がなされ得ないとかあるいは売買は存しないなどとなすことはできないことはもとよりである。

このことは余りに当然の事理ではあるが、本件をみるにあたっては、この際改めて認識する必要が存するものである。

代表者が同一人である同族会社間の場合であろうと、一人株主とその会社との間の場合であろうと、当該代表者本人(あるいは一人株主本人)において真実売買をなす意思が存し、そして右意思を外部から認識し得る外形ないし外観(登記、売買代金授受、売買契約書等)が存しさえすればその売買が有効と認められることはもとよりである。

(二)、法人税法においては、第一の前提事実で述べたとおり、関連会社間の低額取引については、これを有効と認めた上で、ただ課税の公平上の見地から特別に規制する場合があるにすぎない。

次に、現行法人税の構造は、かかる私法上の法人格を前提として、個別の法人を一個の納税義務者として捉えているものであって、特別の規定の存しない限り、右基本的な性格には何ら変わりがないということである。

従って、関連会社間における所得振替についても、これを規制する規定が存しない限り、法人税法上は有効と認められることは言うまでもない。

このうち、特に関連会社間の高額・低額取引の課税をめぐっては、周知のとおり様々な解釈論が存するが、いずれの見解によるにせよ、私法上の法人格の独立存在を前提とし、個別の法人間における取引-売買が有効になされることを当然の前提とし、ただ実質課税の原則あるいは課税の公平上の見地からこれに対する法人税法上の諸規定の適用(同族会社間の行為計算の否認等)が問題とされるものなのであって、従って、代表者が同一人だから売買は存しないとか、租税節減の目的だから売買は認められないことなどは、法人税法の全く予定していないところである。

(三)、本件売買は、その売買の経緯・理由よりして、例え低額にもせよ現実になされたものである。

このように見るとき、被告会社富士プロジェクト他二社間における本件不動産の売買が、例え低額にもせよ実際になされたものであることは疑いを容れないところである。

確かに、右不動産の売買については、取得価額以下での売買という点において税法上低額譲渡の問題が存することは事実であり、又、買主三社においても買受ける目的なり経緯なりにそれぞれ個々の異なる事情が存したことは認められるところである。

しかしながら、売主としての被告会社と買主である三社の個々の物件について、売買の理由及び必要性につき厳密な検討を加えることもせず、単に被告会社が譲渡損を出し、これは利益を消すためであるから、売買は認められないとなすことなど、到底、許されないことであることは言うまでもない。

(四)、被告会社所有の土地建物の売却に至った理由について

(1)、被告人堀口麗子は、昭和四五年頃宅地建物取引主任者の資格を取り、その頃から本格的に不動産取引の業を専門的に始め、昭和五〇年六月頃友人である園部一豊と株式会社マックホームズを設立した後、昭和五四年五月頃に被告会社である株式会社富士エステートアンドプロパティ(以下「被告会社」という。)を設立し、右被告会社において不動産の売買・仲介・賃貸及び管理業務等を業として営業してきた。

(2)、被告会社は、昭和六一年当時までは赤字会社(但し、対金融機関対策上、決算期上の僅少な黒字会社としてある。)であったが、昭和六一年から昭和六二年前半頃までの空前な不動産ブームの波に乗り、東京都千代田区一番町の不動産や横浜の山手町の不動産売買により、昭和六三年三月末の決算期において約金五〇億の譲渡利益がみこまれた。

しかしながら、昭和六二年八月頃に一〇〇平方メートル以上の土地売買につき関係官庁への届出が義務づけられるような国土利用計画法の改正があった。右国土利用計画法は、高騰化した不動産の価格を押えるべく改正されたため、被告人及び被告会社としても今後は不動産の価格が下落していくことを予測していたところ、昭和六二年夏頃から現実に不動産の価格が下落しているため、その対策を講ずることを考え始めていた。

(3)、当時被告会社としては、不動産購入費の融資等は数社の金融機関から借入れをしていたが、被告人の友人である佐々木秀男がファイナンス会社である日本リソース株式会社を設立したこともあって、これも将来の布石として右日本リソース株式会社を育て上げ、被告会社の金融の道を開くべく、これまで数社からの借入れを日本リソース株式会社へ一本化することとした。

(4)、被告人は昭和六二年九月頃、不動産業はもう完全に時流から外れたと考え、将来の会社の経営方針としては美術品関係とか海外の観光事業とかビル賃貸業をしていこうと考えていたが、被告会社の所有物件中、円山町のラブホテルは大変古く収益が悪く、売る以外にない物件であったところ、風営法の関係で会社ごとでなければ売ることができなかった。

そこで、同族会社である株式会社富士プロジェクトが、昭和六二年一一月二二日に千代田区九段南二丁目に鉄骨鉄筋コンクリート造石板葺地下一階付六階建で新築したこともあり、被告会社所有の不動産中、円山町のラブホテルを除いた物件全部を富士プロジェクトに売買にて移そうと考えていた。(被告人の検面調書及び当公判廷における供述)

従って、被告人は当初より、被告会社の物件を株式会社富士プロジェクトへ移転しようと考えていたのである。

(5)、被告人は、かねてから被告会社の手持ち不動産(在庫商品)をテナント料や賃料を生み出す資産と売却益のみ期待しうる商品とに分別し、資産については被告会社が保有し、商品については売却しようと考えたが、前述の通りたまたま右手持ち不動産中に渋谷区円山町にある風俗営業にかかるラブホテルがあり、右物件を売却するためには被告会社を会社ごと売却するしか方法がなかったため、右ラブホテルを除いた資産については被告会社の同族会社である株式会社富士プロジェクトに移転しようとし、その際に昭和六一年当時、成城土地建物株式会社が盛岡の物件を簿価より安く購入したことを思い出し、同様に譲渡利益のあるうちに同族会社たる株式会社富士プロジェクトへ低額譲渡ができないものかと考えるようになった。

被告人がかく考えるについては、被告人がその頃関与した盛岡の土地の売買が、売主である大手不動産会社が当期多額の利益が見込まれていたためと在庫商品の処分のために、その所有土地を廉価で売却した事例からであって、もしかかる処理が被告会社と富士プロジェクトとの間で行うことができるとすれば、既に値下がりをし、あるいは値下がり必至と予想される被告会社所有の土地建物を低額譲渡することによって、一方前述のごとき要求を充たすことができると共に、他方被告会社の課税額も減縮させることも可能となるものと考えたものである。

(6)、そこで、被告人としては、昭和六三年初め頃、被告会社の顧問税理士である浅沼文雄に対し、右の点につき相談をしたところ、同税理士からは「同族会社間の売買は認められない」「安く売っては勿体ない」この意見が出された。

(7)、しかしながら、被告人としては、かねてより浅沼税理士の謙虚な人柄から被告会社の決算等を委ねていたが、同税理士の税務上の知識、力量についてはさして重きを置かなかったため、より高度の識見と能力とを有する専門家、特に不動産の税務に詳しい税理士の意見を聞こうと考え、昭和六三年二月頃、知人且つ融資元の社長で公私共に相談相手である日本リソースの佐々木秀男に前述のごとき同族会社間の低額譲渡について相談できる有能練達な税理士を紹介してもらうよう依頼したものである。

(尚、この点については、浅沼税理士はもともと資産税法に疎く、自身当公判廷で「能力がないから、あまり資産税、時間ばかりかかって・・・なかなか資産税というのは相当詳しくないと今税法も変わってばかりいますから、やっぱりそういう専門の方いるんです。」と証言し自分の方から「有能な税理士がいたら捜して」と頼んでいた程である。被告人が浅沼文雄に譲渡損と譲渡益の相殺する方法を相談しても、右のように浅沼文雄自身、処理につき自信がなければ、被告人として別の専門家に相談してみようということになることも、又当然と言えよう。)

(8)、昭和六三年三月一〇日頃、佐々木より被告人に対し、相談する問題について適当な税理士が見つかったので紹介するとのことで、同年同月一一日頃、渋谷のホテル「サンルート」地下日本料理店で、被告人は佐々木より大塚税理士を紹介されたが、既に大塚税理士は佐々木より相談する内容を聞かされており、被告人より被告会社の決算申告について宜しくお願いする旨依頼したところ、同税理士より進んで引き受ける旨応諾したものである。

2、売却先の会社の状況、売却先決定の経緯及びその交渉等について

(一)、原判決は、「富士プロジェクトは、昭和五四年五月に設立された不動産の売買、仲介、賃貸及び管理並びにコンサルタント業務等を目的とする資本金一〇〇〇万円の株式会社であり(設立時の商号は株式会社ハルク。その後、昭和六〇年五月株式会社富士ランドプロジェクトに、昭和六二年一一月現商号にそれぞれ変更)、被告人が代表取締役についているが、昭和六三年三月当時、格別の営業活動をせず、法人税の確定申告もしないまま存続していたものであり、本店所在地である東京都千代田区九段南の同社名義で保存登記をしたビルに社名を記した看板を揚げてはいたものの、従業員はおらず、実質的な事務所もない状態であった。」と主張する。

しかしながら、株式会社富士プロジェクトは、昭和五四年五月被告人が設立し、不動産の売買・仲介・賃貸及び管理業務並びにコンサルタント業務等を目的とする会社であって、被告人堀口が代表取締役に就任しているが、被告会社とは全く別個の独立主体である。

又、株式会社富士プロジェクトは、昭和六二年一一月二二日時点で千代田区九段に鉄骨・鉄筋コンクリート六階造のビルを新築している。(弁第六号証)

少なくとも、右新築期日の半年から一年前に請負契約等を締結し資金手当等を富士プロジェクトがしていることは疑いのないことである。しかも、右新築過程で「株式会社富士プロジェクト」の看板を設置しているのである。(弁第五号証)

かように、株式会社富士プロジェクトは昭和六二年当時、厳然たる事実として存在していたものであり、全く活動もしていないペーパーカンパニーではないのである。

原判決は、富士プロジェクトが昭和六二年一一月二二日時点で千代田区九段に六階建の鉄骨・鉄筋コンクリートの新築ビルを建築し、活動状況に入っていることを看過し、実質的活動をしていない会社であると断じたこと自体、重大な事実誤認である。

(二)、次に、株式会社パイディアオーバーシーズについてであるが、原判決は、「パイディアオーバーシーズは、昭和六二年八月に被告会社に入社した楠本敦司(以下「楠本」という。)によって昭和五七年九月に設立された海運業並びに不動産の売買、仲介、賃貸及び管理業務等を目的とする資本金三〇〇万円の株式会社であり、設立以来楠本が代表取締役に就いているが、昭和六二年春からまったく営業活動をしておらず、昭和六三年三月当時は従業員も事務所もない状態であった。」としている。

しかしながら、株式会社パイディアオーバーシーズは、楠本敦司が昭和五七年九月に海運業・不動産売買・仲介・賃貸及び管理業務等を目的として設立されたものであるが、被告人堀口は昭和六三年三月に至るまで全く知らなかった会社であり、当然その役員構成にも株主構成にも、被告人堀口又は被告会社は全く関与していない別法人である。

株式会社パイディアオーバーシーズが実質的活動をしていたのは昭和六二年春頃までであるが、それ以後、代表取締役である楠本敦司はその活動を停止していただけであって、何年間も活動停止にある休眠会社とはその評価を異にするのである。だからこそ、被告人らが売却先を探しているとき、会社そのものが存在し活動できるからこそ右楠本から株式会社パイディアオーバーシーズの名前が出たのであって、昭和六三年当時においても営業活動をしうる実体のある現存する、しかも、いつでも経済活動のできる状態にある会社である。

加えて、被告人堀口又は被告会社が右株式会社パイディアオーバーシーズの買収をしたり、その株式を取得した事実もないのであり、本件不動産売買等の全ては右株式会社パイディアオーバーシーズの代表取締役楠本敦司の同意のうえになされているのである。

(三)、更に、原判決は、株式会社カズコーポレーションについて、「黒川は、同月二〇日過ぎころ、被告人の意を受けた杉山から、青葉台、代官山、用賀及び北沢の各物件について、『金の方はすべて用意するから三か月くらい待った形にしてくれ。名義を貸してくれ。』と頼まれてこれを承諾したが、その際、各物件の所有者、地積、面積等の詳細やそれぞれの具体的な代金額を知らされておらず、同月二八日ころ、所有権移転登記手続等のため、日本リソースの事務所に赴き、持参した代表者印や印鑑登録証明書等の必要書類を杉山に交付したにとどまる。その後作成された各売買契約書についても、その内容の決定にまったく関与していない。」としている。

しかしながら、株式会社カズコーポレーションは、被告会社とは非同族・非関係会社である会社であって、

<1>、当初、被告会社の不動産の譲渡について、被告人は同族会社である株式会社富士プロジェクト一社にするつもりであった。しかるに、後述の通り大塚雄二税理士より、売り先は株式会社富士プロジェクトのみならず、その他二~三の会社へ売却するように、しかも買い受け会社は赤字会社ではなく、且つ決算をしている会社を探してくれるように指示された。そこで杉山時矢と親交のあった黒川和紀が代表取締役をしている株式会社カズコーポレーションへ話を持っていったのであり、株式会社カズコーポレーションは被告会社とは同族性も関連性も全くない、全く関係のない別法人である。

<2>、杉山時矢は右代表取締役黒川和紀に対し、青葉台外三筆の不動産について、最初、物件を買ってもらいたいという依頼をしているのである。(黒川紀和の証言)買う程のお金がないと黒川が言うと、その後、不動産を抱いてくれとの依頼があったとのことである。

即ち、杉山の話は当初から売買の話であり、仮装譲渡の話ではなかったし、抱いてくれという話も不動産業界ではよくある話で、「抱かせる」とは抱かせた側が資金調達から売買先の斡旋まで全てをして、そこから生じた利益を所有者となった抱いた側と分けあうような形態を総称するが、抱いた会社である株式会社カズコーポレーションが所有者であることは間違いのないことであり、若し儲かるようなら協力し、儲からないようなら協力要請を無視する自由意思は株式会社カズコーポレーションにもあったのである。

<3>、株式会社カズコーポレーションの代表取締役黒川和紀は、昭和六三年三月二九日、株式会社日本リソースにおいて自ら融資関係等の書類に記名押印したうえ移転登記申請の依頼までしている。

又、関連会社株式会社マックホームズに国税庁の査察が入るや、被告会社へ覚書を持ち込んできた。(検察官に対する黒川和紀の検面調書添付の覚書)

右覚書には、売買契約を前提としての事後処理を規定した、特に三項には被告会社が買い戻す旨の特約を明記しているのである。

加えて、株式会社カズコーポレーションが国税庁から査察を受けた昭和六三年一〇月一二日から、五~六回国税庁より事情聴取された際も売買であると主張していたのである。

<4>、株式会社カズコーポレーションと被告会社から買い受けた代官山の宅地については、東京地方裁判所で当事者間での売買の事実も認定されている。

右の通り、原判決が認定している、「持参した代表者印や印鑑証明書等の必要書類を杉山に交付したにとどまる。」ものではなく、積極的に自ら記名押印しているもので、原判決には重大な事実誤認があるものである。

3、原判決は、(1)、売却の時期、(2)、売買代金額決定の経緯及びその内容、(3)、売買契約書の作成状況、(4)、登記手続の状況、(5)、代金決済の状況及び超過融資分還流等について、本件譲渡が仮装譲渡である旨判決する。

しかしながら、原判決が独善的・断定的に仮装譲渡だと考えているがため、関係証拠を正しく判断し評価していないのであって、右事由は見方を変えれば実質売買の証拠ともなり得るのである。

即ち、

(一)、売買の時期について

原判決は、「本件譲渡は、被告会社の決算期が切迫していた昭和六三年三月中旬ころから、同月末までの間に、急遽、決定され、実行されたものである。その中には、国土利用計画法上の届出を要する土地取引に当たるものもあったが、届出から不勧告通知がされるまで二週間程度を要すると見込まれたことから時間的余裕がなく、結局、届出をしないこととされた。そして、本件譲渡により昭和六三年三月期の利益にほぼ見合う前示の四六億四九〇〇万円余の売却損を出している。このように、多数かつ多額の本件物件を一括して、この時期に、しかも極めて短期間の内に、その期の利益に見合う売却損を出してまで他に譲渡しなければならなかった合理的な理由としては、被告会社の税金対策の外に想定できるものがない。」としている。

しかしながら、資産税法に詳しいとの大塚税理士に依頼したのが昭和六三年三月一〇日頃のことであり、三月一六日日本リソースにおいて大塚税理士らと会合をもったもので、右会合は、殆ど大塚税理士の主導の下に進行し、大塚税理士より「被告会社の土地建物を他へ安く売って譲渡損を出し利益を消すためには、富士エステートと富士プロジェクトは同族会社だから譲渡損を出す以上、土地建物の全部を富士プロジェクトに売るのではなく、他の会社にも分けて売る必要がある。」旨説明があり、「このようにすれば税法上問題はない」と明言した。

更に、大塚税理士より「(売買物件の価額が)安かった、高かったは税務署との話し合いだから、それは私の方が責任をもって、これから今後もやってあげますから、もし安ければ修正すればいいんだから。」との説明がなされたのであった。

右のような大塚税理士の提案に基づいて、売り先としては株式会社富士プロジェクトの他、株式会社パイディアオーバーシーズと株式会社カズコーポレーション二社が決定されたのである。

しかして、以後の被告会社と株式会社富士プロジェクト、株式会社パイディアオーバーシーズ及び株式会社カズコーポレーションの三社との間の被告会社所有土地建物の売買契約については、売買金額については、その専門の杉山時矢の助言に従い、その他の内容については、全て大塚税理士が被告会社より任され、自らの判断で決定して締結に至ったものである。

被告会社が、昭和六三年三月末日までの間に右売却等をする必要性があったのは、右大塚税理士の主導による低額譲渡が売却益のある間にしなければ、全く意味のなくなるものであるからであって、短期間に売却したことのみで、仮装譲渡というものではないことは言を待つまでもない。

又、国土法に基づく届出がないからといっても、確立した判決によれば、右届出のない売買も私法上有効であることは言を待たず、届出がないゆえに仮装とはいえないのである。

仮装譲渡をするつもりであれば、国土法であれその他の法律であり、形式上は法令に適合した形を採るのが通常であって、本件譲渡行為の如き形態を採らないものである。

(二)、売買代金額の決定の経緯及びその内容について

原判決は、「次に、売却の経緯をみると、同月半ば過ぎころ、杉山は、被告人から、合計五〇億円の売却損が出るように在庫不動産の売価をセットするよう指示を受け、被告会社所有不動産の物件リストに基づき、各物件の特性を加味しながらも、合計五〇億〇九〇〇円の原価割れになるように売却物件の選別及びそれぞれの一応の値付けをした。以後これをたたき台として、物件の選別及び価格の決定等が進められた。」「本件物件の売買価格は、既存の債権者が期限前弁済及び抵当権の消滅に応じてくれる八つの物件については、所有権移転登記手続がされた同月末ころまでに、前示の杉山案を基に各物件の鑑定評価額、既存の抵当権の被担保債権残額及び貸付可能額等を考慮して決定されたものの、残る七つの物件については、未定であり、大塚税理士によって、前示すの八つの物件の売上の計上を前提にして被告会社の決算の状況と調整しながら、被告会社の法人税確定申告期限の直前である同年五月二六日に至ってようやく決定された。その内容は売上原価の二〇ないし三〇パーセントの範囲内で一定の割合分を差し引くという方法によるものであった。」「本件物件の各代金額は、いずれも売上原価(簿価)を下回っており、かつ、山一総合ファイナンス株式会社(以下「山一ファイナンス」という。)が不動産鑑定士に依頼して得た、久米川及び西新宿物件を除く一三の物件の各鑑定評価額で、売上原価以下であった六つの物件についても、これに満たないものであった。」「さらに、右の一三の物件の鑑定評価額の合計額は一六七億六一〇〇万円であり、その譲渡の代金の合計額は七九億九三五〇万円であって、その差額は八七億六七五〇万円に達している。」とし、売買代金額の決定の経緯内容が不自然である旨を理由としている。

しかしながら、本件不動産の売買代金については、被告人は、適正価格の設定を求めるべく営業最前線におり不動産のスペシャリストである杉山時矢を厚く信頼し依頼したところ、杉山時矢は「再販価格」をもって売買価格を算出しているのである。即ち、杉山時矢は「当時、値段が下がっていたので簿価の中でそれを上回って売っていくということは非常に難しく、買った先が利益を上げることにするとスーパー重課の関係から、二年間は売却できず保有しなければならないので、二年間の保有期間とそれから金利と諸々の費用を足し、あと利益が出るように計算するとかなり安くしないと売れないことを基礎として価格を決定した。」旨一審の公判廷で証言している。

被告人としては、本件不動産の売買価格について、ただ単に売却利益を消す目的であれば、不動産取引のプロたる杉山時矢に価格決定を委ねる必要はなく、単に利益と簿価価値とを比べて価格設定をすればよかった筈である。

又、価格設定については杉山時矢が証言しているとおり、買い受け会社が二年間保有し、保有後売却した場合に利益が残るようにと価格を決めたとしているもので、右のような価格設定は当然に本件不動産の所有権を移転することを前提とするものであり、そうであるからこそ杉山時矢もカズコーポレーションの代表取締役たる黒川和紀に「儲けさせてやるから不動産を抱いてくれ」と頼んでいるもので、仮装譲渡の行為でないことは明らかである。

更に、原判決では、日本リソースの担保評価額を下回った不動産売却価格である旨指摘するが、右主張は時代背景並びに本件事案を十分に把握していない机上の空論である。

被告人は昭和六二年頃から、今後不動産価格が下降することを予測していたが、その当時の一般的世相は不動産バブル期の最盛期であるかの状況であり、買えば儲かるとの様装で、金融機関は金融機関の方から糸目もつけず不動産取得の資金を借りてくれと頼む程であった。その際、融資額を大きくするため、その融資基準とする担保評価も甘く、且つ最上限の評価を求めたのである。

しかも、日本リソースは新設されたばかりのファイナンス会社であり、それまで赤字会社であった同社が、被告会社(当初は被告会社一社への融資であった)へ融資、しかも約八二億円にも達する多額の融資をすることは、同社を発展させる千載一遇の機会であったため、融資金が被告会社が望む金額にするように担保評価をすることは当然のことである。

従って、日本リソースの担保評価が売却価格を上回っていたとしても、何ら異とするものではない。又、取得原価と売却価格が異なることは当然で、不動産業においては取得原価を割って売却することも実際上しばしば行われているところであり、それが下回っているか上回っているかは売買当時の不動産の時価や不動産の現況、そして売買当事者間の状況・意見等で定めるもので、下回っているから仮装であるということはできないことは明らかである。

この点において、常に必ず売却価格が取得原価を上回るものと考えることは、取引の実情を知らない、又は無視したものという他ない。

ちなみに、現在においては、売却価格より更に大幅に下回った時価となっている。

加えるに、本件譲渡は低額で譲渡することをその主目的とするもので、原判決が、売買代金が鑑定評価額の合計額より著しく低額であることは、被告会社自身が低額で売買しようとしたのであるから、右低額で譲渡されたと認定するだけで仮装売買であったとの認定根拠にならないのである。

(三)、売買契約書の作成状況について

原判決は、「本件譲渡に関する各不動産売買契約書は、いずれも、大塚税理士によって、被告会社の法人税確定申告を終えた後の昭和六三年八月から九月頃に至ってようやく完成、作成されたものである。その内容については、売買の日付を昭和六二年四月や同年九月に逆上らせたものがあり、その中には登記簿上の登記原因の売買日付と異なっているものも少なくない。さらに、富士プロジェクト関係の昭和六二年九月を売買の日付とする契約書には、当時の同社の商号は前示のとおり『株式会社富士ランドプジェクト』であったのに、設立時の旧商号である『株式会社ハルク』を買主として揚げているほか、売主の表示に関し、七つの物件に関する契約書において、被告会社『専務取締役副社長杉山時矢』と事実と異なる記載がされているなど、極めて杜撰かつ恣意的な内容になっている。」としている。

しかしながら、売買とは、当事者間の意思の合致によって定まるもので、契約書も登記も必要としない。仮装売買は当事者間に右の売買の意思がない場合である。

その売買の目的・動機が何であろうと相手方に使用収益処分権を与える目的でその旨の合意をすれば十分である。

被告人及び被告会社は、当初、同族会社たる株式会社富士プロジェクトへ移転しようとし、それを実行したのであるから、売買の意思はあったのである。しかるに、大塚雄二税理士の指示により株式会社富士プロジェクト以外に株式会社カズコーポレーションや株式会社パイディアオーバーシーズが登場したのである。株式会社カズコーポレーションは、被告人が依頼し被告会社においても中枢に位置する杉山時矢が特に可愛がっている黒川の経営する会社であり、株式会社パイディアオーバーシーズは、被告会社の従業員楠本敦司の会社であり、最終的には被告会社、又は株式会社富士プロジェクトとの協力を期待できるグループ会社である。

被告人としては、何ら本件不動産の所有権を実質上移転しない理由はないのである。加えて、右のような関係であれば第三者との売買のように厳格に売買契約書等の作成が前になろうが後になろうが、売買そのものの効力には影響しないのである。

当事者間の意思として、売買をなす意思が存し、且つ所有権移転登記乃至引渡しあるいは担保権設定登記がなされた以上、売買が有効に成立したものであることはいうまでもない。

原判決が摘示する通り、「本件譲渡における売買契約書は極めて杜撰な内容となっている。」ことは被告人及び被告会社も認めるものであるが、右杜撰さは、委託をされた大塚税理士が、極めて杜撰な処理をしたことに由来するものであり、被告人及び被告会社が意図的に杜撰にしたものではない。

加えて、被告会社は、山一ファイナンスの抵当権を右譲渡物件に設定しているのである。仮装譲渡であるならば、右抵当権設定など絶対あり得ないのである。

売買契約書が杜撰であることが仮装売買の根拠・理由となり得ないことは明らかである。

(四)、登記手続の状況について

原判決は、「昭和六三年三月二八日から同月三一日にかけ、九段物件を除く一四の物件について、いずれも売買を原因とする所有権移転登記手続が行われた。そのうち、九つの物件については、同年三月二八日から三〇日の売買を登記原因としているものの、五つの物件については、超短期所有土地に関する譲渡利益の損益通算の関連で取引日を逆上らせる必要があったことなどから、その日付が昭和六二年九月二〇日とされている。残る九段物件については、同物件に関する契約書の記載とはまったく異なり、昭和六三年九月二一日付で真正な登記名義の回復を登記原因として富士プロジェクトに所有権移転登記手続が行われている。さらに、昭和六二年九月二〇日付売買を原因として富士プロジェクトに所有権移転登記手続が行われた円山町物件についても、昭和六三年九月にいずれも錯誤を原因として所有権移転登記の抹消登記手続や同回復登記手続が行われ、最終的には、平成元年六月九日付で真正な登記名義の回復を登記原因として被告会社に所有権移転登記手続が行われている。」と摘示している。

しかしながら、円山町の物件については、風俗営業上から被告人が被告会社に保有させる意図であったにも拘らず、大塚税理士が勝手に処分してしまったがため、被告人及び被告会社の意図とは違うとのことで、錯誤に基づき抹消登記等の手続をしたものであり、右登記手続の経由自体から本件譲渡が仮装のものでなかったと推認しうる証拠となるもので、決して仮装譲渡の積極的証拠となりうるものではない。

又、被告会社と株式会社富士プロジェクト、株式会社パイディアオーバーシーズ及び株式会社カズコーポレーションの三社との間の被告会社所有の土地建物一五物件についての売買契約は、いずれも有効に締結されたものであり、その履行としての売買代金の授受及び所有権移転登記並びに担保権設定登記の各手続も履践されているものである。

即ち、売買代金については、昭和六三年三月三一日に全部決済がなされ、所有権移転登記及び担保権設定登記についても同日申請手続が完了しているものである。

この売買代金授受及び所有権移転登記、担保権設定登記の完了という事実関係よりするときは、前記不動産の売買が真実なされたことは明らかであり、仮装となす理由など全く存しない。

加えて、登記はあくまでも民法上、公示の原則しかなく、公信の原則を採用していない。

登記簿記載と実体関係がかけ離れている場合も多々あるのである。

登記自体に若干の違いがあっても、そのこと自体、仮装とはならない。

(五)、代金決済の状況及び超過融資分の還流について

原判決は、「日本リソースの不動産担保融資の対象となった前記の八つの物件については、その売買代金のみでは、各物件に設定された既存の抵当権の被担保債権額には足りず、抵当権を消滅させることができないため、同代金額を超えて各買受先に融資し、その超過融資分を被告会社に還流させて被告会社の既存債務の弁済に充てることとした。その際、買受先の三社から直接被告会社へ金が流れることを隠蔽するために、資金の通過点として実態のない三弥鉱業株式会社を介在させ、各買受先からの同社に対する貸付け及び同社からの被告会社に対する貸付けの形を仮装して超過融資分を被告会社に還流させることにした。そのため、大分銀行東京支店に『三弥鉱業株式会社東京営業所長近藤久雄』という架空名義の普通預金口座を新たに開設するなどの工作をした。これらの事情についても、被告会社側が一方的に決めたことであり、楠本や黒川はまったく知らされていなかった。

右の八つの物件の代金決済は、登記手続を終えて融資が実行されると同時に前示のとおり行われ、超過融資分も被告会社に還流された。残りの七つの物件については、代金決済が留保されたまま、所有権移転登記手続が行われるなどし、当期は未収金として処理された。」として仮装譲渡の理由としている。

しかしながら、超過融資金の還流については、被告会社側が一方的に決めたのではなく、融資先である日本リソースからの発案であり、融資先自体が十分に認識していることであり、且つ、楠本や黒川にしても、本件譲渡の一切を被告会社に委ねていたもので、右認識がないことが仮装譲渡の根拠とならないことは明らかである。

以上のとおり、(1)乃至(5)の事実からしても、何ら仮装譲渡であるとの根拠・理由となるものではなく、原判決の独自な我田引水的結論である。

4、被告会社における社内処理の状況について

原判決は、被告会社における社内処理の状況について、「被告会社の経理事務担当者栗林久枝は、昭和六三年四月に、前示の日本リソースの融資の対象となった八つの物件の売上や三弥鉱業株式会社からの八億一〇〇〇万円の借入等について総勘定元帳に記帳し、同年七月には、残りの七つの物件の売上について同元帳に記帳していたところ、同年八月から九月頃に大塚税理士によって作成された右一五の物件に関する売買契約書に記載された売買の日付と同元帳の記載と食い違うものがあったため、同税理士の指示により、元帳の該当部分を契約書の記載どおりに新たに書き直している。」としている。

右事実が仮装売買である旨の理由には全くならず、逆に大塚税理士の主導のもと本件低額譲渡がなされたことを如実に示しているのである。

大塚税理士が被告人及び被告会社より依頼を受けたのは、低額譲渡における節税である。そのため、被告人より全権を委せられ、被告会社の従業員である栗林久枝をも使用しうる立場となった。

本来的には、事実に即した売買契約書を作成すべきであったにも拘らず、大塚税理士とは先に売買契約書を作成し、右契約書に合わせるよう事実の変更を命ずるといった委任権限を越えた行為をしたものである。

右事実改変のどこをとっても、被告人及び被告会社の意図は見い出せないのである。

5、本件譲渡後の状況について

(一) 権利証の保管及び各権利関係の変動等の状況について

原判決は、「本件譲渡後も、パイディアオーバーシーズ及びカズコーポレーションに対して売却物件の権利証(登記済証)は交付されず、被告会社がこれを保管していた」としている。

しかしながら、パイディアオーバーシーズもカズコーポレーションも、被告会社及び富士プロジェクトとは別会社であるが、本件の売買物件について、パイディアオーバーシーズの代表取締役楠本敦司の同意のもとなくされたものであり、同族会社あるいは同族に近い会社間では権利書等は一つの会社が合わせて保管するのが通常である。パイディアオーバーシーズがことさら権利書の交付を要求していたのであれば尚更、そのような要求も要請もしていないのである。

又、カズコーポレーションに関しては、杉山時矢は右代表取締役黒川紀和に対し、青葉台外三筆の不動産について最初、物件を買ってもらいたいという依頼をしているのである。買う程のお金がないと黒川が言うと、その後、不動産を抱いてくれとの依頼があったとのことである。

即ち、杉山の話は当初から売買の話であり、仮装譲渡の話ではなかったし抱いてくれという話も不動産業界ではよくある話で、「抱かせる」とは抱かせた側が資金調達から売買先の斡旋まで全てをして、そこから生じた利益を所有者となった抱いた側と分けあうような形態を総称するが、抱いた会社である株式会社カズコーポレーションが所有者であることは間違いのないことであり、若し儲かるようなら協力し、儲からないようなら協力要請を無視する自由意思は株式会社カズコーポレーションにもあったのである。

株式会社カズコーポレーションの代表取締役黒川和紀は、昭和六三年三月二九日、株式会社日本リソースにおいて自ら融資関係等の書類に記名押印したうえ移転登記申請の依頼までしている。

又、関連会社株式会社マックホームズに国税庁の査察が入るや、被告会社へ覚書を持ち込んできた。右覚書には、売買契約を前提としての事後処理を規定した、特に三項には被告会社が買い戻す旨の特約を明記しているのである。

加えて、株式会社カズコーポレーションが国税庁から査察を受けた昭和六三年一〇月一二日から、五~六回国税庁より事情聴取された際も『売買である』と主張していたのである。

株式会社カズコーポレーションが被告会社から買い受けた代官山の宅地については、東京地方裁判所で当事者間での売買の事実も認定されている。

右のような事情のもと、「抱かせる」物件については、権利書をカズコーポレーションに交付しないことは当然のことであり、カズコーポレーションも全て被告会社に委ねたものであり、権利書の所在そのものを重要視することは事実を過って判断しているのである。

次に、原判決は、「富士プロジェクトに売却した相模大野物件及びホテル社物件によるホテルの営業による売上、同社に売却した百人町、九段、久米川及び島一ビルの各物件から生ずる賃料収入、パイディアオーバーシーズに売却した中野区中央物件及びカズコーポレーションに売却した用賀物件から生ずる駐車場の使用料収入が、引き続き被告会社の銀行口座に入金さわるなどして被告会社が取得し、又、日本リソースからの三社に対する融資金の利息や各物件に課税される固定資産税も被告会社においてすべて支払っていた。」としているが、被告会社より買受けた株式会社富士プロジェクト及び株式会社パイディアオーバーシーズは、次のとおり買受不動産を第三者に転売している。

即ち、株式会社富士プロジェクトは、相模大野所在「サンシャイン」、久米川所在物件、西新宿所在物件の三物件を、株式会社パイディアオーバーシーズは、中野区中央所在物件及び新小川町所在の二物件を、それぞれ第三者に売却譲渡している。

株式会社富士プロジェクト及び株式会社パイディアオーバーシーズの両社とも、右物件の売却に伴なう公訴公課、特に譲渡所得に対しては、申告納付していることは勿論である。

又、未処分の不動産であるについても、右両社においてこれを使用収益しているものである。

原判決が、摘示するとおり、ホテルの営業による売上、賃料収入、駐車場収入等が被告会社の銀行口座に入金されているが、ホテルの営業による売上については、大塚税理士が被告人の指示、即ち、ホテルについては被告会社に残し、会社ごと売買しようとする意図に反して富士プロジェクトに売買してしまったもので、売買は錯誤無効であった。(後に錯誤で登記を戻している。)従って、ホテルの営業による売上を被告会社が取得することは何ら問題がない。又、賃料収入及び駐車場収入についても、二~三年物件を「抱えてもらい」、二~三年後売却並びに被告会社とカズコーポレーションとの間になされている以上、売買物件について使用・収益権限を付与されていたもので、何らこれも異とするものではない。

以上のとおり、被告会社より買受けた各社において、これを自らの所有として第三者に売買し、あるいは自ら使用収益している以上、被告会社との間の売買契約は適法有効になされたものであり、何ら仮装の売買ではないことは、もとより言うまでもないところである。

また、原判決は、「特に、カズコーポレーションに売却されたはずの青葉台物件については、被告人ら家族が引き続き居住を続けていたが、カズコーポレーションとの間で賃貸借契約が締結されるなどした形跡は全く見当たらず、被告会社がその一階ないし三階を事務所として使用していた百人町物件についても、被告会社から買受先の富士プロジェクトに対して賃料が支払われたり、使用権限について新たな契約が締結された形跡はない。」としている。

しかしながら、これも前述した如く、カズコーポレーションとの合意内容であり、カズコーポレーションとしては適宜本物件を被告会社又は被告人が利用・使用していたとしても、二~三年後売却利益を生じた際に回収できればよいのであって、カズコーポレーションが積極的に本件物件を利用・使用すべき必然性がないのである。例をあげれば、二~三年後土地利用を考えている場合、居住者に右期間立退猶予を与えるのと同様である。

被告会社とカズコーポレーションとの間での契約自由の原則は、右にも適用すべきものである。

(二)、パイディアオーバーシーズの決算について

原判決は、パイディアオーバーシーズの昭和六三年一二月期の決算について、「パイディアオーバーシーズの昭和六三年一二月期の決算の状況等について、昭和六三年一〇月に被告会社に対する国税局の査察が開始されたところ、平成元年三月ころに至って、パイディアオーバーシーズの昭和六三年一二月期の決算及び法人税確定申告に際し、当時成城物件について売買代金の清算手続が未了であったことから、この点を正当化する必要が生じ、既に同物件については売買代金の支払期日を昭和六三年三月三〇日とする昭和六二年九月三〇日付売買契約書が存在するのに、楠本や被告人らによって、同物件の売買契約上代金の支払期日は昭和六三年六月末であること及び買主であるパイディアオーバーシーズの都合によりこれを決済できず、翌七月末までに決済するよう努力することなどを記載した被告会社宛の同月三日付差入書が作成された。そして、同差入書の内容に合わせるため、新たに、昭和六三年六月末を代金支払期日とする同年三月二八日付売買契約書が作成された。」としている。

しかしながら、若し、仮装譲渡するのでなれば、右のような杜撰且ついいかげんな処理をしないのが常識である。

右処理は、被告会社及び被告人が依頼した大塚税理士の恣意的且つ杜撰な怠慢処理が原因である。

即ち、平成元年三月頃、パイディアオーバーシーズにおいて日付を昭和六三年七月末日に遡らせた書面及び被告会社との間の売買契約書が作成されたことについては、パイディアオーバーシーズの決算書類の作成を依頼した伊藤満邦税理士が確定申告書提出に際し、決算書類作成上、売買代金の決算が未了であったことから、同税理士より差入届等を作成した方が良いとのアドバイスを受け作成されたものであって証拠湮滅の意図など全くなかったのである。

しかも右差入書等を作成した時期は、決算期である昭和六三年一二月から平成元年三月頃までのことであり、国税庁の査察により既に売買契約書等全ての証拠物件を押収されていた後のことであって、如何に被告人堀口が抜けていたとはいえ、証拠湮滅することなど考えも及ばぬことである。

パイディアオーバーシーズのための決算に必要とのアドバイスで作成された書類等を、我田引水の如く証拠湮滅のための作成であると認定した原判決は、全く偏見と予断に基づいたものである。

6、原判決の認定事実に対する反論

(一)、原判決は、「(a)本件譲渡が一括して実行された時期、(b)各売買代金額が、結局は、専ら被告会社の登記の利益に見合う売却損を計上するために被告会社によって調整、決定されていること、(c)パイディアオーバーシーズ及びカズコーポレーションは、急遽、買受先として被告会社が探し出したものであり、その代表者である楠本や黒川は、真実の売買であれば最も重要な関心事であるはずの買受物件の選定や代金額の決定等に何ら関与しておらず、又、各社に対する日本リソースからの超過融資や超過分を被告会社へ還流することについても知らされていないこと、(d)買受先のうち富士プロジェクト及びパイディアオーバーシーズは、当時いずれも営業活動をしておらず、企業としての実体がなかったことが明らかであり、一方、カズコーポレーションは、企業としての実体は備えていたものの、被告会社との基本的人的関連は薄く、被告会社がことさらその所有不動産を著しい低額で譲渡して同社に利益を与えなければならないような特別の事情が何ら見当たらないこと、(e)売買契約書がないまま代金決済や登記手続が行われ、また、昭和六三年三月までに不動産担保融資の対象とならなかった七つの物件については代金決済を留保した状態のまま、先に登記手続が行われていること、(f)各売買契約書が、登記手続き後数カ月を経てようやく作成されているが、その内容は、登記簿の内容と食い違う点があるのみならず、損益通算等の関係があったとはいえ、売買の日付などが場当たり的に操作されており、真実の売買されたと考えるには全体的に極めて杜撰且つ恣意的な処理が行なわれているといわざるを得ず、例えば、パイディアオーバーシーズの関係では、査察開始後の平成元年三月に、成城物件についてのそれまでの売買契約書とは異なる新たな契約書が作成されていること、(g)本件譲渡後も、各物件による売上や賃料収入等は被告会社が取得し、それぞれに課税される固定資産税の支払や日本リソースへの支払等を被告会社が行うなどしており、結局は、各物件の所有名義が形式上変更になっただけで実質的な権利関係は何ら変更されていないことなどの諸点を総合すると、本件譲渡は、真実の売買ではなく、いずれも多額の法人税を免れるために売却損を計上する目的でされた仮装行為であると認めるほかはない。」としている。

しかしながら、

(a)については、当然に被告会社に譲渡益ができた時点で、被告会社及び同族会社の将来的展望を考え、右譲渡益を有効に利用しようとするのが経営者として当然のことであり、所有不動産を資産と商品に類分けし処理すべき時期が重なることは当然のことである。

(b)被告会社の当期の利益を基準に本件不動産の低額譲渡を考えたのであり、右低額譲渡が行為否認されぬために専門家である大塚税理士へ依頼したのである。

大塚税理士が低額譲渡が可能であるとの意見及び指導をしなければ、本件の如き事件は生じなかったことは明白である。

しかも、譲渡利益の範囲での低額譲渡(決して仮装売買ではない)を考えたのであるから、右理由は理由にならないのである。

(c)のカズコーポレーションやパイディアオーバーシーズについて、被告人及び被告会社は、当初、同族会社たる株式会社富士プロジェクトへ移転しようとし、それを実行したのであるから、売買の意思はあったのである。しかるに、大塚雄二税理士の指示により株式会社富士プロジェクト以外に株式会社カズコーポレーションや株式会社パイディアオーバーシーズが登場したのである。株式会社カズコーポレーションは、被告人が依頼し被告会社においても中枢に位置する杉山時矢が特に可愛がっている黒川の経営する会社であり、株式会社パイディアオーバーシーズは、被告会社の従業員楠本敦司の会社であり、最終的には被告会社、又は株式会社富士プロジェクトとの協力を期待できるグループ会社である。

被告人としては、何ら本件不動産の所有権を実質上移転しない理由はないのである。加えて、右のような関係であれば第三者との売買のように厳格に売買契約書等の作成が前になろうが後になろうが、売買そのものの効力には影響しないのである。

加えて、カズコーポレーションの代表者である黒川も、パイディアオーバーシーズの代表者の楠本も、被告会社及び被告人を信じ全てを委せているのである。

原判決摘示のように、黒川・楠本が不動産売買の詳細について知らないことが仮装には繋がらないのである。

若し、原判決摘示の通りであれば、黒川及び楠本が本件不動産売買契約書に自分自身で署名押印し、日本リソースが抵当権を設定すること自体も詳細に把握していなければならないのである。

黒川・楠本は、本件不動産の売買はするが、その内容等については被告会社及び被告人にその一切を委ねていたことは本件事案から見て明白である。

(d)パイディアオーバーシーズは、休眠的会社であったが、何時にでも実働できる会社であったし、それ故、本件売買によって営業活動を開始しても少しもおかしくない会社であった。また、カズコーポレーションは、被告会社とは人的資本的関係は薄い会社であるが、共に不動産の売買・仲介等を業とする同種企業である。カズコーポレーションは、本件不動産上の利益は二~三年後の転売利益にあることは十分に認識していたのであり、それ故に被告会社の杉山の申し出を受け入れたのである。また、カズコーポレーションが低額譲渡を受けることは、本件事件当時、バブルが崩れることを予想していない不動産業者にとって安く商品を仕入れるメリットがあったのであり、原判決摘示のカズコーポレーションに何らの利益がなかったとの認定は著しい誤りがあるものと言える。

(e)及び(f)については、売買契約書がないままの代金決済や登記手続は、依頼された大塚税理士の怠慢そのものである。

被告人や被告会社は、売買契約がなされているものと考えていたものであり、大塚税理士の無能力または怠慢であることは原判決の証言から明かである。

また、代金決済のないまま登記手続きがなされることは往々にして見られるものである。

殊に、同族会社においては日常茶飯事のことである。これ故に仮装売買ということはできない。

(g)については、二~三年被告会社が本件不動産を管理・占有することは本件売買の前提事実であった。登記が外部的になされ、譲渡の事実も譲受の事実を記載した譲渡会社と譲受会社の決算書を提出していながら仮装売買とは全く事実誤認ははなはだしいものである。

以上のとおり、原判決が挙げている(a)乃至(g)の理由には、全く理由がないのである。

(二)、原判決には、「(1)については、所有権移転登記手続が往々にして実体を伴わずに行われることは公知の事実であり、また、所論指摘の代金の決済、各買受先に対する融資及び抵当権の設定等も、結局は前示認定の経緯によるものに過ぎず、本件譲渡の仮装行為性と矛盾するものではない。さらに、本件譲渡に関する前示の客観的事実からすれば、その仮装行為性は明らかであり、関係当事者もその旨の認識を有していたと認めるのが相当である。この点に関し所論は、大塚税理士は、法人税確定申告後当局の調査が入り、交渉の末修正申告等をすることが予想されるという認識を有していたに止まるから、同税理士自身本件譲渡が仮装行為であるとの認識はなかった主張し、同税理士の供述中にも、税務当局の対応について右のように考えていたのでいきなり国税局の査察が入って驚いたとするものがあるが、これは単に同税理士の知識や経験不足により、その税務当局の動きに対する見通しが極めて甘かったことを示すに過ぎず、所論の証左となるものではない。(2)については、仮装行為によって作出された外観に基づいて、新たに法律行為等が積み重なることは当然ありうることであり(民法九四条二項参照)、所論指摘の転売等の事実が本件譲渡の仮装行為性と矛盾しないことは明らかである。また、弁護士主義や処分権主義が支配する私人間の民事事件で言い渡された判決の内容が、本件と直接的な関連性を有するものとは考えられない。」としている。

しかしながら、

(1)、所有権移転登記手続が往々にして実体を伴わず行なわれることが公知の事実であっても、登記は公示の性質を有しており、移転登記がなされたことによりその権利変動が如実に示されるのである。

被告人及び被告会社が仮装譲渡を意図する利益は全くないのである。国税当局は譲渡行為に従い低額譲渡行為を否認し、寄与行為として課税すれば足りるのであり、仮装する利益・理由がないのである。

原判決は仮装行為と代金決済、各買受先に対する融資及び抵当権の設定等と本件譲渡の仮装行為性と矛盾するものではないと認定しているが、仮装譲渡行為をなす際に、善意の第三者たる抵当権者が本件物件に抵当権を設定することは相矛盾するのである。

実際に、仮に、仮装譲渡行為であっても善意の第三者を入れることで譲渡行為の仮装性を主張し得なくなるのであり、譲渡行為が無いとの主張と譲渡行為が有効との法的効果を生じさせるもので、相矛盾することは当然である。

また、仮装譲渡行為に代金授受があること自体、相矛盾である。あくまでも仮装である以上、売買代金の交付があることと相矛盾するのである。

また、大塚税理士が法人税確定申告後当局の調査が入り、交渉の末修正申告等をすることが予想されるという認識を有していたとの事実を認定しているのであれば、修正申告が売買代金の修正があることは容易に判別できることである。

売買代金の修正申告をするとのことは、売買は仮装ではなく実体を伴う権利移転行為を示していることは明白である。

しかるに、原判決は、大塚税理士の知識や経験不足とのみ認定し、修正申告をすれば足りるとした大塚税理士の本件売買に関する認識を見過ごしているものである。

(2)、原判決は、「仮装行為によって作出された外観に基づいて、新たに法律行為が積み重なることは当然ありうることであり(民法第九四条二項参照)、所論指摘の転売の事実が本件譲渡の仮装行為性と矛盾しないことは明らかである。」と主張するが、原判決は、譲渡行為と同時に抵当権を設定している事実を看過ごしているのである。仮装行為と実体売買とを同時期・同時点ですることは相矛盾するのである。

この同時性を原判決は看過ごし誤って認定しているのである。

また、民事事件で言い渡された判決は、約二年の月日を経過して言い渡されたもので、その間カズコーポレーションから何ら民事上の救済手続をしていないのである。確かに、原判決のとおり弁論主義や処分権主義が支配する民事事件と刑事事件は相違するかも知れないが、本件で問題となっているのは本件物件の所有権の帰属、即ち、仮装売買か実体売買かを問題にしているのであり、民事事件の範疇の問題なのである。

原判決は、右所有権の帰属が民法に基づく処理であることを看過ごしているのである。

ところが、第二審判決も、「原判決挙示の関係証拠によれば、本件譲渡が仮装されたものである」と判示した。

即ち、第二審判決は、

「所論は、主に、被告人の捜査段階、原審及び当審公判における各供述、当審証人佐々木秀男及び同島津博雄の各証言などに依拠して本件譲渡が真実の売買であった旨を主張しているが、本件譲渡に関与したその余の者らの各供述、特に大塚雄二の原審及び当審各証言、黒川和紀の原審証言、杉山時矢、栗林久枝、浅沼文雄、楠本敦司の検察官に対する各供述調書等によれば、本件譲渡が仮装されたものであることは明らかであり、この点は、以下のとおり認定することができる本件譲渡に至る経緯、その内容及び譲渡後の状況等の客観的事実に照らしても、疑いがない。

本件譲渡が真実の売買であると認識していたなどとする被告人の一連の供述及び前示佐々木らの証言は信用することができない。」と判示した。

しかし、本件取引を決定し指導した税務専門家である大塚雄二の原審及び当審の各証言に夜も、「脱税」を指南したとの証言は何処にも存在しないし、大塚雄二自体、本件が脱税になるなど全く予想だにしていなかったことは、同人の証言から明らかである。

殊に、重大な問題は、大塚雄二は、東京国税局及び東京地方検察庁との取引により、不処分にしてもらうことを交換条件として、税理士としての良心を捨て、正に、上告人会社及び上告人堀口麗子を不当にも偽証で陥入れたものである。

即ち、大塚税理士にとっては、本件税務申告が刑事事件になるなどとは思ってもいなかったものであることは、同人の原審及び第二審での法廷での証言からも明白である。

又、黒川和紀の証言も、東京国税局及び東京地方検察庁との取引により、不処分にしてもらうことを交換条件として売買を否定しているが、取引前、取引時、取引後の諸事実からして偽証していることは明白である。

7、被告人の法人税ほ脱の故意等について

原判決は、「低額譲渡であっても真に売買の意思に基づくものであればほ脱にならないことは当然である。」としている。

右認定は当然のことである。翻って、本件事案を鑑みれば、被告人をはじめとする関係当事者においては、合法的な節税方法を考えこそすれ、不正な脱税など全く念頭になかったものであり、本件の税務処理も同族会社間乃至関係会社間においてしばしば行われる資産の低廉譲渡(これは子会社の援助、育成あるいは評価損の実現、その他さまざまな目的のために行われる)に過ぎないものであり、これに対しては、利益操作あるいは所得振替に当るとの観点から、損金性の当否より行為計算否認の可否が税務当局によって問題とされることはあっても、これに対して法人税ほ脱観点より問題とされることなど全く存しなかったものである。

それでは、何故、本来は単なる税務上の是、否認の問題であるに過ぎない低額譲渡が、本件ではほ脱事犯と取扱われるに至ったのか、この点の解明を通じて、もともと被告人をはじめ関係者にはほ脱の範囲など存する筈がなかったことが自づと明瞭となるものと考える。

その理由の最大のものは、大塚税理士が実際には未熟、未経験であるにも拘らず、若干の税法上の知識から自己過信に陥り、ことさら税務当局の誤解を招きかねない税務上の処理を行い、且つその適切妥当な対応を怠ったことと、かかる大塚税理士の能力知識を買い被り、ただひたすら同税理士を信頼しその指導処理に何らの疑いをも差し挟むことなく全てを任せた被告人はじめ関係当事者の軽率、無思慮が挙げられよう。

しかし、その軽率さ、あるいは無思慮を責めることはもとより、可能であったとしても、これをもってほ脱の犯意なり認識ありとなすことなどできよう筈がない。

それでは、右に述べた大塚税理士の未然且つ不手際な税務処理と、同税理士に対する過大評価につき見ることとする。

本件において、特徴的なこととしては、何よりも大塚税理士の自己過信と被告人らの大塚税理士に対する過大評価が挙げられる。

もともと大塚税理士は、正規の税理士試験を合格したことによる資格を取得したものではなく、国家試験の抜け穴と評されているダブルマスター(大学の法学研究科と商学研究科の各修士過程をそれぞれ二年で終了し、合計四年で二回の修士資格を持つことを示す)による全科目免除により税理士試験を無試験で資格を取得したものであるに過ぎない。

右の如き、税理士試験免除による資格取得者については、税理士試験が高度且つ厳格となり、その合格が困難となるに従い抜け穴として活用され、近時その数は激増するに至っている。

ところで、かかる試験免除による資格を取得した税理士に対しては、全く実務経験がなく、更に何らの研修制度も義務付けられていないため、能力、知識における質的低下がかねてより憂慮されると共に、規範意識の弛緩が指摘されているところである。

大塚税理士については、正に試験免除による資格取得者の欠陥が端的に露呈されていると見られるのである。

大塚税理士は、実際には実務経験に乏しく、又先輩よりの指導も殆ど受けたことがなく、従って、税理士として納税者に対する適切妥当な指導をなす能力、知識はなかったものであり、ただ実務経験に何ら裏付けされない生硬な若干の税法上の知識のみであったに過ぎないのである。

ところが、大塚税理士は自らの能力知識を過信したあまり、基本的には税法上許容される行為ではあるが、税務当局の強烈な拒絶反応を引き起こしかねず、ほ脱行為と疑いを招くがごとき税務上の処理を当然なものとして行い、且つこれに伴う税務署への事前打診なり折衝等、適切な処理を怠ったがため、税務当局にあらぬ疑いを引き起こすこととなり、ついに脱税と認められるに至ったものである。

他方、委嘱者である被告人らにおいては、大塚税理士が実際には理にのみ走ったきらいのある粗雑な処理を行い、且つ実務については未熟、未経験であることに気づかず、かえって逆に大塚税理士の学歴に惑わされ、且つ同税理士の大言壮語を鵜呑みにして同税理士を並の税理士とは違う能力、知識と卓越した実務経験を有する税理士と盲信し、なかんずく資産税乃至不動産税務の処理に極めて堪能熟知しているものと誤解し、同税理士の指導及び処理につき寸毫も疑いを差し挟むことなどなかったのである。誠に軽薄とも軽率とも言い得ようが、これは脱税の犯意とは全く結びつくものではなく、かえって逆に犯意のないことを示すと言えよう。

これが、本件の税務処理が、本来単なる同族乃至関係会社間取引であり、法人税法上、同族会社間の行為計算の否認の適用の可否にすぎないものであるのに、法人税法ほ脱事犯として取り扱われるに至った主因である。

要は、大塚税理士の未熟、未経験よりきた税務処理の不手際より、税務当局に法人税ほ脱と誤解を与え、査察更には告発へと至ったものであり、もし彼に被告会社におけると同様の会計税務処理が、熟達した税理士によってなされたとするならば、その行為計算の否認の可否をめぐり税務当局との折衝はあったにせよ、決してほ脱事犯として取り扱われることはなかったと認められるのである。現に、同族会社間の行為計算否認のなされた事例について、これがほ脱とされた例は全く存しないことからも明らかである。

このように考えるならば、本件においては、被告人はもとより大塚税理士をはじめとする関係当事者において、もともと脱犯の犯意なりほ脱の認識がなかったことは極めて明白と言えよう。

四、刑の量定と法の下の平等

仮に、被告人らが有罪であるとしても、被告人に対する原判決の量定は著しく不当である。

原判決は、量刑について、「本件は大塚税理士の関与なしには実行できなかったものであるのに、同税理士が処罰を免れていることを考慮すると、被告人に対しては、いまだ刑の執行を猶予すべきものとは認められないものの、検察官の求刑どおりに懲役四年に処した原判決の量刑は、その刑期の点でいささか重過ぎて不当であると言わざるを得ない。論旨は右限度で理由がある。」と判示したが、懲役三年六ケ月の実刑とした。

しかし、本件取引の重大な役割を果たした大塚税理士及び黒川らが全く不問とされ、自由の身でいることを考慮すれば、既に一一か月もの長期間に及ぶ自由を剥奪され甚大な苦痛と十分な制裁を受けている被告人を想えば百歩譲っても被告人も自由の身でいられるべきであり、それが、正義に叶い平等であると言うべきである。

しからば、本件では大塚税理士や黒川和紀と同様に、被告人の自由も保障されるべきであり、被告人に対して許容される処罰の上限は執行猶予付実刑判決とすべきで、執行猶予のない懲役三年六月の実刑判決は刑の量定が甚しく不当であり、明らかに法の下の平等に違反すると言える。

よって、原判決は憲法第一四条に違反し、破棄を免れない。

上告理由補充書

被告人 株式会社富士エステートアンドプロパティ

同 堀口麗子

右の者に対する御庁平成七年(あ)第一一七八号法人税法違反被告事件について、弁護人の上告趣意は次の通りである。

平成九年五月二日

右弁護人 鈴木正捷

同 松田義之

最高裁判所第一小法廷 御中

第一、黒川和紀の偽証

上告人株式会社富士エステートアンドプロパティは、株式会社カズコーポレーションとの間で上告人株式会社富士エステートアンドプロパティ所有の不動産四筆、金額で金一八億八、五七九万〇、七六〇円の売買損が生じたものであった。

ところが、右株式会社カズコーポレーションの代表取締役黒川和紀は、東京国税局の当初の聴取の段階では売買を認めていたものの、それでは脱税の共犯となる旨の恫喝をされ、且つ、反面、売買を否定すれば不問に付するとの取引をされるや徐々に変心し、後半になるや売買を否定するに至り、第一審及び原審の法廷においても売買の事実を否定する偽証をし通したものである。

ところが、その後、株式会社カズコーポレーションは、平成九年三月二七日付で第三者に金三、〇〇〇万円で売却しているものである。

右事実は、別紙添付証拠から明白である。

以上の事実からすれば、事実は、富士エステートアンドプロパティと株式会社カズコーポレーションとは間違いなく双方売買の意思をもって売買契約を締結したものであり、又、右事実が認定されなければならないものである。

更に、既に原審までの間に、上告人株式会社富士エステートアンドプロパティと株式会社パイディアオーバーシーズとの間で売買された三筆の物件、売却損金一六億五、四五五万八、七〇〇万円分についても同様に第三者に売却され、税金も支払われているものである。

右事実誤認は、本件全体売買損のうちの金額で金三五億四、〇三四万九、四六〇円と総損害額の実に七六パーセント及び筆数では七筆と四六パーセントと半分近くに及ぶものであり、右事実を前提とした場合、仮に、他の物件の売買に問題があるとしても量刑に大きく影響するものといえるものである。

又、原審及び控訴審は、黒川和紀の偽証による誤った判断になったものであり、上告棄却ともなれば、再審事由に該当するもので、裁判手続上も不経済となるものであり、ぜひ破棄差し戻しの判決を求める次第である。

又、他社においても同様自らが買い受け、自己の所有物件として第三者に売却し、財務処理も完了しているものであり、売買の事実がないとの判断は明らかに事実に反するものと言わざるを得ない。

よって、原審判決は破棄されるべきである。

第二、証拠書類

一、株式会社カズコーポレーションの商業登記簿謄本 一通

代表取締役 黒川和紀

代表取締役 赤沼かがみ

二、土地売買契約書 一通

三、土地登記簿謄本 一通

別紙物件一覧表<12>のうちの一部

以上

物件一覧表

<省略>

履歴事項全部証明書

東京都新宿区左門町6番15号

株式会社カズコーポレーション

<省略>

東京都新宿区左門町6番15号

株式会社カズコーポレーション

<省略>

東京都新宿区左門町6番15号

株式会社カズコーポレーション

<省略>

<省略>

土地売買契約書

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-16 全部事項証明書 (土地)

<省略>

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-16 全部事項証明書 (土地)

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-16 全部事項証明書 (土地)

<省略>

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-16 全部事項証明書 (土地)

<省略>

平成七年(あ)第一一七八号

上告趣意補充書

被告人 株式会社富士エステートアンドプロパティ

同 堀口麗子

右被告人らに対する法人税法違反被告事件につき、次のとおり上告趣意を補充する。

平成九年五月六日

右主任弁護人 木下良平

弁護人 河本仁之

最高裁判所第一小法廷 御中

上告趣意については、すでに提出ずみの上告趣意書において述べているものであるが、さらに右内容につき次のとおり若干補足敷衍して述べることとする。

事実誤認の主張

一、原判決の認定した本件譲渡の仮装行為性について、これが全くの事実誤認であることは、上告趣意書三、事実誤認の主張2、「原判決の認定した本件譲渡の仮装行為性について」(イ)(ロ)(ハ)(ニ)において主張するとおりである。

即ち、本件譲渡後における不動産の使用及び売却処分ならびに差押処分の事実関係よりすれば、これが真実の売買であり、なんら仮装行為を推認させるものではあり得ないこと、又そもそも被告人らにおいて仮装とすべき理由なり必要性は全く存しなかったこと、さらに本件譲渡後における本件物件の第三者への転売と第三者の有効な所有権取得、譲渡所得課税と買主カズコーポレーション(現商号株式会社アーバンポート)の所有である旨の確定民事判決及び同社に対する強制執行処分及び滞納処分よりすれば、本件売買がなんら虚偽仮装ではなく、実際に締結され有効適法であることが客観的に明白であるという他ない。

二、

(一) ところで、本件譲渡において買主カズコーポレーション(現商号株式会社アーバンポート)の買受物件中、原判決添付別紙三物件一覧表番号12の物件名「代官山」(所在渋谷区恵比寿西一丁目、地番二四六番一三、地目宅地、地積二一三・七八m2)については、平成六年三月二四日東京地方裁判所競売開始決定(申立人山一ファイナンス株式会社)及び同年七月一九日神田税務署差押(債権者大蔵省)がなされているところ、平成九年三月四日競売による売却に続き、同年四月一一日売買により株式会社エスジェイアンドエイチシィーが所有権を取得したものである(添付の東京都渋谷区恵比寿西一丁目二四六-一三の土地登記簿全部事項証明書参照)。

これよりすれば、本件譲渡により買受人株式会社カズコーポレーション(株式会社アーバンポート)が取得した物件に対し、債権者及び国税当局も売買が現実になされ有効適法であることを認め、それを前提として競売手続においても同様に競落にまで至り、さらに第三者に転売されているのである。

(二) さらに分筆前の右(一)「代官山」の物件の一部である私道用地の所在渋谷区恵比寿西一丁目、地番二四六番一六、地積一九・九六m2については、確定民事判決によた被告会社より本件売買により株式会社カズコーポレーションの所有となったところ同様に債権者より仮差押と東京国税局より差押をうけるに至ったが、同社が滞納税金を納付すること等により、差押解除によって(一)物件の競落人及び転得者が取得したものである。(添付の東京都渋谷区恵比寿西一丁目二四六-一六の土地登記簿全部事項証明書及び差押解除通知書参照)

三、以上によって明らかなとおり、被告会社より本件売買によって取得した物件につき、買受人株式会社カズコーポレーションに対し、同社の債権者及び税務当局により差押がなされており、しかも競落による第三者の取得にまで至っているものであり、これよりすれば、本件売買が現実に実現され、かつ適法有効であることは自明というべきであり、そこにはこれをもって虚偽仮装とする余地など全く存しないことは明らかであって、ひいては本件において仮装譲渡と認定されているその他全ての取引が同様に適法有効な売買であることを強く推認させるものと思料するものである。

以上

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13 全部事項証明書 (土地)

<省略>

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13 全部事項証明書 (土地)

<省略>

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13 全部事項証明書 (土地)

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-13 全部事項証明書 (土地)

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東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-16 全部事項証明書 (土地)

<省略>

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-16 全部事項証明書 (土地)

<省略>

東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-16 全部事項証明書 (土地)

<省略>

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東京都渋谷区恵比寿西1丁目246-16 全部事項証明書 (土地)

<省略>

差押解除通知書

<省略>

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